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偽りの舞台
第38話 足跡(2)
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ビッグスはカミルの指示書におかしいと思いながらも従い、酒と食事のお礼を言いたかったのだろう。
カミルもまたビッグスの来訪を心待ちにしていたんだ。
首謀者の誤算は、私たちが互いを信用しあう仲間だということを見落としていたということだ。
しかしそれが悲劇を生み出してしまったのかもしれない。
「カミルの身に何が起きたのかは、おそらくこのとおりね。
それでもまだわからないことがあるのよ。」
「ああ、そうだな。」
「巡回警備隊の日誌によれば、カミルが保護されたのは16日の夜よね。
ビッグスの消息を訪ねたカミルが、今までかかわりのなかった『エデン』に行ったのはどうしてだろう?」
「ビッグスの行方を追っているうちに、『エデン』にたどり着いたのか、それとも誰かに誘い込まれたのか?」
「そうですね、我々もそこは疑問なのです。
この『密輸』が『葉っぱ』であったのなら、関連はありますが、まだそこに至る情報を得られておりません。」
「そうよね、カミルは『葉っぱ』はやっていなかったから。
大麻との関わりがわからないのよ。」
「そもそもこの取引はアルベルトの紹介だと言っていたな。
奴はこの件にかかわっていたのか?誰の紹介なのかも判らないのか?」
「おそらくこちらが決定的な証拠でも出さない限り、口は割らないでしょう。」
「手詰まりね……。」
しばらくの沈黙の後、父が口を開いた。
「なぁコレット、カミル君のことは残念だが、これ以上のことを知ろうとするのは、お前にとってもいいことでないのではないか?」
父は遠慮がちに私に話をした。
「世の中には知らない方が良いこともある。
これから先のことを考えると、もうお前を関わらせるわけにはいかんのだと思うぞ。」
「そうですね、どうやらこの先は闇が深いように思われます。
コレット様の身にも危険が及ぶかもしれません。」
「いいえ、私は許せないのです。
確かにいろいろなことがカミルの身に起きたこともわかりました。
殺されなければならなかった理由も何となくわかりました。
しかしそれでも、私たちを利用し、街を奪い、悪いことをしている連中をそのままにしておくわけにはいかないのです。」
「まぁ、そうなのだがな、一応忠告はしておくぞ。お前には子供たちもいるのだから。」
「そうね……今はこれ以上のことは何もできないのよね。」
「まぁ、いずれどこからか新しい情報がもたらされるかもしれん。今はまだその時ではないのだよ。」
「コレット様、僕も騎士団の仲間から情報を集めておきます。
いい知らせを待っていてください。」とエリックは励ました。
「ありがとう、でもあまり無理はなさらないでね。
私たちにはまだ相手がわからないのだから。」
「はい、心得ました。」
「トーマス、『馬車馬』のマスターからはいい話が聞けそうか?」
「彼はあの店を閉めたがっていました。
治安が悪く、客足も『エデン』のおかげで遠のいてしまったとか。」
父は少し思案をしてから、
「彼には店を続けてもらおう、そしてなるべく情報を集めるように言ってくれ。
当座の店の資金は援助しよう。」
懐から金貨を1枚出した。
「うまく引き入れて来い。」
「かしこまりました。」
「お父様、よろしいのですか?」
「どうせお前のことだ、一人でも『エデン』に乗り込んでしまいそうだからな。
それにわしもカミル君が好きだったのだよ。
あれでいて結構商人にも人気があったのだよ。それだけに残念だ。」
「ありがとうございます。」
「だからと言っては何だが、ちゃんと家でおとなしくしているのだ。」
「はい……わかりました。トーマス、エリック、お願いしますね。
でも決して無理はなさらないでくださいね。」
「ええ、心得ております。」
私は、祈る思いでエデンに出かける二人を見送った。
カミルもまたビッグスの来訪を心待ちにしていたんだ。
首謀者の誤算は、私たちが互いを信用しあう仲間だということを見落としていたということだ。
しかしそれが悲劇を生み出してしまったのかもしれない。
「カミルの身に何が起きたのかは、おそらくこのとおりね。
それでもまだわからないことがあるのよ。」
「ああ、そうだな。」
「巡回警備隊の日誌によれば、カミルが保護されたのは16日の夜よね。
ビッグスの消息を訪ねたカミルが、今までかかわりのなかった『エデン』に行ったのはどうしてだろう?」
「ビッグスの行方を追っているうちに、『エデン』にたどり着いたのか、それとも誰かに誘い込まれたのか?」
「そうですね、我々もそこは疑問なのです。
この『密輸』が『葉っぱ』であったのなら、関連はありますが、まだそこに至る情報を得られておりません。」
「そうよね、カミルは『葉っぱ』はやっていなかったから。
大麻との関わりがわからないのよ。」
「そもそもこの取引はアルベルトの紹介だと言っていたな。
奴はこの件にかかわっていたのか?誰の紹介なのかも判らないのか?」
「おそらくこちらが決定的な証拠でも出さない限り、口は割らないでしょう。」
「手詰まりね……。」
しばらくの沈黙の後、父が口を開いた。
「なぁコレット、カミル君のことは残念だが、これ以上のことを知ろうとするのは、お前にとってもいいことでないのではないか?」
父は遠慮がちに私に話をした。
「世の中には知らない方が良いこともある。
これから先のことを考えると、もうお前を関わらせるわけにはいかんのだと思うぞ。」
「そうですね、どうやらこの先は闇が深いように思われます。
コレット様の身にも危険が及ぶかもしれません。」
「いいえ、私は許せないのです。
確かにいろいろなことがカミルの身に起きたこともわかりました。
殺されなければならなかった理由も何となくわかりました。
しかしそれでも、私たちを利用し、街を奪い、悪いことをしている連中をそのままにしておくわけにはいかないのです。」
「まぁ、そうなのだがな、一応忠告はしておくぞ。お前には子供たちもいるのだから。」
「そうね……今はこれ以上のことは何もできないのよね。」
「まぁ、いずれどこからか新しい情報がもたらされるかもしれん。今はまだその時ではないのだよ。」
「コレット様、僕も騎士団の仲間から情報を集めておきます。
いい知らせを待っていてください。」とエリックは励ました。
「ありがとう、でもあまり無理はなさらないでね。
私たちにはまだ相手がわからないのだから。」
「はい、心得ました。」
「トーマス、『馬車馬』のマスターからはいい話が聞けそうか?」
「彼はあの店を閉めたがっていました。
治安が悪く、客足も『エデン』のおかげで遠のいてしまったとか。」
父は少し思案をしてから、
「彼には店を続けてもらおう、そしてなるべく情報を集めるように言ってくれ。
当座の店の資金は援助しよう。」
懐から金貨を1枚出した。
「うまく引き入れて来い。」
「かしこまりました。」
「お父様、よろしいのですか?」
「どうせお前のことだ、一人でも『エデン』に乗り込んでしまいそうだからな。
それにわしもカミル君が好きだったのだよ。
あれでいて結構商人にも人気があったのだよ。それだけに残念だ。」
「ありがとうございます。」
「だからと言っては何だが、ちゃんと家でおとなしくしているのだ。」
「はい……わかりました。トーマス、エリック、お願いしますね。
でも決して無理はなさらないでくださいね。」
「ええ、心得ております。」
私は、祈る思いでエデンに出かける二人を見送った。
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