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52 トルガレントへの帰還
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ヴェルティル様─もとい、アラスター様と想いが通じ合ってから2日後に、私はシーフォールス王国のトルガレント辺境地へと戻って来た。勿論、アラスター様の付き添いで。
『国を跨ぐ転移魔法は、本来なら、滅多に使用する事はできないんだけど、今回だけ特別に許されたんだ。だから…訓練残りの2年は、なんとか我慢する代わりに、婚約だけでもしておきたい』
と言われたのが、トルガレントに戻って来る2日前。勿論、私の返事は『はい!お受けします!』しかなかった。それでも、私がトルガレントに戻るから、婚約成立迄は数ヶ月は掛かるかな?と思っていたけど──
「この指輪は、ずっと身に着けていて欲しい」
「はい!」
何故か、トルガレントに戻る日の朝には、婚約が成立していた。
ーえ?何で??おかしくないですか?ー
婚約するにあたって、両家の挨拶やら書類の作成やら、その作成した書類の提出、貴族の婚約婚姻には王家の承認も必要となる。それらが、1日で終わる筈がない。
「あの…たった1日で婚約成立って……それに…あの…ヴェルティル伯爵や夫人は、私が獣人だと知ってますか?」
昔程ではないけど、未だに獣人を嫌う人間や、人間を嫌う獣人が居るのは確かだ。
「俺の家族も使用人達も、リュシーが獣人だって知ってる。反対する者は誰も居ない。俺が伯爵を継ぐ訳でもないし…もし居たとしても…問題にはさせないから大丈夫。レイモンド殿下も、良い仕事をしてくれたから」
ーあぁ…やっぱりアラスター様は腹ぐ……ー
「─つ!?」
「これで、ようやく遠慮なくリュシーに触れられる」
そう言いながら、アラスター様は私を抱き寄せた。
それから、アラスター様は2日トルガレントに滞在した後、ユーグレイシアへと帰って行った。
「結局…言えなかった……」
「何が?」
「わぁっ!ベリンダ!」
「まさか、王都に行ったリュシーが、婚約者を連れて戻って来るとは思わなかったわ」
「私自身が、一番信じられない事だったりするけど…」
「よし!詳しく話してもらうわよ!」
そして、その日は久し振りにベリンダとスタンとワイアットの4人で夕食を食べる事になった。
******
「まるで恋愛小説みたいな話ね。少し納得いかないところもあるけど…」
「他国に迄追い掛けて来るって、よほど愛されてるんだな」
「あ……愛!?」
「………」
ベリンダ達には全て話す事はできないから、ユラや森での出来事は伏せて話した。
「兎に角、おめでとうリュシー。後2年はユーグレイシアには帰れなくて寂しいかもしれないけど、一緒に頑張ろうね」
「ありがとう、ベリンダ。残りの2年、頑張るわ!」
私の話が終わった後は、私が不在だった間の話を聞いたりしながら、久し振りのベリンダ達との食事を楽しんだ。
******
「それじゃあ、また明日ね」
「また明日」
「ワイアット、リュシーをよろしくね」
今日もまた、ベリンダとスタンの2人と別れて、ワイアットに送ってもらう事になった。
「ワイアットも律儀よね…あ、ここで少し話でもして時間をつぶしてから、家に帰る?」
態々送ってもらうのも申し訳無いし、何より…婚約者ができた身で、2人きりで帰るのもどうなのか…と、思ったりしなくもない。
「あ…少し話がしたいから…ついでに送って行く」
「話?うん…分かったわ」
取り敢えず、話があると言われて今日は送ってもらう事にした。
「「……………」」
ー“話がしたいから”と言われなかったっけ?ー
歩きだしてから暫く経っても、ワイアットは黙ったままだ。そう言えば、食事の時も口数が少なかった事を思い出した。
「ワイアット、ひょっとして、体調が悪かったりする?大丈夫?」
「あ…大丈夫。ごめん、少し考えを整理してたんだ…なぁ、リュシー…」
「ん?何?」
「お前は、本当に…その婚約者の事が好きなのか?」
「え?」
「そもそも、その婚約者が“契約の恋人だった”って言っただけで、それが本当の事なのかどうか、その間、本当に2人の間に何もなかったのかなんて、分からないだろう?口だけなら…何とでも言えるだろう?」
「それは……」
それは、私だって考えなかった訳じゃない。“好きだ”なんて、簡単に言える人は簡単に言うのだから。
でも、リリアーヌ様のイーデン様への想いは本物だと思う。王太子妃候補になりながらも、それを蹴って伯爵令息と2人で商会を立ち上げ、公爵に文句を言わせず婚約、結婚に辿り着いたのだから。それに、私にだけは絶対に嘘はつかないだろう王太子様も、2人が本当の恋人ではないと言ったのだから、そうなんだろうと思う。それに…何となく…私を逃さない為にアラスター様が色々と動いていたと思われる事もある訳で……。
「嘘はついてないと思う。それに…私…本当に彼が好きなの」
叶う事は無い─と思って逃げた私だけど、やっぱり忘れられる事も逃げる事もできなかった。
「そうか…それなら良かった…あ、一つ、お願いがあるんだけど…聞いてくれるか?」
「ん?何?」
「妹の誕生日プレゼントを何にするか悩んでて…良かったら、一緒に選んでくれないか?」
「そんな事なら喜んでお手伝いするわ」
ワイアットが、妹と仲が良い事も知っているし、去年もプレゼントに悩んで苦労をしていた事を知っていた私は、何も悩む事もなくワイアットのお願いを聞き入れた。
『国を跨ぐ転移魔法は、本来なら、滅多に使用する事はできないんだけど、今回だけ特別に許されたんだ。だから…訓練残りの2年は、なんとか我慢する代わりに、婚約だけでもしておきたい』
と言われたのが、トルガレントに戻って来る2日前。勿論、私の返事は『はい!お受けします!』しかなかった。それでも、私がトルガレントに戻るから、婚約成立迄は数ヶ月は掛かるかな?と思っていたけど──
「この指輪は、ずっと身に着けていて欲しい」
「はい!」
何故か、トルガレントに戻る日の朝には、婚約が成立していた。
ーえ?何で??おかしくないですか?ー
婚約するにあたって、両家の挨拶やら書類の作成やら、その作成した書類の提出、貴族の婚約婚姻には王家の承認も必要となる。それらが、1日で終わる筈がない。
「あの…たった1日で婚約成立って……それに…あの…ヴェルティル伯爵や夫人は、私が獣人だと知ってますか?」
昔程ではないけど、未だに獣人を嫌う人間や、人間を嫌う獣人が居るのは確かだ。
「俺の家族も使用人達も、リュシーが獣人だって知ってる。反対する者は誰も居ない。俺が伯爵を継ぐ訳でもないし…もし居たとしても…問題にはさせないから大丈夫。レイモンド殿下も、良い仕事をしてくれたから」
ーあぁ…やっぱりアラスター様は腹ぐ……ー
「─つ!?」
「これで、ようやく遠慮なくリュシーに触れられる」
そう言いながら、アラスター様は私を抱き寄せた。
それから、アラスター様は2日トルガレントに滞在した後、ユーグレイシアへと帰って行った。
「結局…言えなかった……」
「何が?」
「わぁっ!ベリンダ!」
「まさか、王都に行ったリュシーが、婚約者を連れて戻って来るとは思わなかったわ」
「私自身が、一番信じられない事だったりするけど…」
「よし!詳しく話してもらうわよ!」
そして、その日は久し振りにベリンダとスタンとワイアットの4人で夕食を食べる事になった。
******
「まるで恋愛小説みたいな話ね。少し納得いかないところもあるけど…」
「他国に迄追い掛けて来るって、よほど愛されてるんだな」
「あ……愛!?」
「………」
ベリンダ達には全て話す事はできないから、ユラや森での出来事は伏せて話した。
「兎に角、おめでとうリュシー。後2年はユーグレイシアには帰れなくて寂しいかもしれないけど、一緒に頑張ろうね」
「ありがとう、ベリンダ。残りの2年、頑張るわ!」
私の話が終わった後は、私が不在だった間の話を聞いたりしながら、久し振りのベリンダ達との食事を楽しんだ。
******
「それじゃあ、また明日ね」
「また明日」
「ワイアット、リュシーをよろしくね」
今日もまた、ベリンダとスタンの2人と別れて、ワイアットに送ってもらう事になった。
「ワイアットも律儀よね…あ、ここで少し話でもして時間をつぶしてから、家に帰る?」
態々送ってもらうのも申し訳無いし、何より…婚約者ができた身で、2人きりで帰るのもどうなのか…と、思ったりしなくもない。
「あ…少し話がしたいから…ついでに送って行く」
「話?うん…分かったわ」
取り敢えず、話があると言われて今日は送ってもらう事にした。
「「……………」」
ー“話がしたいから”と言われなかったっけ?ー
歩きだしてから暫く経っても、ワイアットは黙ったままだ。そう言えば、食事の時も口数が少なかった事を思い出した。
「ワイアット、ひょっとして、体調が悪かったりする?大丈夫?」
「あ…大丈夫。ごめん、少し考えを整理してたんだ…なぁ、リュシー…」
「ん?何?」
「お前は、本当に…その婚約者の事が好きなのか?」
「え?」
「そもそも、その婚約者が“契約の恋人だった”って言っただけで、それが本当の事なのかどうか、その間、本当に2人の間に何もなかったのかなんて、分からないだろう?口だけなら…何とでも言えるだろう?」
「それは……」
それは、私だって考えなかった訳じゃない。“好きだ”なんて、簡単に言える人は簡単に言うのだから。
でも、リリアーヌ様のイーデン様への想いは本物だと思う。王太子妃候補になりながらも、それを蹴って伯爵令息と2人で商会を立ち上げ、公爵に文句を言わせず婚約、結婚に辿り着いたのだから。それに、私にだけは絶対に嘘はつかないだろう王太子様も、2人が本当の恋人ではないと言ったのだから、そうなんだろうと思う。それに…何となく…私を逃さない為にアラスター様が色々と動いていたと思われる事もある訳で……。
「嘘はついてないと思う。それに…私…本当に彼が好きなの」
叶う事は無い─と思って逃げた私だけど、やっぱり忘れられる事も逃げる事もできなかった。
「そうか…それなら良かった…あ、一つ、お願いがあるんだけど…聞いてくれるか?」
「ん?何?」
「妹の誕生日プレゼントを何にするか悩んでて…良かったら、一緒に選んでくれないか?」
「そんな事なら喜んでお手伝いするわ」
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