14 / 33
14.知り合いと仕事場で会うのは気まずい①
しおりを挟む「いらっしゃいませー!」
「ノエル、気合いを入れすぎよ。もう少し控えめに、執事が当主をもてなすみたいに言って」
「いらっしゃいませ」
「ええ、及第点ね。ここのカフェに来る人は静かな対応を好むものだから」
主任の指導に私は頷き、そして仕事用のメモを取った。
ここは王立学園内にいくつかあるカフェのうちの一つである。
私はそこに店員として立っていた。
基本的に王立学園内の店は大人が店員として働いているが、ここは珍しく学園の生徒でも働くことが可能な店だったのだ。
しかも、中々お給金が弾む。
一般的な貴族の子女からすればはした金なんだろうけど、私としてはありがたい金額で、募集に申し込むことにした。
カフェの店員さんは、三年の先輩と二年の先輩が数人いて、一年は私だけだった。
必然的に知り合いはいない訳だけど、私はむしろその方が働きやすいかもと考えていた。
アルバイトとはいえ仕事である以上、仕事内容について査定されることはある。顔見知りよりも、初めて会う先輩方の方がやりやすいと思ったのだ。
概ねアルバイトの内情は私の予想通りだった。
三年の女子の先輩が主任として生徒たちをまとめており、私は彼女に仕事を教えてもらうことになった。
彼女の指導により、私は仕事をこなせるようになった。
想像よりもスムーズに事態を運べて、私はほっとした。
だが、目的はお給金だけではない。
私はカフェ内でやりたいことがあったのだ。
ある日のカフェの営業時間が終わった後、バックヤードで私は主任に相談した。
「限定メニューを考えたい?」
「はい。【ギフトの能力を書く】ことで、メニューに選べるセットがつくようにします」
このカフェでは、通常のメニューの他、店員が考える限定メニューがある。
私は今回限定メニューの担当に手をあげた。
私が考えたセット内容は【選んだメニューにプラスして焼き菓子がつく】というシンプルなものだが、焼き菓子の味にバリエーションを付け、それに加えてギフトの能力を書いてもらう――というところに狙いがある。
私がやりたいことは、【ギフトと食べ物の好みに相関関係があるか】という研究だ。
一般的に、食事内容とギフトの能力は無関係だと言われている。
運動能力は食事に左右されるが、ギフトは神からの思し召しだから食べ物では効果が変わらない――そう言われているからだ。
(でも、私はそうとは限らないと思う……)
ギフトが中々発現せずにやきもきしていた私は、ギフトの発現に何か条件が無いか、家にいるときに考えていたのだ。
私の立てた仮定はこうだ。
貴族、それも高位貴族ほどギフトの発現は早くなる。
それは、家で出る食べ物の豊富さによるのではないか。
身体が栄養を取り込まないと成長しないように、ギフトもある程度栄養を欲するのではないか――。
そして、発現したギフトの種類によって、味の好みも変わってくるのかもしれない。
好みの味とギフトの能力に関係があるのなら、特定の種類の食べ物を採り続ければ、計画的にギフトを強化することが出来るのかもしれない。
私はそういったことを研究したかった。
「なるほどね。メニューに【研究に使用する】と注釈を付けるなら可能かな。多分、それほど嫌がる人もいないと思うよ。うん。やってみればいいと思う」
「ほ、本当ですか……! ありがとうございます……!」
主任のゴーサインに、私はほっとする。
フィーナのプロフィールシートをそこそこの数の生徒が書いてくれたように、この学園の生徒はこういった調査には協力的のようだ。
「それにしても……」
主任は、私をじっと見つめて言う。
「何でわざわざカフェでギフト研究をするの?課題なら自分のギフトで研究すれば済むのに」
「それはですね。私にギフトがまだ発現してないからなんです……」
私は流れるように主任に嘘をついた。
自分のギフトについては誰にも悟られる訳にはいかないので、致し方ない――と自分に言い聞かせながら。
「成程なあ……」
主任は、まかないのドリンクを飲みながらどこか感じ入った声を出す。
「私のギフト、かなり外れ寄りなんだよね。でも、ギフトがまだ発現してない生徒もいるとは思わなかった。世界は広いね……」
「貴族だと中々聞かない話ですよね。……ちなみに、主任のギフトはどんなものなんですか?」
彼女の言葉が気になって、私は主任に確認する。
主任は、髪をかき上げて耳を指さしながら答えた。
「【聴力】よ。私の耳は普通の人間よりも感覚が過敏で、色々な音を聞き分けられるの。足音だけで誰が近づいてきたか判別出来る。店で仕事をしている間も発動させているわ」
「……そうなのですか。主任は遠くの客の呼び声にもすぐに気付くと思っていましたが、それは……」
「うん。ギフトを使ったもの。社交界で有利に働くかは微妙なギフトだから、せめて学生でいる間は有効活用したいと思ったのよ」
ギフトの種類は大きく分けて二つある。火や風を起こすなど能動的に外部に働きかけるものと、主任のように自身の身体の能力を強化するものだ。
そして、社交界で人気のあるギフトは前者の方だ。身体能力を強化しているかどうかは外部の人間から見てわかりづらく、また必ずしも有用な能力を強化出来る訳ではない――というのが主な理由である。
「例えば私が軍人だったらこのギフトは役に立ったんだろうけどね。どの魔獣が近付いてきたか音だけで判断出来る。すぐに出世出来たと思うわ。でも私は後方支援系の作業の方が好きだから……。うまくいかないものね」
「なるほど……。ですが、他国の言語の発音も聞き分けられるならば、語学系の学習にはかなり向いていそうだと思います。家庭教師や研究者の資格も取れるのでは」
「そう出来れば良かったんだけどね。外国語の発音って、うちの国よりもちょっと圧が強いでしょ? で、意識してギフトを発動すると私の耳には強すぎて体力を持って行かれるの。かといって、ギフトを抑えるようにすると普通の人間と変わらないくらいの感覚になるし」
「そうなのですか……。中々うまくいかないものですね……」
私は深く主任に同情した。
彼女にも秘密にしていることだけど、私もアルジェントの心の声が聞こえる、という妙な能力に振り回されている。ギフトを得たとしても本人にとって有用なものとは限らないというのはままならないものだ。
沈んだリアクションをする私に対して、主任はどこかカラっとした様子だ。
「ま、私はこの能力とも付き合いが長いから、良くも悪くもこういう生活に慣れちゃったけどね。
それより、ノエルみたいに手間暇かけて課題研究をする方が大変だと思うよ。さっき見たメニューは結構種類が多かったけど、本当に作れる?」
「大丈夫ですよ。あまり使わない材料も含めて、お菓子作りは慣れています」
私の提示したセットメニューは、選べる種類が沢山あった。ある程度選択肢を用意しないと、研究結果に繋がらないと感じたからだ。
その中には野菜や木の実、スパイスを用いたクッキーなど、一般的なカフェにはあまり無いものもあった。
だが、私は孤児院のおやつとしてこれらの焼き菓子を作っていたこともある。だから出来る見通しがあった。
「成程ね。余裕があったらでいいから、バックヤードでも食べれるくらいの量を作って欲しいな。私も珍しい味の焼き菓子は食べてみたいから」
「勿論です!」
主任の言葉に、私は笑顔で頷いた。
++++
カフェで働き始めてから数日経ったが、仕事は順調だ。
時々一年の私の知り合いも来るが、思ったより平常心で接客出来た。
私の考案したメニューが受け入れられるかの不安もあったが、概ね好評のようだ。
一般的なカフェでは食べられない菓子を食べれるという評判もあって、注文は増加傾向にある。
ある程度データが集まったら研究課題を進める予定だ。
試験まであともう少し時間がある。課題を作る猶予はあるだろう。
今日も販売予定のメニューを仕込み終えた。
今日の予定としては、後は店員として接客をすることになっている。私は制服を着て仕事に備えた。
「いらっしゃいませ」
「一人だ。……、……!?」
「あ……」
今まで接客をしていた生徒と交代して、来客に頭を下げた私は、あることに気付いて動揺する。
そこにはアルジェントがいた。
123
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
悪役令嬢は調理場に左遷されましたが、激ウマご飯で氷の魔公爵様を餌付けしてしまったようです~「もう離さない」って、胃袋の話ですか?~
咲月ねむと
恋愛
「君のような地味な女は、王太子妃にふさわしくない。辺境の『魔公爵』のもとへ嫁げ!」
卒業パーティーで婚約破棄を突きつけられた悪役令嬢レティシア。
しかし、前世で日本人調理師だった彼女にとって、堅苦しい王妃教育から解放されることはご褒美でしかなかった。
「これで好きな料理が作れる!」
ウキウキで辺境へ向かった彼女を待っていたのは、荒れ果てた別邸と「氷の魔公爵」と恐れられるジルベール公爵。
冷酷無慈悲と噂される彼だったが――その正体は、ただの「極度の偏食家で、常に空腹で不機嫌なだけ」だった!?
レティシアが作る『肉汁溢れるハンバーグ』『とろとろオムライス』『伝説のプリン』に公爵の胃袋は即陥落。
「君の料理なしでは生きられない」
「一生そばにいてくれ」
と求愛されるが、色気より食い気のレティシアは「最高の就職先ゲット!」と勘違いして……?
一方、レティシアを追放した王太子たちは、王宮の食事が不味くなりすぎて絶望の淵に。今さら「戻ってきてくれ」と言われても、もう遅いです!
美味しいご飯で幸せを掴む、空腹厳禁の異世界クッキング・ファンタジー!
仕事で疲れて会えないと、恋人に距離を置かれましたが、彼の上司に溺愛されているので幸せです!
ぽんちゃん
恋愛
――仕事で疲れて会えない。
十年付き合ってきた恋人を支えてきたけど、いつも後回しにされる日々。
記念日すら仕事を優先する彼に、十分だけでいいから会いたいとお願いすると、『距離を置こう』と言われてしまう。
そして、思い出の高級レストランで、予約した席に座る恋人が、他の女性と食事をしているところを目撃してしまい――!?
働かないつもりでしたのに、気づけば全部うまくいっていました ――自由に生きる貴族夫人と溺愛旦那様』
鷹 綾
恋愛
前世では、仕事に追われるだけの人生を送り、恋も自由も知らないまま終わった私。
だからこそ転生後に誓った――
「今度こそ、働かずに優雅に生きる!」 と。
気づけば貴族夫人、しかも結婚相手は冷静沈着な名門貴族リチャード様。
「君は何もしなくていい。自由に過ごしてくれ」
――理想的すぎる条件に、これは勝ち確人生だと思ったのに。
なぜか気づけば、
・屋敷の管理を改善して使用人の待遇が激変
・夫の仕事を手伝ったら経理改革が大成功
・興味本位で教えた簿記と珠算が商業界に革命を起こす
・商人ギルドの顧問にまで祭り上げられる始末
「あれ? 私、働かない予定でしたよね???」
自分から出世街道を爆走するつもりはなかったはずなのに、
“やりたいことをやっていただけ”で、世界のほうが勝手に変わっていく。
一方、そんな彼女を静かに見守り続けていた夫・リチャードは、
実は昔から彼女を想い続けていた溺愛系旦那様で――。
「君が選ぶなら、私はずっとそばにいる」
働かないつもりだった貴族夫人が、
自由・仕事・愛情のすべてを“自分で選ぶ”人生に辿り着く物語。
これは、
何もしないはずだったのに、幸せだけは全部手に入れてしまった女性の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる