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15 再会
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念の為にと、私は学校を3日間休む事となった。
「しっかり休むように!」
と、ウィル様とグウェイン様から念押しされ、今はベッドに横になっている。
ーコユキが元気そうで良かったー
今朝早く、学校に行く前にコユキが態々私の様子を見に来てくれたのだ。私の顔を見て『良かった』と言って安心したように笑ったコユキの笑顔は、シロの時と同じ優しい目をしていた。シロと違うのは、シロも私と同じ黒色になった事。でもそれは、あちらの世界ではごくごく普通の色だ。
『ようやく繋がったわ!』
『シロ!クロ!』
私が助けを求めて現れた2人。
1人は、長い黒髪で着物を着ていた女性だった。
そして、私とシロを呼んた3尾の狐は───
ーどうして今迄忘れていたんだろう?ー
黒狐になりたての頃、色々不慣れな私達に優しくしてくれた姉のような存在の妖狐。あの時も、助けを求めて名を呼ぶと、真っ先に私達の元へと駆け付けてくれたのに。琥珀色とも金色とも見える綺麗な毛並と瞳をした妖狐。名前は──
「キクカ様────」
『ようやく名前を呼んだわね』
「…………」
『この私の事を忘れるなんて……あぁ……魂がこんなに小さくなってしまっていたのね。辛かったでしょう?』
「……っ………キクカさま……忘れてしまっててごめんなさい。助けてくれたのに……」
そこに現れたのは、3尾の妖狐ではなく、琥珀色の髪に金色の瞳の綺麗な女性姿のキクカ様だった。
『どうしてこんなに小さくなってしまったの?』
この場合の“魂”とは、黒狐としての力を意味する。黒狐の魂は、精神的な物に左右され易い。それが小さくなると、勿論妖力も小さくなってしまう。それを、3尾のキクカ様に隠す事はできないから、正直に今迄の話をする事にした。
『ウェント……ねぇ……』
ふふっ…と笑うキクカ様が怖ろしい。
『私の可愛い妹に手を出したのだから、それ相応のお仕置きが必要だと思わない?少し前にも、あるおバカにやらせたのだけど……またやってやろうかしら?許可は……きっと……我が主が取ってくれるでしょうから』
キクカ様の言う“我が主”が、あの着物を着た黒髪の女性だろう。名前を訊きたいけど、訊いてはいけない─自分で思い出さなければいけないのだ。
『クロ…今はアンバーだったわね。住む世界は変わってしまったけど、アンバーもコユキも、私にとっては可愛い妹達に変わりはないわ。困った事があったら、いつでも私を呼びなさい。これ以上、魂を小さくする事は、私が許さないから。取り敢えず……1人ずつやっておくわ』
ー『何をやるの?』とは訊きませんー
『黒狐であるアンバーは、仕返しなんてできないからね』
そう。ある意味、私はウェント家の人達に仕返しができない。私が黒狐だから。吉兆や幸せを運ぶ妖狐だから、仕返ししようとしても、幸せを運んでしまうのだ。だから、本当の意味で仕返しをしたいのなら、“ウェント家には何もしない”事が仕返しになる。
そして、私が仕返しをしたいと思うのは、コユキとウィル様やグウェン様やオティリーさんやカリーヌさん達だ。
『アンバー、今は幸せかしら?』
「はい。今は幸せです」
『なら良かったわ。それじゃあ、私はこれからする事が沢山できたから、向こうに戻るわ。アンバー、またね。会えて良かったわ』
「はい、私もまた、会えて良かったです!お元気で!」
******
3日後、久し振りに学校へ行くと、ある噂話を耳にした。
3日前に兄のエイダン、2日前に母のウェント夫人、昨日は父のウェント伯爵が原因不明の高熱を出し、更に意味不明な事を口にして寝込んでいるそうだ。
「水色が…とか、赤色が…とか、黒色が…とか色を口にしたかと思えば、三つの目が…とか、三つの狐が…とか言い出して布団に潜り込んで、部屋から一歩も出て来ないらしい」
フランシーヌの一件で、グウェイン様がウェント邸へと行って来たそうだけど、誰ともマトモに話すどころか会う事もできなかったそうだ。
キクカ様が、1人ずつやっているんだろう。多分、フランシーヌは一番最後だ。周りから落としていって、精神的にフランシーヌを追い詰めて、ボロボロになったところで───
ー私には無理だー
可哀想だとも思わないけど、無理だ。黒狐として心が痛むものは痛むから。
「今迄自分達のして来た行いが、自分達に返って来ているのかもしれないな。俺としては……ざまあみろ!と言ったところだな。今回の事は国王陛下の政策とは真反対の事をしていた訳だから、ウェント伯爵家としても、このままでは終わらないと思う」
「そうですね。それで……私が伯爵の籍から抜けても……ウィル様もグウェイン様も、その…私と今迄通りで居てくれますか?」
「勿論だよ。俺は…俺達はアンバーが“伯爵令嬢だから”一緒に居る訳じゃないから。確かに、最初は“黒色持ちで守らないと”と思ったからだけど、今では“アンバーだから”一緒に居るんだ」
