消えた治癒士への執着は棄てて下さい

みん

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1 プロローグ

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「これで最後だな」
「そうですね。ここまで順調に来れたのもナナカのお陰ですね」
「そうだな。本当に聖女ナナカはよくやってくれたな」

“聖女ナナカ”

異世界から召喚されてやって来た異世界人。黒色の髪と瞳の少女。魔法の無い世界からやって来たナナカは、元の世界では難病を患っていたらしく、最後の記憶は病院のベッドの上で、両親と弟が泣いていたそうだ。死を迎えた筈のナナカが、次に目を覚ますとこの世界に来ていたそうだ。
それは、過去の文献にも残っている話と一致するものだった。


この世界には魔法があり、魔力や魔素で溢れている。その為に200年~300年に一度、溢れた魔素に亀裂が生じてその亀裂から魔獣が現れる。普段から魔獣は現れたりもするけど、亀裂ができると、数多くの魔獣が一斉に現れる為、被害が甚大なものになる。それを防ぐ為に、聖女となる者が召喚される。
勿論、私達が勝手に召喚できる訳ではなく、神々からの神託を受けてからの召喚だ。

ナナカもそうやって、神託を受けて召喚されてやって来た少女だった。まだまだ親の保護が必要な年齢の少女。魔法の無い異世界から来たのにも関わらず、膨大な光の魔力を内に秘めていたのは、神々に認められ選ばれて召喚された者だからだろう。過去に召喚された聖女達もそうだったそうだ。中には、聖と言いながら男性も居たそうだ。

ーそれはそれで会ってみたかったー

コホン──

今回召喚されて来た聖女ナナカは、何にでも真っ直ぐに進む努力家だった。見た目も可愛らしく素直な子で、あっと言う間に周りの人間と仲良くなり誰からも好かれる、とても純粋な聖女となった。過去には、自身の力に傲る問題のある聖女も居たそうだけど、ナナカは常に謙虚で控え目で、庇護欲がそそられるような雰囲気さえあった。

そんなナナカのお世話役に、中流の伯爵家の令嬢である私─ジルダ=イデリアル─が選ばれた理由は、水と風の二つの属性の魔力持ちで、治癒能力に長けていた上に、王太子の婚約者だったから。魔力の扱いについての指導も兼ねてだった。

『兄や姉が欲しかった』

と言っていたナナカは、私や王太子殿下によく懐いている。私も妹が欲しかったから、ナナカの事は可愛がりまくった。

そんなナナカと共に訓練をして1年。複数の国から有能な騎士や魔法使いが集められたパーティーが組まれ、亀裂の封印と浄化をする旅が始まった。そのパーティーに、ナナカのお世話役の私と王太子殿下も含まれていた。王太子殿下も火と土の二つの属性の魔力持ちで、剣術にも長けていたし、王太子として聖女を護ると言う事もあったからだ。聖女とは、神々から遣わされた、この世界を救ってくれる存在だからだ。それ故に、他国の王族の者がパーティーの一員だったりする。
バズラス王国から来た獣人国の王子なんて、自由奔放な性格で、他人の懐に入るのが上手い。剣の腕前は、このパーティーでも1、2を争うほどの実力がある。『流石は獣人!』と言ったところだ。

兎に角、亀裂の近くでは魔獣が現れる事もあったけど、大量に一斉に現れる前に対処できた事もあり、旅は比較的に順調に進み、出立してから1年ほどで最後の亀裂の場所に辿り着いた。その最後の亀裂は、今までの亀裂よりも比較的小さなもので、それが故に最後の場所と指定された場所でもあった。

