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後編 影追い、戦う者たち編
26話 小さな幸せと、猫社長の憂鬱
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夏休みが明け学校がはじまり、中学生マー君もそれなりに忙しい。
しかし、かたわらには愛する三毛猫ミーちゃんがいる。
夏の終わりの夏まつりに彼女を保護して1週間。
街は、いつもと変わらぬ穏やかな朝だ。だが、その静けさの裏で、何かが少しずつ、不穏な音を奏で始めていることに、まだ誰も気づいていない。
「あ、智也からだ。また怖い話!もう夏おわったのにな」
マー君もそんなこととは露知らず、愛用のナイロン財布のマジックテープをぺりぺりはがし言った。
この風流市は、知る人ぞ知る心霊スポットや都市伝説の宝庫だ。妖怪話も豊富で、噂の絶えない場所として知られている。
廃団地からピアノの音が聞こえるだとか、カッパが洗濯しているのを見ただとか、そんな話が日常茶飯事のように飛び交うのだ。
だからこそ、「それ系」ユーチューバーたちがこぞって突撃してくる。彼らの動画は嘘が主役!怪談はエンターテイメント。
マー君たちはその内容にツッコミを入れながら楽しんでいた。
しかし、9月に入ると状況は一変する。噂話が増え続け、今までとは違った不穏なトーンが漂い始めたのだ。しかも、話に具体性が帯びてきている。
例えば、有名ユーチューバーが深夜に撮影したという「黒い影」の映像。再生回数は急速に伸び、「消えたキツネ横丁から奇妙な声が聞こえる」などといった噂が、まことしやかに囁かれ始めているという。
マー君は、スマホの通知をちらりと見て、その「怖い話」を開きかける。
だが、今はお小遣いのことで頭がいっぱいだ。きっと、いつもの大げさな話だろう、と勝手に納得し、すぐに画面を閉じた。
「へへ、月初めだから結構、おこずかいあるんだよねぇ。
これでミーちゃんに爪とぎ買おっと!」
実はこの三毛猫ミーちゃん、なかなかの探検家であった。
慣れぬ家の中、おずおずとリビングから隣の和室へ大冒険。
ふすまを見つけると、バリバリと爪とぎ。
障子をぽすっと破り、飼い猫生活を満喫中だ。
猫って、ホントにふすまやら障子で爪とぎするんだねっと、マー君と姉は顔を見合わせて笑ってしまった。
「だいじょうぶでしゅよー、ミーちゃん!プラスティックの障子紙にしますからねー」
今ではミーはすっかり家族の一員となり、両親特に父親はミーの可愛さにメロメロで大甘なのだ。
そして、なぜか、幼児言葉で話しかけている。
「にゃーん」
賢い猫ミーは、はじめはこの父を怪しい大人の人間だと怪しんだが、マー君親父連合のちゅるちゅる攻撃にあい、いい人なのだと彼女なりに納得した。
「お返事できるなんて、天才でしゅ!!」
ここにも猫馬鹿が誕生したのである。
マー君は大学生の姉と一緒に「ペットのおもちゃ屋」を訪れた。
姉は髪をミルクティー色に染めた、ショートボブ、活発な印象だ。
「へ~、品ぞろえ豊富~!流行のお店って感じ!」
ペットのおもちゃ屋とは、最近急激に店舗数を伸ばしているペットフード&グッズの専門店である。
パステルカラーでまとめられた内装は、さながら海外のベビー用品店のようだ。姉はさっそく爪とぎ売り場を探した。
「100円ショップのでも十分だけど。
面白い形の爪とぎが欲しかったんだよね。
ミーちゃんも喜んでくれそうだよ」
マー君が購入したのは、おにぎり型の爪とぎだった。
姉が申し訳なさそうに手を合わせて言った。
「ごめんね、お金なくってさ。バイト代もゼロ!」
あ、けど、アイスおごるくらいならOKだよ!」
ガリガリ君食べよ~ね!と弟を引っ張り店を後にした。
***
同じころ、ペットのおもちゃ屋社長、通称猫社長は店舗裏事務所で、猫のように丸くなってうなっていた。
三つの悩みの種が、社長の頭を締め付けている。
一つ目は人材難だ。最近応募してくるのは妙な黒スーツの輩ばかり。
履歴書に書かれた経歴は怪しげで、面接での受け答えもどこか胡散臭い。
ペットのおもちゃ屋だというのに、ポメラニアンを見て震え上がるとはどうしようもない。
「はぁ…………。ゆるキャラさん達の接客の方が、よっぽどいいよ。言葉数は少ないけど、説明は的確だし、いつも笑顔だしねぇ」 猫社長はひとりごちた。
彼らはいつも直立不動だが、ペットを扱う際の動作はキビキビとしている。動物好きらしく、なでたり、抱きしめてかわいがっている姿もほほえましかった。
「でも、彼らも結構忙しいらしくて、すぐやめちゃうんだよねぇ」 頼れる社員ほど、なぜかすぐにいなくなってしまう。
二つ目の悩みは、新店舗の土地計画が進まないことだ。地区の有力政治家が裏で糸を引き、懇意にしている業者へ嫌がらせが起きている状況だ。
「ちぇっ、露骨すぎる」
猫社長は舌打ちした。自分たちは新興勢力とはいえ、あの政治家の商売の邪魔をしているつもりはない。なぜそこまで?
意図が見えないからこそ、余計に腹立たしい。
猫のように丸くなって、ふーーーとうなった。
「社長!また猫背になってますよー」
「ああ、すまんすまん、この間の猫妖怪ちゃんのブロマイドの撮影のトラブルを思いだしてね。あとでキツネママにも謝りにいかないと」
「スナックのママさんって噂話にも強いらしいし、あの政治家の話聞いてみたらどうですか?」
「あ、ああ……、なにかつかめるかもしれないね」
しかし、かたわらには愛する三毛猫ミーちゃんがいる。
夏の終わりの夏まつりに彼女を保護して1週間。
街は、いつもと変わらぬ穏やかな朝だ。だが、その静けさの裏で、何かが少しずつ、不穏な音を奏で始めていることに、まだ誰も気づいていない。
「あ、智也からだ。また怖い話!もう夏おわったのにな」
マー君もそんなこととは露知らず、愛用のナイロン財布のマジックテープをぺりぺりはがし言った。
この風流市は、知る人ぞ知る心霊スポットや都市伝説の宝庫だ。妖怪話も豊富で、噂の絶えない場所として知られている。
廃団地からピアノの音が聞こえるだとか、カッパが洗濯しているのを見ただとか、そんな話が日常茶飯事のように飛び交うのだ。
だからこそ、「それ系」ユーチューバーたちがこぞって突撃してくる。彼らの動画は嘘が主役!怪談はエンターテイメント。
マー君たちはその内容にツッコミを入れながら楽しんでいた。
しかし、9月に入ると状況は一変する。噂話が増え続け、今までとは違った不穏なトーンが漂い始めたのだ。しかも、話に具体性が帯びてきている。
例えば、有名ユーチューバーが深夜に撮影したという「黒い影」の映像。再生回数は急速に伸び、「消えたキツネ横丁から奇妙な声が聞こえる」などといった噂が、まことしやかに囁かれ始めているという。
マー君は、スマホの通知をちらりと見て、その「怖い話」を開きかける。
だが、今はお小遣いのことで頭がいっぱいだ。きっと、いつもの大げさな話だろう、と勝手に納得し、すぐに画面を閉じた。
「へへ、月初めだから結構、おこずかいあるんだよねぇ。
これでミーちゃんに爪とぎ買おっと!」
実はこの三毛猫ミーちゃん、なかなかの探検家であった。
慣れぬ家の中、おずおずとリビングから隣の和室へ大冒険。
ふすまを見つけると、バリバリと爪とぎ。
障子をぽすっと破り、飼い猫生活を満喫中だ。
猫って、ホントにふすまやら障子で爪とぎするんだねっと、マー君と姉は顔を見合わせて笑ってしまった。
「だいじょうぶでしゅよー、ミーちゃん!プラスティックの障子紙にしますからねー」
今ではミーはすっかり家族の一員となり、両親特に父親はミーの可愛さにメロメロで大甘なのだ。
そして、なぜか、幼児言葉で話しかけている。
「にゃーん」
賢い猫ミーは、はじめはこの父を怪しい大人の人間だと怪しんだが、マー君親父連合のちゅるちゅる攻撃にあい、いい人なのだと彼女なりに納得した。
「お返事できるなんて、天才でしゅ!!」
ここにも猫馬鹿が誕生したのである。
マー君は大学生の姉と一緒に「ペットのおもちゃ屋」を訪れた。
姉は髪をミルクティー色に染めた、ショートボブ、活発な印象だ。
「へ~、品ぞろえ豊富~!流行のお店って感じ!」
ペットのおもちゃ屋とは、最近急激に店舗数を伸ばしているペットフード&グッズの専門店である。
パステルカラーでまとめられた内装は、さながら海外のベビー用品店のようだ。姉はさっそく爪とぎ売り場を探した。
「100円ショップのでも十分だけど。
面白い形の爪とぎが欲しかったんだよね。
ミーちゃんも喜んでくれそうだよ」
マー君が購入したのは、おにぎり型の爪とぎだった。
姉が申し訳なさそうに手を合わせて言った。
「ごめんね、お金なくってさ。バイト代もゼロ!」
あ、けど、アイスおごるくらいならOKだよ!」
ガリガリ君食べよ~ね!と弟を引っ張り店を後にした。
***
同じころ、ペットのおもちゃ屋社長、通称猫社長は店舗裏事務所で、猫のように丸くなってうなっていた。
三つの悩みの種が、社長の頭を締め付けている。
一つ目は人材難だ。最近応募してくるのは妙な黒スーツの輩ばかり。
履歴書に書かれた経歴は怪しげで、面接での受け答えもどこか胡散臭い。
ペットのおもちゃ屋だというのに、ポメラニアンを見て震え上がるとはどうしようもない。
「はぁ…………。ゆるキャラさん達の接客の方が、よっぽどいいよ。言葉数は少ないけど、説明は的確だし、いつも笑顔だしねぇ」 猫社長はひとりごちた。
彼らはいつも直立不動だが、ペットを扱う際の動作はキビキビとしている。動物好きらしく、なでたり、抱きしめてかわいがっている姿もほほえましかった。
「でも、彼らも結構忙しいらしくて、すぐやめちゃうんだよねぇ」 頼れる社員ほど、なぜかすぐにいなくなってしまう。
二つ目の悩みは、新店舗の土地計画が進まないことだ。地区の有力政治家が裏で糸を引き、懇意にしている業者へ嫌がらせが起きている状況だ。
「ちぇっ、露骨すぎる」
猫社長は舌打ちした。自分たちは新興勢力とはいえ、あの政治家の商売の邪魔をしているつもりはない。なぜそこまで?
意図が見えないからこそ、余計に腹立たしい。
猫のように丸くなって、ふーーーとうなった。
「社長!また猫背になってますよー」
「ああ、すまんすまん、この間の猫妖怪ちゃんのブロマイドの撮影のトラブルを思いだしてね。あとでキツネママにも謝りにいかないと」
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