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12 噂話
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カリーヌさんの件がアッサリ解決してから半年。
このまま穏やかに過ごせるかも─と思い掛けた頃、ある噂話が広がり始めた。
聖女が現れるのは、国に張られた結界が、土地の穢れによって弱まって来た時。そのまま放置すると魔獣や魔物が溢れ出し、世界の平和が崩れてしまうから。そうならない為に、神や女神が異世界から聖女を召喚すると謂れている。だから、今現在、魔獣や魔物が溢れている訳ではないし、土地の穢れも早急な浄化が必要と言う事もない。だから、浄化の力を持っているモモカも、学校に通いながら少しずつ国を回って浄化している。
治癒の力を持っているコユキは、その浄化に同行したり、余裕がある時は神殿で怪我人を治癒したりしている。そんな中で広がり始めた噂話は──
『王太子様は、いつも浄化の聖女様に付き添っているそうよ』
『先日の浄化にも、王太子様自らが、聖女様の護衛として同行したとか……』
『浄化の聖女様と王太子様は、よく街へお出掛けになるそうよ』
『王太子様と聖女様とだなんて、素敵な2人よね』
「本当にすみません!」
「コユキが謝る事ではないでしょう?」
「ベレニス、すまない…」
「リッカルド殿下も、謝る必要なんてありませんわ」
ここは、学校内にある王族や高位貴族専用の休憩室。そこで、リッカルド殿下とベレニス様とコユキとウィル様と私の5人でお茶を飲んでいる。
「ベレニスと王太子の婚約は、正式に決まってはいないんだろう?」
「そうなんですか!?」
正式に決まっていると思っていた。でも、他国から来たウィル様が知っていると言う事は、私が知らなかっただけで、一般的に知られている事なんだろうか?
「そうよ。ほぼ決まりかけていたけど、お父様が学校を卒業する迄は“仮”にして欲しいと言って譲らなかったのよ。それでも、私が正式な婚約者だと思っている人は多いと思うわ」
「テイロード公爵は、家族第一主義者だからね。成人する迄は自由にさせてやりたいし、できれば恋愛結婚して欲しいと思っているみたいだから」
「だから、余計に気にしなくて良いわ。そもそも、王太子妃になりたいとも思っていないから。あの2人が本当に想い合っているなら、そうなれば良いだけよ」
と、ベレニス様は特に表情を変える事なく紅茶を飲んでいる。
ー王太子とベレニス様はお似合いだと思っていたけど、実際の事は分からないものなんだなぁー
王太子が聖女とは言え、黒色持ちのモモカが婚約者にでもなれば、フランシーヌが暴れそうだ。
「兎に角、私は婚約者ではないし、ミリウス殿下に恋心を抱いているわけでも、王太子妃や王妃になりたいとも思っていないから、この噂話を気にする事も気に病む事もないわ。だから、コユキも気にする必要はないわ」
「はい……」
ホッとしたように笑ったコユキは、そこでようやく紅茶を口にした。
******
「アンバー!待ちなさい!」
「……フランシーヌ様、何か用ですか?」
「何か用ですか?ですって!?アンタ、とぼけるのもいい加減にしなさいよ。アンタのお陰で、私達がどんなに苦労しているか!」
補助金を受け取る事ができなくなって、使えるお金が減った事への怒りだろう。
「今、私を保護してくれているのはスペンサー様です。それに、これは国王陛下自ら指示して下さった事なので、黒色持ちの無能な私如きが判断する事ではありませんから。文句があるなら、国王陛下に仰って下さい」
「なっ!死にかけてたところをお父様に拾ってもらって生き延びたくせに…生意気な事を。留学生の世話役になって、リッカルド殿下達と仲良くなって調子にのってるんじゃないの!?アンタは何も変わらない。無能なくせに!」
「話はそれだけですか?それだけなら、失礼します」
フランシーヌを目の前にして、怖くない─とはまだ言い切れないし、言われた言葉で心は抉られる。それでも言い返せたのは、私にも私を思って優しくしてくれる人達が居るから。
「待ちなさい!まだ話は───」
「やめ─────えっ!?」
掴まれた手を振り払うと、バランスを崩して──
手を伸ばした先に見えたのは、ニヤリと笑うフランシーヌと
「アンバー!」
必死に私に手を伸ばして走って来るコユキの姿だった。
******
『シロ、クロお疲れ様』
『『主様!』』
真っ白な毛並みと真っ黒な毛並みの狐が、主様と呼ぶ狐の元へと駆け寄る。
『お前達のお陰で、あの領地も豊かになるわ』
『なら、暫くは主様と一緒に居られる?』
『勿論よ』
『『やったー』』
『**ありがとうございます』
『**のお陰で、この領地も国も安泰です』
シロとクロは、その言葉一つで喜び、そのまま姿を消して行った。そんな平穏な日々を送っていた。
それが何年経ったかは分からないが、それは少しずつ崩れていく事になる。
「黒は不吉の象徴」
「黒は恐怖の対象」
『私は不吉な者になってしまったの?』
『クロもシロと同じよ』
『民が私達を忘れてしまっただけ…』
ただただ、人々に幸せを願われて、人々に幸せを運んでいただけだった。そんな私達は、人々に忘れられてしまえば、その存在自体が脆くなってしまう。
『これからの事を、**様に相談して来るわ』
その主様の言葉が、私達最期への始まりだった。
このまま穏やかに過ごせるかも─と思い掛けた頃、ある噂話が広がり始めた。
