魔族への生贄にされたので媚びまくって生き残ります

白峰暁

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30_私の家で良ければ②

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(城にいる間、身を守るために何とかレヴィウスに気に入られようとしていたけど、一応それは成功したみたいね。家族として迎えるのならば、滅多なことがなければ命を取ろうまでとは思わないだろうし……)


 アドラー家の城は綺麗な場所だった。
 人間が魔族の住処にいてもいいという状況になれば、私が命の危険を感じるようなことはなくなるかもしれない。
 それに、人間界では叶わないようないい暮らしが出来るのかも。


 でも……。


「レヴィウス様。……そのお話、身に余る光栄です。ですが、辞退させていただきます!」
「シルフィア?」


 戸惑った様子のレヴィウスを前に、私は拳をぐっと握る。
 ――こういうのは勢いだ。私は一気に言う。


「魔族の方の意見を変えるには沢山の働きが必要なのでしょう。レヴィウス様が私のためにそんな負担を負うことはありませんわ! 私にとってはレヴィウス様が穏やかに暮らすことこそが何より大事なのです。人間界という遠い場所で暮らしていても、私はレヴィウス様の幸せをいつだって祈っていますから。ねっ」
「シルフィア……。お前は、そう言うか……」
「あ、でも、人間と魔族との関係が良くなる日が来ればいいとは思っています。人間界にお忍びで来ても問題ないなら、街を歩いて色々情報を集めてみるのもいいと思いますよ!」
「……ああ、そうだな。もともとの領主としての仕事もあるから常に来れる訳ではないが、機会を見て人間界に降りてくるつもりだ。シルフィア、これからもお前に会いに来ることを許してくれるか?」


 レヴィウスにそう言われて、私は内心迷う。
 魔族の住処にいる頃は、魔族といると身の危険があるかもしれないと思った。
 今は……。


(レヴィウスは、私のことを気に入ってるみたい。彼だけに会うなら、危険な目に遭うことは無いでしょう。レヴィウスが人間界にこっそり来る分には魔族のルールには反しないらしいし、それならいい……のかな?)


 たまに来るところをもてなすくらいなら、ある種カフェ営業の練習になるとも言えるし……。
 城に来い云々とまた言われたら困るだろうけど、レヴィウスが人間界で色々見てまわるうちに、他にも気に入る人間を見つけるかもしれないし……。


 あの短期間でレヴィウスは私のことを深く気に入ったらしい。
 それなら、別の人間に対しても早々に惚れ込んでもおかしくない。


 そうなれば、私とレヴィウスの方はなんとなく良い感じの関係に収まることは出来るかもしれない。


 うん。


 そう結論づけて、私はぱっと笑顔になった。


「大丈夫です。私の家で良ければ迎えます」
「本当か! 良かった! 嬉しいぞ、シルフィア」
「はい。ただ、昼間は仕事をしているので会うことは出来ませんが……」
「――そうだ。それについてだが、シルフィア、仕事をやめることは出来ないか」
「えっ?」
「生活費のことが心配ならば、これくらいはある」
「わっ!?」


 レヴィウスは懐から巾着袋を取り出した。その中にはずっしりと金貨が入っている。
 ……人間界に帰る日にも金貨を渡して貰ったけど、今回はそれ以上にありそうだ。


「れ、レヴィウス様、こちらは……!?」
「人間界に来るならば通貨は必要だろうと判断して、魔石を道具屋で売った。どうやら結構な値がついたらしいな」
(レヴィウスなら簡単に作れる魔石でこれだけお金になるんだ。すごい。彼がいるならお金には一生困らないかも……!)


 私が金貨の輝きに目を奪われているうちに、レヴィウスが私の手を握ってきた。


「先程お前に絡んでいた男は、恐らく夜で二人になれるタイミングを狙っていたのだろう。シルフィアの魔力を辿っていくと、あるカフェに行き着いた」
「……!」
「お前はあそこで働いているのだろうが、客と接することが多い場所は危険だ。俺はシルフィアには安息に暮らして欲しい。だから、受け取ってくれ」


 今の稼ぎでは到底届かないような金貨の量を暫し見つめた後、私はレヴィウスの提案に返答した。


「……いえ、受け取れません」
「シルフィア?」
「こちらはレヴィウス様が人間界を楽しむためにお使い下さい! アドラー家の城での経験を活かすためにも、カフェでの仕事は続けたいのです!」


 ――私が言うことは、概ね本心だ。
 だが、彼に言えないこともある。


(今の私はもう一人で生活出来るもんね。レヴィウスの言うことを色々断った上で、ここから更に彼に頼り続けるのはちょっと後ろめたいというか……。だから援助は断ろう。私の平穏な生活を守るために、これは必要なことなの)


