猫不足の王子様にご指名されました

白峰暁

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31 クロードにお願い


「――クロード、お願い!」


 私はクロードの住む森に訪れ、地面に額を付けている。土下座の構えである。
 今日はクロードを説得するために来た。
 アーサーのために出来る事は何でもやろうと思っていた。私自身がアーサーと一緒にいる事でアーサーが満たされるのならと、色々な事に挑戦してきた。
 でも、私と一緒にいるとアーサーの立場が悪くなる事を知ってしまった。
 だから――私は、私の代理となる者を選ぼうと思った。


 クロードは猫である。正確にいえば獣人なのだが、限りなく本物の猫に近い生き物だ。クロードの毛玉を既にアーサーが触っているから、クロードを撫でればアーサーが喜んでくれる事は確定している。
 後は――クロードの同意が必要だ。
 だから、形振り構わずにクロードに頼み込もうと思って、今こんな体勢になっている。
 私の頭上からクロードの訝しむような声がする。


「……なんだ、それは?狩りの構えか?しかし前足も後ろ足も力が入っていないようだ。こんなやり方では駄目だな。ふう。もっとここをこうするべきで……」
「いたたたたクロード、違う、違うの!お願いしたい事があるの!クロード――王宮に行って、アーサーに会って欲しいの」
「……第三王子に?」


 私の言葉を聞いて、クロードはぴたりと動きを止めた。そして何かを考えるような口ぶりで私に質問をする。

「何故私がアーサーに会いにいかなければいけない。お前はアーサーにだけは知られてはいけないと言っていなかったか?」
「……それは、そうなんだけど。事情が変わったの。アーサーは猫と一緒にいると調子を落とすんだけど、クロードと一緒なら大丈夫そうだって事がわかったの。だから……アーサーに会って欲しい!アーサーは、本当は猫が好きなの。でも、契約の関係で普通の猫とは接する事が出来なくなってしまった……。だから、もしクロードが良ければ、アーサーのもとで過ごして欲しい」
「……はあ。何故お前がそこまで頭を下げる?何か理由があるのか?」


 クロードがじとりとした目で私を見る。私はクロードの青い目を見やって答えた。


「……私はアーサーに助けられて、王宮に連れてこられたから。それだけじゃなく、アーサーの事を大切に思っているから……。アーサーは国の事情に囚われた生活を送ってきた。だから、少しでもアーサーの好きなものと過ごさせてあげたいの……」
「…………」
「アーサーは猫の事がすごく好きで、一緒に過ごせるってなったら上等なおやつとか、おもちゃとか、きっと沢山くれるから。クロードにとっても悪い話じゃない筈だよ。だから、ねっ?」
「ふん……菓子で私が釣られるとでも……」
「それだけじゃないの!今まで私が色々悩んでたのは、アーサーの事が原因だから。アーサーの生活が改善されれば、私もすっきりするの。だから……ね!臣下を助けると思って!お願いします……!」


 私は熱心にクロードを説得した。
 もしアーサーとクロードがうまくやっていけそうだったら、アーサーには今の私のようにこの森に来てもらえればいい。こっそりクロードに会って猫成分を補給するようにすれば、私が王宮から去ってもアーサーは問題なく過ごせる筈だ。クロードは自分によくしてくれる相手には優しいから、アーサーがしっかり可愛がるならば、アーサーに悪い事はしないだろう。
 そう思って、私は必死に説得を続けた。

 クロードは暫く目を閉じて、そして口を開いた。
「わかった」
「……!ほんと!?やった……!」
「ただし……。顔合わせはこの森ではしない。ミーシャが私を王宮に連れていけ。そこで奴を見極める」
「……え。そうなの?」
「もしもアーサーが私を気に入らないからと攻撃したらと思うと、この森の住処を知られる事は避けたい。王宮で顔を合わせる事が条件だ」


 クロードの懸念を聞いて、私は考える。
 ……クロードの考えている事は、きっと取り越し苦労だ。あんなに猫を大事に思っているアーサーがクロードを攻撃したりする訳がない。
 でも、アーサーに会った事の無いクロードにそう言っても、信じてくれないか……。
 私はクロードに頷き、手を握って言った。


「……わかった。私からアーサーに話してみる」
「ああ。日取りが決まったら伝えろ」
 クロードはそう言うと、猫の姿になった。マイペースに毛づくろいをしているようだ。
 そんなクロードを見つめて、私は考える。

 クロードは、かわいい。
 客観的に見ても、美人でかわいい猫だ。
 ふわふわでもふもふで、撫で心地は猫界でも最高だと言っていいだろう。
 気ままで自分の気分で人間を振り回したりするけれど、それこそが猫だとアーサーは喜んでくれる筈だ。


 ――よし。
 アーサーを説得しよう。
 光明を見つけた私は、久々に晴れやかな気持ちになっていた。
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