1 / 27
おっさん、お歳暮になる
名誉部長
しおりを挟む僕は、大手IT企業に勤めていた。コンピューターとはもう40年以上の付き合い。
主な仕事はパソコンのソフトにBASICを組み込んで、業務改善をすること。
これでも頑張ってきた方なんだけど、時代にはすっかり置いていかれて、もうついていけなくなった。
だから今では、若い人たちの仕事を眺めているだけの、「名誉部長」なんだ。
「はあ、もう活躍することはないのだな……。」
いつもの帰り道、とぼとぼと一人で歩いていると、
横断歩道で暴走車が突っ込んできた。
その瞬間、死を覚悟した……。
「割と人間って、あっけなく死ぬんだよな。」
そりゃ、確かに僕が「おじさん」と言われるようになったころには、生活にコンピューターがかかせなくなっていたよ。
でも、まさか神様までスパコン使ってるなんて。
HLA型一致 魂の過去は「イイヅカハルノブ」
「うそ、なんで55年物を選ぶかな。」
情報演算能力 Sクラス 取り扱い言語 BASIC
「BASIC?スクリプトの時代に?それしかできないの?」
選定理由:ニューロ経路パターンが理想的な制御構造を形成可能
NEWMON推定:10年以内に対象が指導した文明は3.5世代進化
「まあ、脳筋世界じゃ、それぐらいがちょうどいいわね……。」
ふと、そんな声が聞こえた気がして僕は目覚めた。
一面にコンピューターが並ぶ世界。スパコンの電算室に迷い込んだのか?
なぜかそこに、8畳ほどの畳の部屋にこたつ。ミカンと古いテレビがあった。
スパコンとは似合わない部屋に、どてらを着た美少女がこたつに入っていた。
「管理人室」って、ここの……かな?
宙に浮いたウィンドウ画面には、横断歩道の映像が流れていた。
「さっきまであんたがいたところだよ。横断歩道にいたあんたは、今は存在しない。会社にももう存在しない人になっている。」
「どういうことでしょうか?」
「あの世界でのあんたの役割はもう終わったの、さっき自分でも言っていたじゃない。『もう、役には立たないのだな。』って。」
「ええ、たしかに。」
「だから、あんたには違う世界で役に立って欲しいわけ。ちょうどあんたみたいのを探してくれって依頼があったのよ。そしたらスパコン『KAGUYA』が、あんたがいいって答えを出したのよ。」
両親死亡・未婚・社会的孤立・感情劣化・退職間近・窓際名誉部長
「うわ、ぼっちの要介護フラグじゃん……でも効率はいいか」
「はぁ?」と僕は疑り深い顔をしていた。
それがわかったかのように、少女は話を続けた。
「あたし?あたしは神の電算室の管理人、かぐやだよ。ほら、あんたって独身で両親も他界したボッチでしょ。会社でも特にやることもなく、いるだけ部長だったし。会社から家に帰って寝るだけの生活をして、いなくなっても最小限の影響で済むでしょ。」
「いや、確かにそうですけど。これはいったい何が起きているのでしょうか。」
「あ~っ、面倒ね。いい、あんた。AIの「NEWMON」を使って、KAGUYAがHLA型解析して、一番被害が少ないやつ探したら、アンタだったわけ。」
「はまり役か?ついに!」
「大好きな冒険ファンタジーの始まりと言ったらこれでしょうが。異世界転生の定番展開、お約束のやつ。わかった?」
「ああ、ついに神に選ばれしものになったのですね。」
「ちょうど影響が最小限な人物を探し当てただけよ。そのほうが助かるから。」
「それで……神は我に何を望むか。」
精神不安要素 加算
「あんた、人を上手に使っていたわね、パソコン使って。」
「業務省力化です。」
「あんたが仕事をすると、人が上手に動けるようになるじゃない。自分の世界にもそういう知恵者が欲しいって、異世界の神様やっている娘が言うのよ。誰かいい人いない?紹介してって。」
適合者にして影響最小限 やや言動に難あり 厨二気質にも適合
「ほっとけ……。」
「まぁ私もその娘には世話になっているし、ここで恩を返しておきたいのよ。それであんたを贈るのよ、ちょうどお歳暮のシーズンだし。」
「はい?で、お歳暮ギフトの僕は具体的に何をすればよろしいのでしょうか?」
「あんたが行くところはね、力こそがすべてという価値観が支配するところで、上手に文明が発達しないのよ。だから、若者としてその世界で暮らしてほしいの。もちろんあんたの知識を生かしてね。」
「わかりました。それでは行きましょうか。」
「まって、あなたは15歳で王都の官職の試験を受けるの。名前はそうねぇ『カイト』はどうかしら。平民だから苗字はないのよ。」
「15歳で『カイト』……ですね?どうしてその名を?」
と、テレビのリモコンを操作した。映し出されたのはアイドルグループの美少年達。ああ、なるほどね。
「かっこいい名前を頂戴し、ありがとうございます。」
「でしょ、でしょ?それじゃ、がんばってね。」
僕の周りに光の粒が集まった。それはやがて僕を包んで、飛ぶように僕を連れ去った。
気が付くと森の中にいた。森を抜けると、目の前には大きな城壁がそびえていた。
「そう言えば官職の試験に行くのだったな。」
服装は普通の布の服にマント、腰には皮の袋が下がっている。
「武器は、なしか……。」
僕は大きな城門に向かって歩いて行った。
「はい、次。」と言われて僕の番になった。
「名前と年齢、それから王都に来た理由を言ってください。」
「カイト、15歳です。王都には官職の試験を受けに来ました。」
「おい、まさか人間族か……その年で試験か?まぁ……なんだ、受験もいい経験だ。明日の試験、死ぬなよ。」
「ええっ?」
転生1日で死亡アリとか、本当に適合者なのかぁ?