 魔族の城にいた頃に嘘をついていたことがわかったら、レヴィウスは私に対してよく思わないだろう。
 だから、私は前も今もレヴィウスを慕っているという姿勢は崩さないし、彼の望みは出来る範囲で叶えるようにする。
 けど、大きすぎる援助は断るようにしよう。問題の芽は摘んでおきたいから。


 今私のもとに来ているのはレヴィウスが私以外に人間を知らないからで、他の人間を気に入ればここに来ることも少なくなるだろう。
 そうすれば私には完全な平穏が手に入る。
 ――うん。人間界でのレヴィウスへの対応は、これで行こう。


「そうか……」


 レヴィウスは私の答えを受けて、思案げな顔になる。
 そして、深く息を吸った後、何やら手の中で魔力を練り始めた。
 私のリビングが一瞬光に包まれて、そして……。


「ピィ、ピッ」
「わっ。……な、なんですかこの子。小鳥? かわいい……!」


 レヴィウスの手の中にはふわふわした小鳥がいた。
 小鳥は少し飛んで私の肩へと移動する。レヴィウスがそれを目を細めて見つめながら、説明をした。


「俺が魔力を練って生み出した使い魔だ。生き物というより、オートマタに近い。ネジを巻く代わりに魔力を入れることで動かせる。シルフィア、今後も仕事を続けるというならこいつを連れて行って欲しい。護衛になるだろう」
「護衛?」
「シルフィアに危険が迫ったら守ってやれる。あの男がまたシルフィアに寄ってきたら、身体に穴が開くまで攻撃することだろう」
「れ、レヴィウス様……流石にそこまでされなくていいです。追い払うくらいにしていただければ」
「そうか?」


 レヴィウスはやや納得していないように首を傾げている。
 ……彼の言い分には、どこかヒヤヒヤするところがある。大分丸くなったとはいえ、魔族の人間に対する扱いの軽さはまだ残っているようだ。


(私に危害を加えそうな人間に対して厳しくなるみたいだから、それを認識出来ない状況にさせればいいんだろうけど……)


「まあ、あの男だけでなく、他にもシルフィアに近付いてくる者がいてもおかしくない。本当は俺自身がシルフィアの店に行って監視したかったところだが……」
「そんな。むしろ……レヴィウス様には来てほしくないです!」
「なっ!? 何故だシルフィア!」
「レヴィウス様のような美しい方がいると、そわそわして仕事に身が入らなくなってしまいますからね! 私の仕事場以外のところへ行っていただくのをおすすめします!」
「そういうものか……」


 私が王都の地図を渡すと、レヴィウスは興味深そうに見つめていた。

(……これでなんとかカフェについては誤魔化すことが出来たかな。店内で迷惑な客が出ることもあるけど、その度に騒ぎを起こされても困るもんね)


 ****

 レヴィウスは翌日以降もアドラー家の作業があるということで、名残惜しそうに帰っていった。
 今後人間界に降りて来られる日が決まっている訳ではないが、機会を見て降りてきたい――そんな風に言っていた。


「ピピッ」
 一人で今後のことを考えていると、テーブルの上から鳴き声がする。
 そうだった。今の私はレヴィウスが置いていった使い魔と一緒なのだった。


 なんだか、不思議と見たことがある。
 この焦げ茶と黒と白が混ざったカラーリングは……。



「あっ……。そうか。ティラミスの色味に似てるんだ」
「ピィ?」
「今日からあなたはティラミスということで。よろしくね」
「ピピッ」


 私の目をじっと見つめたティラミスは、私の手のひらにスリスリしてきた。
 あったかくてほわほわしている。かわいい。


(城でハウディを世話していたときを思い出すな。ハウディもかわいいけど、ティラミスもかわいいわ。しかも手の中にすっぽり収まっちゃう……)

 
 ティラミスはまんまるふくふくの小鳥のように見えるが、その実は違う。実態は使い魔でレヴィウスの魔力から作り出したものだ。
 時々レヴィウスが魔力補給することで活動が続けられるようになるらしいが、止めたらそのうち消えてしまうらしい。


(どうしよう。もう愛着が湧いちゃったんだけど。ティラミスにいてもらうためには、レヴィウスと定期的に会わないといけないのよね……)


 ……でも、レヴィウスが言うには魔族が人間界にお忍びで来るだけなら問題ないらしいし。
 時々来るレヴィウスをもてなして、ティラミスに魔力補給をしてもらう……。
 それだけなら、悪くないかもしれないな。
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