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竜騎士と秩序の天秤
わたしのなまえ
しおりを挟む真夜中、私は白い人影も見たの。
その人影はだんだん大きくなって、私を撫でてくれた。
「母様?母様なのね。
こうしてまた会えるなんて、うれしい。」
「我が娘、今ではラヴィね。
よく来てくれました。
アイリスより名を授けられたのですね。
それでは、竜の血盟によって二人に祝福を与えます。」
そう言って母様だった光がアイリスと私を包んだ。
一面真っ白な世界にアイリスと私だけがそこにいる。
「どうかこの二人に力を、秩序の天秤の名のもとに、平和と調和の守護たる力を与えたもう。」
「竜の紋章」が私の額と、アイリスの手の甲に浮かび上がった。
光はさらに強く輝き、やがて収束され、気づけば私たちはベッドに戻っていた。
「アイリス、ラヴィ、いつまでも仲良くね。母様はずっとあなたたちを見守っているわよ。愛しているわ。」
最後に二人をぎゅっと抱きしめて、母様の姿が光の粒になって消えていった。
そして次の朝、私は自分の姿が変わっていることに驚いたよ。
「きゃ~。」
アイリスの悲鳴で起こされた。
「もう、騒がしいなぁ。なに?」
と眠たい目をこすると、
「ん?手?」
そう言って自分の身体を見回すと、女の子だ。
女の子になってる。
だいたい学校に通い出す子どもくらいの大きさの、人間の姿になっている。
「きゃ~、なになになに?」
「もしかして、ラヴィ?」
「うん」とコクリとうなずく。
「母様が竜の血盟って言っていた。」
「そうなのね。」と言ってアイリスの目からは涙があふれている。
「サニアお母様、ありがとうございます。
ラヴィと無事に出会えることができました。」
「え? なに?
サニアお母様って?」
「ねぇラヴィ。
あなたにはお話をしなければならないことがたくさんあるの。
聞いてくれるかな?」
「うん、私もどうしてこうなったか聞きたい。」
「まずは、あなたがドラゴンの娘で、サニアお母様の娘でいいのよね。
それで森の主様で。」
「……うん。」
正体がわからないようにしていたつもりだったけど、こうしてお話をしているのにいまさら隠してもねぇ。
「やっぱり、あなたからは不思議な魔力が感じられたの。
とても懐かしい感じの。
だから、もしかしてあなたが森の主様かなって、思っていたんだよ。」
「うん、サポニスに頼んで変身していたの。
森の主が幼いドラゴンだとわかると、討伐されてしまう危険があったから。」
「私も弟も本当はそのことを知っていたんだよ。
その話はまた後にして、とりあえず、その姿についてお話しするわね。」
「ラヴィは私に名を与えられたの。
呼び名じゃなくて、本当の名前。」
「え、人間は魔物に名づけをできないってサポニスが言ってたよ。」
「それは人間が魔物よりも力が弱いから。
でもね、私たちはサニアお母様、あなたの母様の『竜の血盟』によって魂が結ばれたの。」
「だから、私はあなたに名前を付けて、あなたは私に近い姿になった。」
そういえばサポニスも言っていた。
魔物に名をつけると名づけたものに近い姿になるか、存在が進化するって。
「まぁ、いつまでも裸でいるわけにはいかないわね。」
そう言って通話の魔道具に話しかけた。
「おはよう、私の朝の支度をお願いしたいのと、わたしの子どもの頃の服はまだ残っているかしら?」
「はい、姫様、ございますよ。」
「私が8歳くらいの頃に着ていた服と下着、そのほか使えそうなものがあれば持って来てちょうだい。」
「はい、どうされるおつもりですか?」
「いるのよここに、8歳くらいの女の子が。」
「かしこまりました。すぐにお伺いいたします。」
侍女たちは私に服を着せてくれた。
初めての服。鏡に映った姿に我ながら満足している。
私はあこがれていた人間の服を着るのが嬉しくて、スカートをひらひらさせてみた。
私はこの様子をシルフに言って、サポニスに知らせるように頼んだ。
王様が慌てて私たちの部屋を訪れた。女の子の姿になった私を見て、
「其方が竜の娘であるか、どことなくサニアに似た、利発そうな子供だな。」
そう言って私を迎え入れ、ぎゅってしてくれた。
侍女たちにはこのことは内密にするようにと指示が出され、今後の対応をどうするかは父王の判断を仰ぐことになった。
いまはどこから見ても普通の女の子。
アイリスとおしゃべりができて、服を着ておしゃれができる。
これほど嬉しいことは他にはない。
ずっと空から見て憧れていた、街の女の子の姿だ。
私をまだ人前に出すわけにもいかないので、朝食は二人で、お部屋で食べた。
初めての人間の食事。
アイリスと二人だけだけど、とっても楽しい。
「ねぇラヴィ、その姿で私のことをアイリスって呼ぶと、お城の人たちから、変に疑われるといけないので、『お姉ちゃん』と呼んでくれるかな?」
「うん、お姉ちゃん。」
そういうと、アイリスは嬉しそうに照れていた。
ラヴィは姉を、アイリスは妹を欲しがっていたので、ちょうどよく二人の密約は成立した。
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