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42 廃位と廃嫡
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「この手を離せ!私はデストニアの王太子だぞ!」
「あぁ、ソレなんだけど、昨日、デストニアの国王から親書が届いてね。もう国に帰って来ても良いそうだけど……マテウス殿は王太子ではないようだよ?」
「は?私が王太子ではない?何を言って…」
「デストニアも、新しい国王が立ったそうだ」
「なっ…………」
ジョセリンさんに関しての報告書と共に、ルドヴィクさんに届いたデストニアからの親書には、国王であったマテウスさんの父親の兄が、新たに王位に就いたと認められていた。勿論、それに伴って王太子マテウスさんも廃嫡となり、新国王の息子でマテウスさんの従兄弟が立太子する事になるそうだ。
「そんな………でも……私には聖女リリが…リリを何処へやった!?い゛っ─」
尚もリリの名を呼び私に手を伸ばそうとするその手を、ブラントさんが更に力を入れて押さえ込んだ。田辺さんが何処に呼ばれたのかは分からない。元の世界なのか、それとも──
「彼女が何処に居るかは分からない。分かる事は、彼女を呼んのはオールデンさんって事だけよ。文句があるなら、オールデンさんに言って下さい」
「な…なら、ジョセリンを返せ!ジョセリンと一緒にデストニアに──」
「返す?馬鹿なの?馬鹿なのね?無能な上に馬鹿なのね?ジョセリンさんを貴方に渡す訳ないじゃない。ジョセリンさんを物みたいに扱うのは止めてもらえるかしら?それに、ジョセリンさんは“国外追放”となってデストニアから出てミスリアルにやって来た。その事で罪は償い終わってるし、いや、そもそもそれも冤罪だったけど。兎に角、もうデストニアの国民じゃなくてミスリアルの国民だから、貴方と一緒にデストニアに行く理由はないわ」
ジョセリンさんを連れて帰れば、自分の身の保証を得られるとでも思っているのか。父親である元国王がどんな人かは知らないけど、実の兄に革命を起こされたのだから、それなりの圧政があったんだろう。マテウスさんは無能で馬鹿なだけで、王太子だと言うだけで同罪と見做されるのは少し気の毒にも思うけど、リリの言葉を盲目的に信じてジョセリンさんを捨てた事は、決して赦される事ではない。
それを、今更自分の保身の為にジョセリンさんを利用しようだなんて……悪知恵だけは働くタイプの馬鹿だ。
『チカ、あいつ、やっちゃう?やっても良いか?』
私の怒りが伝わったのか、アイルが戦闘態勢に入っている。アイルだけじゃなくて、フラムもトゥールもジョセリンさんの事を気に入っているから尚更なんだろう。
「今は駄目。目立っちゃうからね」アイルだけに聞こえるように呟くと『分かった。今は我慢する!』と、戦闘態勢を解いて、また私の肩にチョコンと腰を下ろした。
それからも、悪足掻きをするように騒ぎ出したマテウスさんに
「そろそろその口を閉じませんか?閉じられませんか?なら、閉じさせましょうか?チカ様を侮辱したり罵ったりする口なんて要りませんからね。そんな汚い言葉をチカ様の耳に入れるのも無礼極まりない事ですからね。ただ、魔法で黙らせるのは優し過ぎますよね?痛みも何にもありませんから、それでは罰にならないし反省もしないでしょう。いっその事、お針子でも呼んで糸と針で文字通り縫い付けましょうか?あぁ、それだとお針子に失礼ですね?医師を呼びましょう。医師なら、パックリ切れた傷を縫う練習になるでしょうからね。そうしましょう。その口を二度と──」
「ネッド、落ち着け。その気持ちは分からない訳では無いが、マテウスから訊きたい事もあるから、できれば魔法で黙らせて欲しい」
ルドヴィクさんが少し引き攣った顔でお願いするが、納得いかない顔をするネッドさん。
ー口を物理的に縫う………痛いなぁ……ー
「ネッドさん、私からも魔法でお願いします」
「っ!!分かりました!魔法でサクッとやります!」
どんな時でも安定のネッドさんだ。
ネッドさんは言葉通りサクッと魔法でマテウスさんを黙らせ、更に魔法で文字通り体を拘束して、身動きできなくなったマテウスさんはルドヴィクさんが呼んだ騎士によって部屋から運び出されて行った。
「チカにも訊きたい事があるし色々話したい事もあるから、取り敢えず私の部屋に移動しよう」
「分かりました」
******
ルドヴィクさんの部屋にやって来ると、そこにはジョセリンさんとイシュメルさんが居た。
「「お疲れ様でした」」
2人の笑顔は癒やしだ。
「今、紅茶を淹れたので、どうぞお飲み下さい。このクッキーはチカ様が焼いた物です」
「ジョセリン嬢、ありがとう。皆座ってくれ」
長方形の机を挟んで3人ずつが向かい合うように座り、ジョセリンさんが淹れてくれた美味しい紅茶を頂いた。
「はぁ─やっぱり、チカ様の作ったクッキーには癒やしの魔法が掛かっていますね。荒んだ心も癒やされるようです。チカ様手作りと言うだけでも尊いのに、癒やしの魔法が掛かっているとは…陛下、殿下、これがどれ程素晴らしい事か理解していますか?説明しましょうか?これは──」
「ネッドさん、今度、ケーキも作る予定なので、それも食べて下さいね」
「─っ!!!!」
ネッドさんはピタッと止まった後、やっぱり首を縦にコクコクと頷いた。
ーある意味、ネッドさんも癒やしかも?ー
「あぁ、ソレなんだけど、昨日、デストニアの国王から親書が届いてね。もう国に帰って来ても良いそうだけど……マテウス殿は王太子ではないようだよ?」
「は?私が王太子ではない?何を言って…」
「デストニアも、新しい国王が立ったそうだ」
「なっ…………」
ジョセリンさんに関しての報告書と共に、ルドヴィクさんに届いたデストニアからの親書には、国王であったマテウスさんの父親の兄が、新たに王位に就いたと認められていた。勿論、それに伴って王太子マテウスさんも廃嫡となり、新国王の息子でマテウスさんの従兄弟が立太子する事になるそうだ。
「そんな………でも……私には聖女リリが…リリを何処へやった!?い゛っ─」
尚もリリの名を呼び私に手を伸ばそうとするその手を、ブラントさんが更に力を入れて押さえ込んだ。田辺さんが何処に呼ばれたのかは分からない。元の世界なのか、それとも──
「彼女が何処に居るかは分からない。分かる事は、彼女を呼んのはオールデンさんって事だけよ。文句があるなら、オールデンさんに言って下さい」
「な…なら、ジョセリンを返せ!ジョセリンと一緒にデストニアに──」
「返す?馬鹿なの?馬鹿なのね?無能な上に馬鹿なのね?ジョセリンさんを貴方に渡す訳ないじゃない。ジョセリンさんを物みたいに扱うのは止めてもらえるかしら?それに、ジョセリンさんは“国外追放”となってデストニアから出てミスリアルにやって来た。その事で罪は償い終わってるし、いや、そもそもそれも冤罪だったけど。兎に角、もうデストニアの国民じゃなくてミスリアルの国民だから、貴方と一緒にデストニアに行く理由はないわ」
ジョセリンさんを連れて帰れば、自分の身の保証を得られるとでも思っているのか。父親である元国王がどんな人かは知らないけど、実の兄に革命を起こされたのだから、それなりの圧政があったんだろう。マテウスさんは無能で馬鹿なだけで、王太子だと言うだけで同罪と見做されるのは少し気の毒にも思うけど、リリの言葉を盲目的に信じてジョセリンさんを捨てた事は、決して赦される事ではない。
それを、今更自分の保身の為にジョセリンさんを利用しようだなんて……悪知恵だけは働くタイプの馬鹿だ。
『チカ、あいつ、やっちゃう?やっても良いか?』
私の怒りが伝わったのか、アイルが戦闘態勢に入っている。アイルだけじゃなくて、フラムもトゥールもジョセリンさんの事を気に入っているから尚更なんだろう。
「今は駄目。目立っちゃうからね」アイルだけに聞こえるように呟くと『分かった。今は我慢する!』と、戦闘態勢を解いて、また私の肩にチョコンと腰を下ろした。
それからも、悪足掻きをするように騒ぎ出したマテウスさんに
「そろそろその口を閉じませんか?閉じられませんか?なら、閉じさせましょうか?チカ様を侮辱したり罵ったりする口なんて要りませんからね。そんな汚い言葉をチカ様の耳に入れるのも無礼極まりない事ですからね。ただ、魔法で黙らせるのは優し過ぎますよね?痛みも何にもありませんから、それでは罰にならないし反省もしないでしょう。いっその事、お針子でも呼んで糸と針で文字通り縫い付けましょうか?あぁ、それだとお針子に失礼ですね?医師を呼びましょう。医師なら、パックリ切れた傷を縫う練習になるでしょうからね。そうしましょう。その口を二度と──」
「ネッド、落ち着け。その気持ちは分からない訳では無いが、マテウスから訊きたい事もあるから、できれば魔法で黙らせて欲しい」
ルドヴィクさんが少し引き攣った顔でお願いするが、納得いかない顔をするネッドさん。
ー口を物理的に縫う………痛いなぁ……ー
「ネッドさん、私からも魔法でお願いします」
「っ!!分かりました!魔法でサクッとやります!」
どんな時でも安定のネッドさんだ。
ネッドさんは言葉通りサクッと魔法でマテウスさんを黙らせ、更に魔法で文字通り体を拘束して、身動きできなくなったマテウスさんはルドヴィクさんが呼んだ騎士によって部屋から運び出されて行った。
「チカにも訊きたい事があるし色々話したい事もあるから、取り敢えず私の部屋に移動しよう」
「分かりました」
******
ルドヴィクさんの部屋にやって来ると、そこにはジョセリンさんとイシュメルさんが居た。
「「お疲れ様でした」」
2人の笑顔は癒やしだ。
「今、紅茶を淹れたので、どうぞお飲み下さい。このクッキーはチカ様が焼いた物です」
「ジョセリン嬢、ありがとう。皆座ってくれ」
長方形の机を挟んで3人ずつが向かい合うように座り、ジョセリンさんが淹れてくれた美味しい紅茶を頂いた。
「はぁ─やっぱり、チカ様の作ったクッキーには癒やしの魔法が掛かっていますね。荒んだ心も癒やされるようです。チカ様手作りと言うだけでも尊いのに、癒やしの魔法が掛かっているとは…陛下、殿下、これがどれ程素晴らしい事か理解していますか?説明しましょうか?これは──」
「ネッドさん、今度、ケーキも作る予定なので、それも食べて下さいね」
「─っ!!!!」
ネッドさんはピタッと止まった後、やっぱり首を縦にコクコクと頷いた。
ーある意味、ネッドさんも癒やしかも?ー
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