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#上司の上司の上司が持ってきたのは
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朝の訓練場。冷えた空気の中で、掛け声と木剣が打ち合う音が響く。
ここは帝国軍直属、第三騎士団の訓練拠点のひとつ。
戦場へ出る者も、護衛任務に就く者も、すべてこの訓練場で鍛え直される。
第七特殊遊撃副部隊長、カリオン・エスカーリドは入隊希望の兵たちに檄を飛ばして容赦なく追い込んだ。
「苦しくても腕を下げるな!! 魔物は疲れてようと痛かろうと容赦しちゃくれないぞ!!」
特殊遊撃部隊は通常の部隊で扱えない難易度の高い魔物や救難要請、災害対応を担う騎士団の中でもエリート部隊だ。花形なので憧れる者は多く入隊希望者は絶えないが、部隊の求める水準を超えられるものは少ない。
数年前、カリオンが入隊を果たした時は異例の速さだと言われた。
それから数年で今は副部隊長。実際は前任者が急な転属となったための抜擢だったが、特別優秀なのだと誤解する者も多い。異例の出世だからこそ、周囲の目は厳しい。どんなことにも手を抜けない。
(ふう……なんとか終わったな)
訓練が終わった頃には、日も高くなっていた。
カリオンは汗をぬぐいながら、廊下を歩く。
かつては訓練明けに街まで出て、気の向くままに酒と女を嗜んだものだったが――
(最近は余裕がなかったな。次の休みは、一夜限りの相手でも探しに行こうか)
そう思っていた矢先だった。
廊下の曲がり角から、すすす……と、妙に滑らかな足音が近づいてくる。
振り向くと、上司の上司――いや、さらにその上。帝国軍の重鎮が、なぜか満面の笑みでこちらに向かっていた。
「カリオン・エスカーリドくん、ちょっとおいで」
手招きされて危険センサーが警鐘を鳴らした。魔物より怖い。
「何か不始末でも……?」
小会議室に呼び込まれて戦々恐々とカリオンは尋ねた。上司じゃなくこの人に呼ばれる理由が皆目わからない。
「そういうんじゃないよ。君さ……お見合いしない?」
すべての緊張感が吹き飛んだ。
「……はい?」
「いい子がいるんだよ~。ぜひ君に会わせたいと思ってさ」
ずい、と釣書が差し出された。夜の街のキャッチのごときしつこさだった。
「いや、俺まだ仕事で手一杯で──」
「副部隊長で独身なの、君だけなんだよねえ? この意味、わかるね?」
「…………」
無言でカリオンは釣書を受け取った。拒否権は存在しなかった。
「美人さんだよ~。ちょっと写真写りは悪いけど」
ちょっと、だろうか。
仏頂面の女の子がこちらを睨んでいた。
(若いな……ギリギリ二十歳を過ぎたところか)
カリオンは現在29歳。こんなに若い女の子に好かれるとは思わなかった。世代も違うし、何を話していいかわからない。
「可愛い子でしょう。頭もいいんだよ。名門ナタリー大の特待生。専攻は魔法物理学。魔術式の論文をこの年で3つも書いてて、うち二つは特許認定されてる。騎士団への貢献へも目覚ましい。去年の大型翼竜討伐では、一般の後方支援の功労者に送られる蒼盾の章も贈られてる。仕事に理解のある頭のいい女性! しかも若くて可愛い! 最高でしょ」
カリオンは釣り書を閉じた。
「俺にはもったいないお相手です」
「そんな定型文句で、上司の勧める見合いが断れると思ってるのか?」
「口実じゃないですよ。俺みたいなのに来る縁談じゃないでしょう」
華やかな経歴、若くして叙勲、家柄も申し分なし。確かに美人(ただし写真写りが悪い)。
つまり“よっぽどの訳あり”だ。
「君、ロマンがないねぇ」
「デメリットを言わないのは取引法違反ですよ」
「……魔力過多症でね。子供が望めないんだ。それと、ちょっと家が厄介。血筋は王族も排出してる名門なんだけどねぇ。当代になってからいい噂を聞かない。先代はちゃんとした人だったんだけど。でも彼女自身は、頑張り屋の素晴らしい女性だよ」
(俺の事情を見抜かれてるな……)
カリオンも一応は貴族の出だが、上に兄が五人もいて家督を継ぐことはない。子供も特段好きではなかった。
そもそも結婚したいとすら思っていなかったのだ。血がつながった兄は1人だけの家で、ずいぶん家族には苦労した。
「難しい女性で相手は限られる。貧乏くじだと思うかもしれないが、良い子なんだよ。彼女のために会ってやってくれないか」