「ありがとうございます」
そうして私は、ウェント伯爵から籍を抜く事となった。
「しっかり休むように!」
と、ウィル様とグウェイン様から念押しされ、今はベッドに横になっている。
ーコユキが元気そうで良かったー
今朝早く、学校に行く前にコユキが態々私の様子を見に来てくれたのだ。私の顔を見て『良かった』と言って安心したように笑ったコユキの笑顔は、シロの時と同じ優しい目をしていた。シロと違うのは、シロも私と同じ黒色になった事。でもそれは、あちらの世界ではごくごく普通の色だ。
『ようやく繋がったわ!』
『シロ!クロ!』
私が助けを求めて現れた2人。
1人は、長い黒髪で着物を着ていた女性だった。
そして、私とシロを呼んた3尾の狐は───
ーどうして今迄忘れていたんだろう?ー
黒狐になりたての頃、色々不慣れな私達に優しくしてくれた姉のような存在の妖狐。あの時も、助けを求めて名を呼ぶと、真っ先に私達の元へと駆け付けてくれたのに。琥珀色とも金色とも見える綺麗な毛並と瞳をした妖狐。名前は──
「キクカ様────」
『ようやく名前を呼んだわね』
「…………」
『この私の事を忘れるなんて……あぁ……魂がこんなに小さくなってしまっていたのね。辛かったでしょう?』
「……っ………キクカさま……忘れてしまっててごめんなさい。助けてくれたのに……」
そこに現れたのは、3尾の妖狐ではなく、琥珀色の髪に金色の瞳の綺麗な女性姿のキクカ様だった。
『どうしてこんなに小さくなってしまったの?』
この場合の“魂”とは、黒狐としての力を意味する。黒狐の魂は、精神的な物に左右され易い。それが小さくなると、勿論妖力も小さくなってしまう。それを、3尾のキクカ様に隠す事はできないから、正直に今迄の話をする事にした。
『ウェント……ねぇ……』
ふふっ…と笑うキクカ様が怖ろしい。
『私の可愛い妹に手を出したのだから、それ相応のお仕置きが必要だと思わない?少し前にも、あるおバカにやらせたのだけど……またやってやろうかしら?許可は……きっと……我が主が取ってくれるでしょうから』
キクカ様の言う“我が主”が、あの着物を着た黒髪の女性だろう。名前を訊きたいけど、訊いてはいけない─自分で思い出さなければいけないのだ。
『クロ…今はアンバーだったわね。住む世界は変わってしまったけど、アンバーもコユキも、私にとっては可愛い妹達に変わりはないわ。困った事があったら、いつでも私を呼びなさい。これ以上、魂を小さくする事は、私が許さないから。取り敢えず……1人ずつやっておくわ』
ー『何をやるの?』とは訊きませんー
『黒狐であるアンバーは、仕返しなんてできないからね』
そう。ある意味、私はウェント家の人達に仕返しができない。私が黒狐だから。吉兆や幸せを運ぶ妖狐だから、仕返ししようとしても、幸せを運んでしまうのだ。だから、本当の意味で仕返しをしたいのなら、“ウェント家には何もしない”事が仕返しになる。
そして、私が仕返しをしたいと思うのは、コユキとウィル様やグウェン様やオティリーさんやカリーヌさん達だ。
『アンバー、今は幸せかしら?』
「はい。今は幸せです」
『なら良かったわ。それじゃあ、私はこれからする事が沢山できたから、向こうに戻るわ。アンバー、またね。会えて良かったわ』
「はい、私もまた、会えて良かったです!お元気で!」
******
3日後、久し振りに学校へ行くと、ある噂話を耳にした。
3日前に兄のエイダン、2日前に母のウェント夫人、昨日は父のウェント伯爵が原因不明の高熱を出し、更に意味不明な事を口にして寝込んでいるそうだ。
「水色が…とか、赤色が…とか、黒色が…とか色を口にしたかと思えば、三つの目が…とか、三つの狐が…とか言い出して布団に潜り込んで、部屋から一歩も出て来ないらしい」
フランシーヌの一件で、グウェイン様がウェント邸へと行って来たそうだけど、誰ともマトモに話すどころか会う事もできなかったそうだ。
キクカ様が、1人ずつやっているんだろう。多分、フランシーヌは一番最後だ。周りから落としていって、精神的にフランシーヌを追い詰めて、ボロボロになったところで───
ー私には無理だー
可哀想だとも思わないけど、無理だ。黒狐として心が痛むものは痛むから。
「今迄自分達のして来た行いが、自分達に返って来ているのかもしれないな。俺としては……ざまあみろ!と言ったところだな。今回の事は国王陛下の政策とは真反対の事をしていた訳だから、ウェント伯爵家としても、このままでは終わらないと思う」
「そうですね。それで……私が伯爵の籍から抜けても……ウィル様もグウェイン様も、その…私と今迄通りで居てくれますか?」
「勿論だよ。俺は…俺達はアンバーが“伯爵令嬢だから”一緒に居る訳じゃないから。確かに、最初は“黒色持ちで守らないと”と思ったからだけど、今では“アンバーだから”一緒に居るんだ」
「ありがとうございます」
そうして私は、ウェント伯爵から籍を抜く事となった。
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