「小さい亀裂だからでしょうか?今迄とは少し違う感じがしませんか?」
「そうかな?私には違いがよく分からないが……」

ー殿下がそう言うなら、気のせいかな?ー

今まで対処してきた亀裂からは、不穏な感じが漂っていた。目の前にある亀裂からは、不穏と言うより“が纏わり付く”ような感じがある。

「小さな亀裂だからか、周りに魔獣がいる様子も無いから、早速封印に取り掛かろうか」
「……そうですね………」

ー何となく嫌な予感はするけど、魔力に敏感な殿下がそう言うなら、大丈夫だよねー

亀裂の封印は魔道士達がして、封印を確認できたら聖女が浄化をする。その為に、殿下と私が下がり魔道士達を呼ぼうとすると

「何だか嫌な予感がしないか?」

そう声に出したのは、バズラス王国の王子で赤狼獣人のラドルファス様だった。

「そうなのか?私には分からないのだが…」
「んー………」

困ったような顔をする殿下と、首を傾げるラドルファス王子。ただ、獣人であるラドルファス王子の方が直感が鋭いのは確かだ。この1年で、その直感に助けられた事も多々あった。周りの者達もそれが分かっているのだろう。そのラドルファス王子の一言で、一瞬にしてピリッとした空気に一変した。

「とにかく、警戒しながら封印を始めよう」
「「「了解です」」」

嫌な予感がすると言う理由だけで封印をしない─と言う事になる訳ではない。封印はしなければならないモノだから。

そうして、少しの不安を抱きながら、最後の亀裂の封印が始まった。



「ジルダも何も感じない?」
「私も……少し違和感はあります」

魔道士達の封印が始まり暫くしたところで、私に声を掛けて来たのはラドルファス王子だった。近くに殿下が居なかった事もあり、私は素直に感じていた事を話した。

「そうだよな?この違和感、セオドリクとジルダなら感じていると思ったんだけどね」
「………」

確かに、私より魔力に敏感な殿下が感じていないのは──と思っていたけど、ある意味魔力の相性や属性の違いもあるから、一概におかしいと言えないのも事実だ。

「ま、どうしたって封印はしなきゃいけないから、見守って、何かあったら対処するだけだけどね」
「そうですね」

そうして、少し警戒しつつ進んで行く封印は特に問題無く終える事ができた。

「杞憂だったね」
「ですね」

と、私とラドルファス王子が安心して笑い合う。

「では、浄化しますね」
「ああ、よろしく頼む」

封印が終わると、残すは聖女ナナカによる浄化だけ。ナナカはいつも通りに封印された亀裂の前に立ち、胸の前で両手を組んで目を閉じて祈り始める。そうすると、ナナカの体から金色の光が溢れ出す。

ー何度見ても綺麗よねー

眩しいほどに辺り一面が光り輝く。



『待ちかねたぞ』

「今、何か────っ!?」

聞こえた?と言いかける前に、封印された亀裂の真下に魔法陣が現れ、その魔法陣から真っ黒な煙のようなモノが溢れ出した。

「きゃあーっ!」
「「ナナカ!!」」
「「「ナナカ様!!」」」

亀裂に一番近くに居るのは、浄化中の聖女ナナカ。だから、ナナカを護る為に周りに居た者達が一斉にナナカに駆け寄る。私もそのうちの1人──だった。

「っ!?」
「ジルダ!?」

魔法陣から溢れ出した黒い煙は、聖女ナナカではなく、私の方へと真っ直ぐに向かって来た。

ー何故!?ー

それは一瞬の出来事だった。

「ジルダ!!」

一瞬のうちに私は黒い煙に包み込まれた。

「ジルダ!!」

目の前が一瞬にして暗闇になり、何かに足を掴まれて何処かに引きずり込まれるような感覚に襲われた。

ー何!?一体何が!?ー

それから、何かが失われて行く様な感覚と共に足元からジワジワと痛みが広がって来た。

「なっ───だれ……か……たすけ………っ」
「ジルダ!」

私の名を呼ぶのはラドルファス王子。

『✳✳れな✳✳おとなしく✳✳の✳✳となれ』

ー何を……言っているの?この…声は……ー

あまりの痛みに耐え切れず、意識を手放す。





『✳✳✳✳✳✳、今はこれが────』



意識を失う前にかすかに聞こえたのは、何故か……安心するような声だった。




ーナナカが……無事で……あります……ようにー




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