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偽りの舞台
第9話 小包(2)
しおりを挟む夕方、使いの者が百科事典を届けに来た。
差出人はカミル、受取人にはカイルの名が記されていた。
最近字が読めるようになったカイルへの、ささやかな演出だった。
「わぁ、お父様からだ!」無邪気に喜ぶカイル。
私は涙をこらえながら、精一杯の笑みを作った。
「そうね、素敵なプレゼントだわ。
これじゃ、ますます勉強しないと、お父様に笑われてしまうわよ。」
トーマスが優しく声をかけた。
「さぁ、カイルお坊ちゃま、お部屋で開けましょうか。」
「うん。」
そう元気に返事をしながら、カイルは百科事典を抱えて部屋に向かった。
夕食後、私は父と執務室で話をしていた。
今後、子供たちにこの事実を伝えるかどうか。
トーマスを交えて3人で相談した。
「おそらく領主は絶縁状を手形とともに叩きつけたのだから、葬儀への参加は認められないだろう。
カミル君に会わせることが出来るのは、検死を終えて、棺に納められてからということになるな。」
「ええ、そうね。
子供たちを大人の事情に巻き込むわけにはいかないので、静かに家族だけで見送りをしましょう。」
「そうであれば、ダイス医師へ連絡して、少し時間をいただけるように手配を頼む。」
「はい、ご主人様。そのように手配いたします。」
私は寝室に向かうと、アリスとカイルがまだ起きていた。
「お母様、大丈夫?なんだか元気がないから心配なのよ。」
アリスが声をかけてくれた。
「ええ、大丈夫よ。」
そう言って眠たい目をこすっているカイルの頭を撫でて、寝かしつけた。
「さあ、明日も早いわよ。今日はゆっくり寝なさい。」
アリスにも眠るように促した。
明日はカミルとの別れの日となる。
今までの二人の歩みを思い出しながら、心に留めるように繰り返し思い起こしていた。
二人の出会い、結婚式、アリスの誕生。
子供が生まれた後の子煩悩な様子。
カイルの出生には大喜びしていたこと。
裕福ではなくとも街の代官として仕事をこなしていた日々。
街の発展に将来の夢を膨らませていたこと。
美しい日々ばかりが思い出される。
「本当に苦しかったのだろうな。
私たちを守るために、一人で立ち向かっていたのだから。」
そう思うとまた涙がこぼれた。
川の水はさぞ冷たかったのだろう。
夫の無念を思うと、怒りがこみあげてきた。
夫は何者かの陰謀に巻き込まれて死んだのだ。
そう確信するものの、今の私には何一つ夫の身に起きたことを理解することが出来なかった。
「どうしてカミルは死ななければならなかったのだろう。」
そんなことを考えながら、子どもたちの寝顔を見ていた。
月明かりが優しく窓から差し込み、静かに夜も更けていった。
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