39 / 42
39 アーサーは語りたい
しおりを挟むアーサーは猫と化した私を抱き上げ、そしてすっと呼吸をして声をあげた。
「みんな。――俺は、猫が好きだ!」
「……!?」
「ふわふわの毛が好きだ、滑らかな毛が好きだ、揺れる尻尾も威嚇で膨らむ尻尾も愛らしいと思う。液体のようにとろける猫も、鞄の中に入るのを拒んで身を固くする猫も、すべて同様に愛おしいと思っている。……自分は幼い頃、災厄に対抗する為に神と契約をした事で猫と触れ合えない体質になってしまった。役目の為なら仕方ないと自分に言い聞かせていたが、内心では辛いと思っていた!」
突然奇妙な告白を初めたアーサーに、観衆がざわつく。それは猫に対するものだけでなく、神との契約の話に対する反応も含んでいた。
アーサーの後ろには、アーサーの兄弟や使用人達もいて、落ち着いた様子で演説を聞いている。……どうやら、何を話すかは相談済のようだ。
「……皆。今までは王家の威信を高めるため、わざと内情は秘匿していた。だが、今一度思う。そのやり方は、間違っていたのかもしれない。グランドリーの企みが長い事露見しなかったのも、王家の活動を秘匿しようとするやり方が関係しているだろうから。だから、これからは王家のやり方を変えていきたい。まずは――皆に俺の事について知って欲しい」
「アーサー様のことを……?」
「俺は――今までは災厄を祓う役目を全うする為に、他のものは切り捨てようとしてきた。だが――俺は好きなものも、大事にしたいものも沢山ある。ミーシャは俺が自ら王宮に呼んだ女性だ。彼女には、今まで猫に触れられない俺に協力してもらっていた。そして、これからも共に歩んでもらおうと思っている」
「――そんな!」
アーサーの演説を受けて、リズリーが悲鳴を上げた。そして、アーサーに向かって声を張り上げる。
「……アーサー様!それは、ミーシャ様をこれからも王宮に置くということですか。ですが、身分が確かで無い上に騒ぎを起こした者を王宮に置くなど、前例の無い事です。それに、動物を王宮に置いたら大変な事になると今回の事で皆思い知ったのではないですか。貴方自身の地位もどうなるかわかりませんわよ!」
「いや」
リズリーの進言に、アーサーはゆっくりと首を振った。
「……確かに、前例の無い事かもしれない。だが、前例が無いならば作ってしまえばいい。そもそも、災厄に対する力を得るために神と契約をするというのも、王家で最初にそれを初めた人間がいたからこそだ。新しい事を始めるのは悪い事ではない。それについての批判は俺が受ける事にしよう」
「……、そんな……」
「リズリー。これは君に対しても悪い話では無い筈だ。わかってくれるか」
アーサーの言葉に、リズリーは唇を噛んで後ずさった。
……アーサーはリズリーの事も庇おうとしているのだ。フォンテーヌ家はこれから厳しい状況に置かれるだろうが、それでも身綺麗でない者も王宮にいてもいいという前例があれば、リズリーに対する風当たりも減るだろう。
アーサーは私をちらりと見つめ、そして観衆に向き直って宣言した。
「ミーシャ・アルストロイア。彼女は国宝を破壊するという罪を犯した者であり、これからも償う義務がある。そして、それは俺も共に償うべき事だ。よって――ここに宣言する。ミーシャ・アルストロイアに懲役を言い渡し、王宮で国家の為に奉仕する事を命ずる!」
12
あなたにおすすめの小説
「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~
卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」
絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。
だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。
ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。
なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!?
「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」
書き溜めがある内は、1日1~話更新します
それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります
*仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。
*ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。
*コメディ強めです。
*hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!
冷遇されている令嬢に転生したけど図太く生きていたら聖女に成り上がりました
富士山のぼり
恋愛
何処にでもいる普通のOLである私は事故にあって異世界に転生した。
転生先は入り婿の駄目な父親と後妻である母とその娘にいびられている令嬢だった。
でも現代日本育ちの図太い神経で平然と生きていたらいつの間にか聖女と呼ばれるようになっていた。
別にそんな事望んでなかったんだけど……。
「そんな口の利き方を私にしていいと思っている訳? 後悔するわよ。」
「下らない事はいい加減にしなさい。後悔する事になるのはあなたよ。」
強気で物事にあまり動じない系女子の異世界転生話。
※小説家になろうの方にも掲載しています。あちらが修正版です。
聖女の力は「美味しいご飯」です!~追放されたお人好し令嬢、辺境でイケメン騎士団長ともふもふ達の胃袋掴み(物理)スローライフ始めます~
夏見ナイ
恋愛
侯爵令嬢リリアーナは、王太子に「地味で役立たず」と婚約破棄され、食糧難と魔物に脅かされる最果ての辺境へ追放される。しかし彼女には秘密があった。それは前世日本の記憶と、食べた者を癒し強化する【奇跡の料理】を作る力!
絶望的な状況でもお人好しなリリアーナは、得意の料理で人々を助け始める。温かいスープは病人を癒し、栄養満点のシチューは騎士を強くする。その噂は「氷の辺境伯」兼騎士団長アレクシスの耳にも届き…。
最初は警戒していた彼も、彼女の料理とひたむきな人柄に胃袋も心も掴まれ、不器用ながらも溺愛するように!? さらに、美味しい匂いに誘われたもふもふ聖獣たちも仲間入り!
追放令嬢が料理で辺境を豊かにし、冷徹騎士団長にもふもふ達にも愛され幸せを掴む、異世界クッキング&溺愛スローライフ! 王都への爽快ざまぁも?
偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました
ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。
名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。
ええ。私は今非常に困惑しております。
私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。
...あの腹黒が現れるまでは。
『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。
個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる