7 / 42
竜騎士と秩序の天秤
おうじょうのおはなし
しおりを挟むウサギのラヴィとしてアイリスと一緒に過ごすようになって3日、私は片時もアイリスのそばを離れなかった。
アイリスがそうだったように、私が今から行くところは、母様が連れていかれたところ。
もしかして怖いところかもしれないと思うと、とても不安になる。
そんな様子もサポニスにはわかってしまうんだろうな。姿を隠してついてきているシルフが、
(大丈夫ですよ、お嬢様、いまのところお城には平和な空気が流れています。
人の悪意は感じられません)
と心の声で話しかけてくれる。
冒険者を束ねるエリックも、心配そうに私の様子を見に来てくれる。
いくら私のお願いでも、とても無謀なことだから心配しているのね。
アルス皇太子の一行は城へ無事に帰還した。
王命とはいえ、国の世継ぎである二人がそろって出かけるのは、極めて重要な事案であった。
無事に帰還できる保証のない旅路であったため、一同の到着に王城は大いに沸いた。
「ただいま帰還いたしました。
アルス、アイリス共に無事であります。」
王城の玉座には、王自らが皇子一行の到着を待っていた。
しかし、王妃も第二皇子もその場にはいなかった。
「おお、よくぞ戻った、して、森の主殿にはお目通りがかなったのかい?」
「いいえ、主殿は祈祷中ゆえに会えないと申されまして、代わりにサポニス殿が我らの相手をしてくださいました。」
「なんと、森の賢者様はそちらにいらしたのか。
まぁ、主殿には会えずとも、賢者様とのご縁ができたとなれば、僥倖ぞ。」
「はい、やはり森では主様と賢者様による統治が行われ、魔物、亜人種、そして精霊までもが平和に共存しておりました。」
「きょ、共存であるか?」
「ええ、父上、私共は、彼らとともに『食卓』を囲み、宴を楽しんでまいりました。」
とアイリスが答えた。
これには謁見の間にいた人々から、驚きの声が漏れた。
「して、どうであった。
その、森は我らを憎んではいなかった。
でよいのか?」
「はい、それどころか敵対の意思もなく、先日の盗賊団の一件も彼らの意思で住民を保護、盗賊の捕縛に協力したとのことでした。」
うむ……。
父王はしばらく考えた後、アカデミーの学者たちに招集をかけた。
今後、どのようにの竜の森と向き合うのか、考えるためだった。
「初代国王の時代には、竜の森との交流が活発に行われておった。
王族に子どもが生まれると、竜の森に先例に行くのだが……。
今ではもう、それも叶わなくなってしまった。」
「それでは父上も?」
アルスが父王に尋ねた。
「そう聞いておる。」
父王は、少し寂しそうな表情を浮かべていた。
「長旅、ご苦労であった。
今日はもう下がってゆっくりと過ごすがよい。」
「は、仰せのままに」
「ところで、そのウサギはなんじゃ。」
「この仔は森で出会って、今もともに暮らしております、ウサギの『ラヴィ』です。」
そう言ってアイリスは私を王様に渡そうとしたけど、私には母様を連れ去った王様が恐ろしく思えて、足をじたばたさせて嫌がった。
「なんじゃ、わしの元には来てくださらぬのか。」
と少しがっかりしていた。
「ふむ……よかろう、森に縁のある者じゃ、丁重に扱うように。」
こうして私は王様に滞在を許された。
私とアイリスが部屋に戻ると、侍女たちが待ち構えていて、お風呂に案内された。
いくら長旅でもお風呂がない生活は女の子には耐えられないものだったので、アイリスは喜んで侍女の世話になり、身体をきれいにしてもらった。
私も侍女たちにもみくちゃにされ、石鹸で泡だらけになった。
それからお湯で洗い流され、アイリスの湯船の隣に置かれた洗い桶に入れられた。
ふぁ~、なんて心地よいんだろう。
私は初めてのお風呂を楽しんでいた。
ドラゴンだった時は、うろこに汚れが残ることはなく、たまに湖で水浴びをするくらいだった。
だから、森に棲む亜人種の皆さんはお風呂に入っているだろうけど、魔物の私たちにはそのような習慣はなかった。
侍女たちは慣れた手際でアイリスを寝衣に着替えさせ、私をどうしようか考えあぐねていた。
びしょびしょの身体をぶるぶる振ってみた。
途端に水しぶきがお風呂場いっぱいに広がる。
もちろん侍女たちも水浸しになった。
(ご、ごめんなさい)と私は心で謝った。
それからは侍女たちがタオルで私をもみくちゃにした。
ある程度拭きとれたところでアイリスが魔道具に魔力を流し、そこからは暖かい風が出てきた。
『刻印魔法』
魔道具に刻まれた刻印に魔力を流すことで効果を発揮する。
サポニスが魔道具を作るときに使っている手法と教えてくれた。
体を乾かすと、私の身体はふわふわの毛玉のようになっていた。
アイリスが、「かわいい!」と言って、思わずぎゅっと抱きしめてくれた。
侍女たちにもなでなでされた。
私の手触りを楽しんでいるようだった。
アイリスは軽く食事をとり、今日はそのまま休むことにした。
私にはサラダが盛り付けられた皿が用意され、一緒に食事を楽しんだ。
それからアイリスは旅の日記をつけて、ベッドに入った。
私はアイリスの隣で丸くなって休んだ。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?
行枝ローザ
ファンタジー
美しき侯爵令嬢の側には、強面・高背・剛腕と揃った『狂犬戦士』と恐れられる偉丈夫がいる。
貧乏男爵家の五人兄弟末子が養子に入った魔力を誇る伯爵家で彼を待ち受けていたのは、五歳下の義妹と二歳上の義兄、そして王都随一の魔術後方支援警護兵たち。
元・家族の誰からも愛されなかった少年は、新しい家族から愛されることと癒されることを知って強くなる。
これは不遇な微魔力持ち魔剣士が凄惨な乳幼児期から幸福な少年期を経て、成長していく物語。
※見切り発車で書いていきます(通常運転。笑)
※エブリスタでも同時連載。2021/6/5よりカクヨムでも後追い連載しています。
※2021/9/15けっこう前に追いついて、カクヨムでも現在は同時掲載です。
酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ
天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。
ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。
そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。
よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。
そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。
こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる