告発のメヌエット ~ 貴族社会に挑む母と娘の物語 ~

竹笛パンダ

文字の大きさ
73 / 96
偽りの舞台

第72話 奮闘(2)

しおりを挟む

 夕方、ジョージ先生はアリスのレッスンのために我が家を訪れた。

「さてアリス、モーツアルトの『猫』は捕まえることは出来たかい?」

「ええ、私なりの猫みたいな演奏を考えてみたのですが……。」

「早速聞かせてくれるかい?
 アリスのモーツアルト『猫みたいなピアノソナタ』をね。」

 アリスは早速練習の成果をジョージ先生に披露した。

「うん、いいね。
 この第2主題のところ、左手の演奏を少しずつ小さくしているのはなぜだい?」

「『猫』が息をひそめて何かを狙っている様子を表してみました。」

「なるほど、そう言う解釈で弾くとこうなるんだね。
 それじゃ、次のテーマの提示部の左手の演奏は、思いっきりアクセントをつけると対比が出て面白くなるね。」

 そう言ってジョージ先生はピアノを弾きながら、アリスに見せていた。

「ここはどういう解釈なの?」

「そこは、遊んでいるうちに高いところに登ってしまって、意を決してジャンプして降りるところです。
 そして無事に着地して、元のテーマに戻るのですが、前よりも少し気持ちが成長しているので、高い音に調がスライドしています。」

「あはは、さすがに僕は思いつかなかったよ。
 いいね、そういう発想も面白いよ。
 でもしっかり練習したんだね。
 素早い演奏もちゃんとテンポに乗ってリズミカルにできている。」

「ありがとうございます。」

「後はアリスのイメージに沿って、緩急をつけたテンポを意識すれば、もっと面白くなるね。
 学院のパーティーまでには仕上げられるかい?」

「ええ、頑張ってみます。」

「期待しているよ」と、ジョージ先生はアリスをほめていた。
 
 私はピアノの稽古が終わるのを見計らって、二人に声をかけた。

「衣装の仮縫いをしたいので、少し待っていてくれるかしら。」

「お母様、もうできたのですか?」

「ええ、イメージが膨らんで、服を作りたくなったのよ。
 それから早く形にしてみたくなってね。」

「コレット様も、芸術肌だったのですね。
 アリスにもしっかり引き継がれている気がします。」

「そうなのね、自分では気付かないもののようね。」

 私はアリスと目を合わせて笑っていた。

「ではジョージ先生、こちらを着てみてください。
 イメージは聖女を守る神殿騎士と言ったところかしら。」

「これは……?」

 白を基調とした上着には肩章が付き、帯状の装飾が入り、ダブルのボタンがついたスーツ姿だった。

「えっと……まぁ、先生もこういう格好をして舞台に立てば、きっと映えるんだろうなって。」

「先生、かっこいいですよ。」

「女の子はね、こういう格好の皇子様に守られてみたいものなのよ。」

 細身で知的な印象のジョージ先生には、体型を生かしたスマートなスタイルの方が似合っていた。

「ほぅ……これはいいですね。」

 姿見を見たジョージ先生は、まんざらでもない様子で姿見に見入っていた。

 アリスにはAラインのワンピースで少し大人っぽい雰囲気、それでいて可愛らしいふわっとした袖と、中央には帯状の装飾を付けた。
 身に着けてみると、こちらも神殿に仕える少女のようないで立ちだった。

「お母様、先生が神殿騎士で、私は従者のような格好だけど、誰に仕えているの?」

「それはね、この街の人々の幸せを願う聖女さまに……かしら?」

「ふふっ、そうなのね。」

 私とアリスは、衣装を着て満足げなジョージ先生を見ながら、いたずらっぽく笑っていた。
  
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...