聖女が現れるのは、国に張られた結界が、土地の穢れによって弱まって来た時。そのまま放置すると魔獣や魔物が溢れ出し、世界の平和が崩れてしまうから。そうならない為に、神や女神が異世界から聖女を召喚すると謂れている。だから、今現在、魔獣や魔物が溢れている訳ではないし、土地の穢れも早急な浄化が必要と言う事もない。だから、浄化の力を持っているモモカも、学校に通いながら少しずつ国を回って浄化している。
治癒の力を持っているコユキは、その浄化に同行したり、余裕がある時は神殿で怪我人を治癒したりしている。そんな中で広がり始めた噂話は──
『王太子様は、いつも浄化の聖女様に付き添っているそうよ』
『先日の浄化にも、王太子様自らが、聖女様の護衛として同行したとか……』
『浄化の聖女様と王太子様は、よく街へお出掛けになるそうよ』
『王太子様と聖女様とだなんて、素敵な2人よね』
「本当にすみません!」
「コユキが謝る事ではないでしょう?」
「ベレニス、すまない…」
「リッカルド殿下も、謝る必要なんてありませんわ」
ここは、学校内にある王族や高位貴族専用の休憩室。そこで、リッカルド殿下とベレニス様とコユキとウィル様と私の5人でお茶を飲んでいる。
「ベレニスと王太子の婚約は、正式に決まってはいないんだろう?」
「そうなんですか!?」
正式に決まっていると思っていた。でも、他国から来たウィル様が知っていると言う事は、私が知らなかっただけで、一般的に知られている事なんだろうか?
「そうよ。ほぼ決まりかけていたけど、お父様が学校を卒業する迄は“仮”にして欲しいと言って譲らなかったのよ。それでも、私が正式な婚約者だと思っている人は多いと思うわ」
「テイロード公爵は、家族第一主義者だからね。成人する迄は自由にさせてやりたいし、できれば恋愛結婚して欲しいと思っているみたいだから」
「だから、余計に気にしなくて良いわ。そもそも、王太子妃になりたいとも思っていないから。あの2人が本当に想い合っているなら、そうなれば良いだけよ」
と、ベレニス様は特に表情を変える事なく紅茶を飲んでいる。
ー王太子とベレニス様はお似合いだと思っていたけど、実際の事は分からないものなんだなぁー
王太子が聖女とは言え、黒色持ちのモモカが婚約者にでもなれば、フランシーヌが暴れそうだ。
「兎に角、私は婚約者ではないし、ミリウス殿下に恋心を抱いているわけでも、王太子妃や王妃になりたいとも思っていないから、この噂話を気にする事も気に病む事もないわ。だから、コユキも気にする必要はないわ」
「はい……」
ホッとしたように笑ったコユキは、そこでようやく紅茶を口にした。
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「アンバー!待ちなさい!」
「……フランシーヌ様、何か用ですか?」
「何か用ですか?ですって!?アンタ、とぼけるのもいい加減にしなさいよ。アンタのお陰で、私達がどんなに苦労しているか!」
補助金を受け取る事ができなくなって、使えるお金が減った事への怒りだろう。
「今、私を保護してくれているのはスペンサー様です。それに、これは国王陛下自ら指示して下さった事なので、黒色持ちの無能な私如きが判断する事ではありませんから。文句があるなら、国王陛下に仰って下さい」
「なっ!死にかけてたところをお父様に拾ってもらって生き延びたくせに…生意気な事を。留学生の世話役になって、リッカルド殿下達と仲良くなって調子にのってるんじゃないの!?アンタは何も変わらない。無能なくせに!」
「話はそれだけですか?それだけなら、失礼します」
フランシーヌを目の前にして、怖くない─とはまだ言い切れないし、言われた言葉で心は抉られる。それでも言い返せたのは、私にも私を思って優しくしてくれる人達が居るから。
「待ちなさい!まだ話は───」
「やめ─────えっ!?」
掴まれた手を振り払うと、バランスを崩して──
手を伸ばした先に見えたのは、ニヤリと笑うフランシーヌと
「アンバー!」
必死に私に手を伸ばして走って来るコユキの姿だった。
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『シロ、クロお疲れ様』
『『主様!』』
真っ白な毛並みと真っ黒な毛並みの狐が、主様と呼ぶ狐の元へと駆け寄る。
『お前達のお陰で、あの領地も豊かになるわ』
『なら、暫くは主様と一緒に居られる?』
『勿論よ』
『『やったー』』
『**ありがとうございます』
『**のお陰で、この領地も国も安泰です』
シロとクロは、その言葉一つで喜び、そのまま姿を消して行った。そんな平穏な日々を送っていた。
それが何年経ったかは分からないが、それは少しずつ崩れていく事になる。
「黒は不吉の象徴」
「黒は恐怖の対象」
『私は不吉な者になってしまったの?』
『クロもシロと同じよ』
『民が私達を忘れてしまっただけ…』
ただただ、人々に幸せを願われて、人々に幸せを運んでいただけだった。そんな私達は、人々に忘れられてしまえば、その存在自体が脆くなってしまう。
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その主様の言葉が、私達最期への始まりだった。
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