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偽りの舞台
第72話 奮闘(2)
しおりを挟む夕方、ジョージ先生はアリスのレッスンのために我が家を訪れた。
「さてアリス、モーツアルトの『猫』は捕まえることは出来たかい?」
「ええ、私なりの猫みたいな演奏を考えてみたのですが……。」
「早速聞かせてくれるかい?
アリスのモーツアルト『猫みたいなピアノソナタ』をね。」
アリスは早速練習の成果をジョージ先生に披露した。
「うん、いいね。
この第2主題のところ、左手の演奏を少しずつ小さくしているのはなぜだい?」
「『猫』が息をひそめて何かを狙っている様子を表してみました。」
「なるほど、そう言う解釈で弾くとこうなるんだね。
それじゃ、次のテーマの提示部の左手の演奏は、思いっきりアクセントをつけると対比が出て面白くなるね。」
そう言ってジョージ先生はピアノを弾きながら、アリスに見せていた。
「ここはどういう解釈なの?」
「そこは、遊んでいるうちに高いところに登ってしまって、意を決してジャンプして降りるところです。
そして無事に着地して、元のテーマに戻るのですが、前よりも少し気持ちが成長しているので、高い音に調がスライドしています。」
「あはは、さすがに僕は思いつかなかったよ。
いいね、そういう発想も面白いよ。
でもしっかり練習したんだね。
素早い演奏もちゃんとテンポに乗ってリズミカルにできている。」
「ありがとうございます。」
「後はアリスのイメージに沿って、緩急をつけたテンポを意識すれば、もっと面白くなるね。
学院のパーティーまでには仕上げられるかい?」
「ええ、頑張ってみます。」
「期待しているよ」と、ジョージ先生はアリスをほめていた。
私はピアノの稽古が終わるのを見計らって、二人に声をかけた。
「衣装の仮縫いをしたいので、少し待っていてくれるかしら。」
「お母様、もうできたのですか?」
「ええ、イメージが膨らんで、服を作りたくなったのよ。
それから早く形にしてみたくなってね。」
「コレット様も、芸術肌だったのですね。
アリスにもしっかり引き継がれている気がします。」
「そうなのね、自分では気付かないもののようね。」
私はアリスと目を合わせて笑っていた。
「ではジョージ先生、こちらを着てみてください。
イメージは聖女を守る神殿騎士と言ったところかしら。」
「これは……?」
白を基調とした上着には肩章が付き、帯状の装飾が入り、ダブルのボタンがついたスーツ姿だった。
「えっと……まぁ、先生もこういう格好をして舞台に立てば、きっと映えるんだろうなって。」
「先生、かっこいいですよ。」
「女の子はね、こういう格好の皇子様に守られてみたいものなのよ。」
細身で知的な印象のジョージ先生には、体型を生かしたスマートなスタイルの方が似合っていた。
「ほぅ……これはいいですね。」
姿見を見たジョージ先生は、まんざらでもない様子で姿見に見入っていた。
アリスにはAラインのワンピースで少し大人っぽい雰囲気、それでいて可愛らしいふわっとした袖と、中央には帯状の装飾を付けた。
身に着けてみると、こちらも神殿に仕える少女のようないで立ちだった。
「お母様、先生が神殿騎士で、私は従者のような格好だけど、誰に仕えているの?」
「それはね、この街の人々の幸せを願う聖女さまに……かしら?」
「ふふっ、そうなのね。」
私とアリスは、衣装を着て満足げなジョージ先生を見ながら、いたずらっぽく笑っていた。
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