貧乏令嬢は氷の侯爵の恋愛妄想が聞こえる~何故私がヒロイン役なのでしょうか~

白峰暁

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27.目を覚まして

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 精霊の導きに従い、私は歩き続けた。
 そして、一時のお守りみたいなものだけど――と言いながら、精霊は私を暖かな光で包んだ。
 瘴気に満ちた場所だと準備をしていないと動くのも難しくなるので、自然に対応出来るようにしてくれたらしい。



 洞窟を抜けると開けた場所に出る。



「ヘルムート先生……」
「ああ君か。よくこの場所がわかったね? 君もリエット伯爵の回復を求めて魔法の修行に来たということかな」
「……違います。詳細は省きますが、アルジェント様とヘルムート先生がこの山に来たと知る方法があったんです」
「へえ、なるほど。大まかな地名は伝えておいたとはいえ、僕たちがここに来ることは誰にも話していないはずなのだが。もしや、ギフトでも発現したかね? アルジェントくんがああなる前なら、君のことも研究してみたかったのだが……」
「……アルジェント様に何か起きたのですか?」



 ヘルムート先生にそう聞くと、彼はすたすたとこちらに近付いてきて、私の肩をぐっと掴んで言った。


「ありがとう、ノエルくん」
「……はい?」
「学園での君のギフト研究、見せて貰ったよ。あれも参考にさせてもらったおかげで、諸々うまくいった。
 君の研究に、リエット伯爵、二人がいなければここまでうまくはいかなかっただろう。
 ……リエット伯爵への実験はうまくいかなかったけど、その分アルジェントくんの実験は成功した。喜ばしいな」
「……あなたは、お父様に何かしたのですか!?」


 ヘルムート先生は父親とオルビス家のギフト研究に立ち会っていたらしい。
 父親が家で倒れていたのはギフトが事故で暴走した結果だと思っていたが、そこに人為的なものがあったのだとしたら……。


 ヘルムート先生は肩を竦めて言った。


「僕のギフトは然程強い能力ではない。だから、自然や人間に大きな影響を及ぼせるギフトに憧れていた。爆発や自然災害は綺麗なものだからね。だから僕の研究で、魔力を外から増強させることにした」
「……!」
「リエット伯爵にも力を与えてみたが、どうも彼の許容量は少なかったらしく、自宅で早々に暴発してしまったようだ。本当はもっとじっくり魔力を与えるはずだったのに……。だが、アルジェントくんにはリエット伯爵よりも魔力上昇に耐える力があったようで、良かったよ。これで、数百年に一度と言われるイベントに立ち会える……」



 私は、彼の言葉を聞いて思う。
 ――アルジェントは、魔力を付与されてギフトが暴走するように仕掛けられたんだ。

 しかも、先生の話によると、私の父親の自宅での事故とは比較にならない暴走が起きるのだという……。


「先生。ギフト災害は複数個の街が無くなるくらい大きな被害が出ると聞きました。それが起きるなら、私だけでなくてあなたもただでは済まないはず……」
「それはそうだね。でも、見たかったものを見れるなら僕としては後悔はないよ」
「……!」
「この雪山が崩れていく様はさぞ綺麗だろうな。僕はここにいるけど、折角だから君も一緒にどうかね」


 穏やかに微笑んでいる先生を見て、私は悟った。
 ――この人は、自分にどんな被害が出てもお構いなしなんだろう。


『ノエル。アルジェントはここにはいないわ。でも、近くにいる』
「……うん。私にも、わかる気がする……」



 私は精霊の言葉に小声で答え、ヘルムート先生から距離を取った。強烈な魔力の気配を感じ取りながら、私は歩く。
 アルジェントを魔道具で近くの街に連れて帰っても、彼の異変がそのままならあまり意味は無いかもしれない。
 でも、彼を探さない訳にはいかなかった。


(ここから孤児院はそれほど離れていない。災害が起きたら子どもたちも危ないかもしれない。何より――アルジェント様に何か起きているのは見過ごせない……!)



 ++++


「これは……」


 魔力の気配を辿って、私は地下への階段に辿り着いた。

 ナーデル山には古くから使われている神殿がある。
 その神殿は周辺の地脈が集まっている場所で、精霊も現れやすい。故に古代から儀式によく使われた場所らしい。


 神殿の祭壇から強い瘴気を感じる。父親が倒れていたときと同じような空気が辺りを満たしている。強い魔力がある場所には瘴気も現れる――私の持っている知識の通りだった。
 そして、祭壇の上には人間が倒れている。


「……アルジェント様!」


 私は、彼に近付いた。
 強すぎる瘴気が彼の周りを渦巻いていて、触れるのも難しそうだ。


 アルジェントは目を瞑り、私の言葉に反応しない。


『……だめね。ギフト災害は持ち主の心身の疲れが引き金になって引き起こされる。一度こうなってしまった以上、彼はそうそう目覚めないでしょう。そして、魔力を取り込もうとする力が強すぎて、わたし、も……』

 私の近くにいた精霊が力なく呟き、そしてふらふらとアルジェントの方へと向かっていった。
 私は手を伸ばして助けようとしたが、光の球はアルジェントの身体に吸い込まれた。


(魔力として取り込まれるって、ああいうことなんだ。……また、瘴気が濃くなった。早く精霊も助けるようにしなきゃ。そのためにも、アルジェント様を起こさないと!)



「……アルジェント様!」


 私は、彼に呼び掛けた。

 彼は答えない。


 私は、息を吸って手のひらに魔力を集中させた。
 家で練習して習得したもの――瘴気を除去する魔法だ。


 意識不明になった父親に、この魔法を使えば治るのではないかという望みで練習したものだ。
 実際のところ、効果は無かったのだけれど……。


(アルジェント様とお父様の状況は少し違う。お父様のもとに行ったときはもう爆発が起きた後だったけど、ここではまだ災害が起きていない。なら……)


 私は、魔力を集めてアルジェントの周りの瘴気に当てた。


 彼の周りを覆っていた瘴気が、少しだけ消える。
 そして、アルジェントの頭がぴくりと動いた。


(今なら、さっきよりも声が届くかもしれない……!)



 瘴気を除去する魔法は魔力を多く消費する。きっと長く続けることは出来ない。
 私は、意を決して再び呼び掛ける。
 なんとかして、彼の目を覚ますために。


「……アルジェント様! 聞こえますか。私です! ノエルです!」

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