気を取り直して王城の正門の下見に行き、そこからは今夜の宿探しをする。
早めに宿を見つけて腹ごしらえをしたいところだ。
王城の街道から一本路地を入ったところにうまそうな匂いを漂わせている店があった。 店先で入ろうかどうかと迷っていると、
「いらっしゃいませ」とかわいい声が僕に向けて飛んできた。
女の子が僕の前に現れた。
「あっ、どうも。いや、待てよ?」
そう、僕にはどてらの神様がくれた皮の袋だけだった。僕はそっと中をのぞくと、真っ暗で何も見えない。これはどうしたものかと考えていると、
「お前さん、ひょっとしてそいつはアイテムバッグじゃないのかい?」と、
先ほど声をかけてくれた女の子の父親が、様子を見に来てそう言った。その容姿は人間とは少し異なっていた。背は低いが肩幅のある大きな体、短くてとがった耳をしていた。
「あ、僕はカイトと言います。ちょうどご飯を食べようと思ったのですが、お金が、その……。」
「そのアイテムバッグにあるんじゃないのかい?そいつは財布にもなるんだがな……。まだあんたを持ち主として認めてねぇようだな。手を入れてみな。」
僕は恐る恐る皮袋に手を入れると、頭の中に直接声が届いた。
(このアイテムバッグの所有者を確認。カイトとして登録されました。)
(中身を確認しますか?)と聞いてきたので、心の中で「はい」と答えると、中身の一覧表が頭に浮かぶ。所持金は、2,680G
「ああ、良かった。僕はここに官職の試験を受けに来たのですが、宿をお借りできないでしょうか?それからお値段も教えてください。」
「おう、それならうちは一泊して夕食、朝食付けて20Gってところだな。」
「はい、ありがとうございます。今夜一晩お願いします。」
「いいぜ、ところであんた昼飯は?」
「先ほど王都についたばかりで、これから探そうと思っていたのですが。」
「それなら、昼はここで食べていきな。なに、田舎から出て来たんだろ。せっかく今夜はうちに泊まってくれるんだ。うちの肉を食え。それから珍しくうちの娘が声をかけたのでな。よっぽどあんたが珍しかったみたいだな。」
「ありがとうございます。では、一泊させていただきます。」
「ガゼルだ、こいつはミナ。」
「カイトです。よろしくね、ミナ。ガゼルさん、よろしくお願いします。」
「おう、カイト、それじゃ2階の階段から右奥の部屋を使ってくれ。そこならうちに泊まっているやつらが騒いでも、隣は空き部屋だから、静かに勉強ができるってもんだ。」
「ありがとうございます。」
「カイトさん、お昼ごはんすぐに支度するから待ってろって。」
「ああ、わかったよ、今行くからね。」
僕は1階の食堂に向かった。
「おう、カイト。こっちだ」
テーブルには積み上げられた肉の煮込みや野菜、パンが置いてある。一度にこんなに食べられるのか、疑問に思う量だ。
「いただきます。」と言って僕も食事をとる。
ガゼルはともかくミナも一緒になってすごい勢いで食べている。
「さっきミナが声をかけたのは、お前さんが珍しく痩せているからだよ。ここいら辺りの人はみんな力仕事か兵士だからな、身体が大きいのさ。」
「そう、すっごく優しそうな人だったからね。」
ガゼルとミナはそう言いながらおいしそうに食事をとっている。
「ほれ、カイトも食べないと明日の試験で力を発揮できないぞ。」
と言って肉を差し出す。一切れは500gもありそうな立派な煮込み肉だ。
普通ならこれさえ食べきれるか疑問の量だ。
僕はようやく一切れ食べて、
「ありがとうございました。もう十分いただきました。」と答えた。
「まあ、いいってことよ。人間族は少食だって聞くからな。」
え、人間族?この親子をよく見るとやはり人間ではない種族、そう見えた。
「もしかして、ドワーフさんですか?」
「おう、そうさ。ここいらに辺りには結構仲間がいるんだよ。ここは王都だからいろんな国からいろんな種族が集まる。官職もいろんな種族の事情が分かるように広く募集するんだが、人間族はだいたい合格できねぇ。」
え?どういうことなのだろう?と不思議な顔をしていると、
「加護持ちでもない限り、他種族を上回る力を出せないだろ?」
ああ、そう言うことなのだな。
僕は明日の試験は全力で立ち向かうと覚悟を決めた。
0
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
踏み台(王女)にも事情はある
mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。
聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。
王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。
幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。
灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。
曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。
婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。
前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる