猫のキミと暮らせば

竹笛パンダ

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師走

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 会社からの連絡で、在宅勤務は解けないけれど、年内に各職域でミーティングを開くみたい。佐々木君からは、
「今後の在宅勤務の対策として、会社に望む改善点を話し合ってほしい。」
 たったこれだけメールが届いた。一斉に出社すると、せっかく人込みを避けているのに、それではまったく意味がない。だから各部署ごとに、会議室を予約して調整している。
 もちろん、総務課が中心となって今後の調整を担当するため、一番初めに会議をすることになった。
「来週の月曜日、午前中会議かぁ」
 そのためには日曜日の朝からうちに帰って、次の日に会社に行かなければならない。
 アイツは週末のデートを楽しみにしていたから、ちょっとかわいそうだよね。

 すっかり私もキミのお世話や買い物を普通に頼んでいるから、初めのうちは悪いなって思っていたけど、今ではアイツから買いものに行こうって誘ってくれるから、私も当たり前に付き合っている。
 自然に距離を詰めてくるなんて……あれ?でも、奥手だと言っていたはず。
 今日も普段通りに朝お迎えに来て、キミと一緒に車に乗ってホームセンターに買い物に行くの。
 そしていつも海岸まで出て行って、海辺のお店でランチ、少し散歩して帰ってくる。こういうデートを重ねていくと、それが当たり前の日常になる。
 だから少し変わったことがあると新鮮に感じる。
 そういうちょっとしたこと……例えば、岬の先でイルカたちが一斉にジャンプするのを見たり、トンビがハンバーガーを狙ったとき、勇敢にもキミが威嚇して追い払ったり。そんな二人だけの景色は、いつの間にか特別な思い出になっていく。

 我には女房が修氏に心を許していくのがわかった。
 でも、女房も不器用なので、修氏の前では「お姉ちゃん」を崩すことができないのだ。
 修氏が優しいので、甘えてしまっている。「お姉ちゃん」なのに、である。
 修氏からはあこがれの「お姉ちゃん」と聞かされてしまっているので、どうにも修氏には殿方としての魅力よりも、よき「お姉ちゃん」でいることにこだわってしまっている。これを崩すような修氏の会心の一撃に期待したいものである。

 アイツに来週東京の家に帰ると言ったら、
「こっちで一緒に暮らそう。」と、言った。
「うそ、やだ、もしかしてプロポーズのつもり?」
 私も照れてしまって、こういたずらっぽく返すのがやっとだった。
「もし仕事が大丈夫なら、僕と一緒にここで暮らしてみない?仕事も頑張るし、さおちゃんと一緒ならもっと頑張れる気がする。」
 男の子のまっすぐな目線って、ドキッとするよね。そんなにまっすぐに言われると、心が揺れてしまう。突然そんなことを言うからびっくりしちゃった。
「考えとくね」
 そういうのが精いっぱいだった。なんなのこの子は。

 生意気に 一緒に住もうと いろいろと 覚悟を決める お年頃なの

 修氏の会心の一撃には我も驚いたが、我が皇子時代にもこういうのがあったらなぁと思っていた。とにかくまっすぐに思いを伝える。それがよいのである。
 皇子の時は美辞麗句をならべ、ほめちぎって興味を持ってもらうことがはやりだった。今どきの男子の実直なやさしさとまっすくな思い、ほかに何がいるものか。
 ほら、女房には、どうやら効果てきめんだったようだ。技ありである。
 うちの女房は、家に帰ってからは放心状態である。
 週末に東京に帰ることを母様は知っていたので、何があったかは察しがついているらしい。時々ニヤけては、女房の様子をうかがいながら我に話しかけてくる。
「修ちゃんとはお話しできたのかなぁ、東京の会社にいつまでも務めていても、ご縁がなければねぇ、どこに住んでも一緒だと思いませんか?キミィ?」
 そのように畳みかけてくる。いつもなら反発して
「うるさいなぁ」と一言返してプイっとするのに、今日は母様の話を神妙に聞いている。
「こういう反応は初めてよねぇ、キミも見たことないでしょ?」
 耳まで赤くなった女房が黙って自室に戻っていく。
「おやまぁ。」
 母様は、なんだかうれしそうだった。

 暁の 一番列車 振り返る 夢のまたゆめ 仕事に戻る

 ここにアイツが見送りに来ていてくれたらと、東京に戻る電車の中で、窓の外をぼんやり眺めながら、つい思ってしまう。素直にアイツの気持ちに答えられなくて、なんだか申し訳なくて。
 今ごろアイツ、変な勘違いしてないかな……。

 また来いよ アイツの顔が つらいから 黙ってきたの 悪かったかな

 これは絶対に、嫌われたか避けられたと勘違いするよな、男は。すれ違う二人が何とももどかしい。修氏よ、
「仕儀とだから、邪魔しちゃ悪い」って、駄々をこねる年でもないだろう。
 女房はわかっているのだろうか?修氏は「流される」奴だということが。この駆け引きは、引けば終わるのだ。
 そんなつもりはなくとも、修氏は何もできずに悲嘆にくれるのであろうな。女房の気も知らずに。
  
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