カリオンには、もはや断るという選択肢はなかった。
ここは帝国軍直属、第三騎士団の訓練拠点のひとつ。
戦場へ出る者も、護衛任務に就く者も、すべてこの訓練場で鍛え直される。
第七特殊遊撃副部隊長、カリオン・エスカーリドは入隊希望の兵たちに檄を飛ばして容赦なく追い込んだ。
「苦しくても腕を下げるな!! 魔物は疲れてようと痛かろうと容赦しちゃくれないぞ!!」
特殊遊撃部隊は通常の部隊で扱えない難易度の高い魔物や救難要請、災害対応を担う騎士団の中でもエリート部隊だ。花形なので憧れる者は多く入隊希望者は絶えないが、部隊の求める水準を超えられるものは少ない。
数年前、カリオンが入隊を果たした時は異例の速さだと言われた。
それから数年で今は副部隊長。実際は前任者が急な転属となったための抜擢だったが、特別優秀なのだと誤解する者も多い。異例の出世だからこそ、周囲の目は厳しい。どんなことにも手を抜けない。
(ふう……なんとか終わったな)
訓練が終わった頃には、日も高くなっていた。
カリオンは汗をぬぐいながら、廊下を歩く。
かつては訓練明けに街まで出て、気の向くままに酒と女を嗜んだものだったが――
(最近は余裕がなかったな。次の休みは、一夜限りの相手でも探しに行こうか)
そう思っていた矢先だった。
廊下の曲がり角から、すすす……と、妙に滑らかな足音が近づいてくる。
振り向くと、上司の上司――いや、さらにその上。帝国軍の重鎮が、なぜか満面の笑みでこちらに向かっていた。
「カリオン・エスカーリドくん、ちょっとおいで」
手招きされて危険センサーが警鐘を鳴らした。魔物より怖い。
「何か不始末でも……?」
小会議室に呼び込まれて戦々恐々とカリオンは尋ねた。上司じゃなくこの人に呼ばれる理由が皆目わからない。
「そういうんじゃないよ。君さ……お見合いしない?」
すべての緊張感が吹き飛んだ。
「……はい?」
「いい子がいるんだよ~。ぜひ君に会わせたいと思ってさ」
ずい、と釣書が差し出された。夜の街のキャッチのごときしつこさだった。
「いや、俺まだ仕事で手一杯で──」
「副部隊長で独身なの、君だけなんだよねえ? この意味、わかるね?」
「…………」
無言でカリオンは釣書を受け取った。拒否権は存在しなかった。
「美人さんだよ~。ちょっと写真写りは悪いけど」
ちょっと、だろうか。
仏頂面の女の子がこちらを睨んでいた。
(若いな……ギリギリ二十歳を過ぎたところか)
カリオンは現在29歳。こんなに若い女の子に好かれるとは思わなかった。世代も違うし、何を話していいかわからない。
「可愛い子でしょう。頭もいいんだよ。名門ナタリー大の特待生。専攻は魔法物理学。魔術式の論文をこの年で3つも書いてて、うち二つは特許認定されてる。騎士団への貢献へも目覚ましい。去年の大型翼竜討伐では、一般の後方支援の功労者に送られる蒼盾の章も贈られてる。仕事に理解のある頭のいい女性! しかも若くて可愛い! 最高でしょ」
カリオンは釣り書を閉じた。
「俺にはもったいないお相手です」
「そんな定型文句で、上司の勧める見合いが断れると思ってるのか?」
「口実じゃないですよ。俺みたいなのに来る縁談じゃないでしょう」
華やかな経歴、若くして叙勲、家柄も申し分なし。確かに美人(ただし写真写りが悪い)。
つまり“よっぽどの訳あり”だ。
「君、ロマンがないねぇ」
「デメリットを言わないのは取引法違反ですよ」
「……魔力過多症でね。子供が望めないんだ。それと、ちょっと家が厄介。血筋は王族も排出してる名門なんだけどねぇ。当代になってからいい噂を聞かない。先代はちゃんとした人だったんだけど。でも彼女自身は、頑張り屋の素晴らしい女性だよ」
(俺の事情を見抜かれてるな……)
カリオンも一応は貴族の出だが、上に兄が五人もいて家督を継ぐことはない。子供も特段好きではなかった。
そもそも結婚したいとすら思っていなかったのだ。血がつながった兄は1人だけの家で、ずいぶん家族には苦労した。
「難しい女性で相手は限られる。貧乏くじだと思うかもしれないが、良い子なんだよ。彼女のために会ってやってくれないか」
カリオンには、もはや断るという選択肢はなかった。
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