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後編 影追い、戦う者たち編
27話 猫社長の憂鬱とチンドン屋の真実
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チンチンドンドン、鐘と太鼓が一緒になったチンドン太鼓が鳴らされる。
さぁさ、風流一座、本日も……。
「東西、東西、隅から隅までご覧あれ~~!
ここは平和な風流市、山は狸温泉ほっかほか、川に遊ぶはカッパの伝説!
昼は人、夜はあやかし。商いの奥に妖の影、祭りの裏に笑いと涙!
さてさて風流一座、吹き込むは音の風。
鳴らす太鼓に願いをのせて、響く音色は過去と未来を繋ぐ糸。
三味線じいじのこの糸に、町の百年、記憶が宿り。
お町の笑顔、涙も、みな音に染めてお届けつかまつる!」
団長は華やかな衣装をまとい、大きなプラカードを掲げて先頭を行く。
その横では、ラメ入りのまばゆい青い着物がひときわ目を引く青様が、にこやかにビラを配り、時折ひらりと身を翻して観客を魅了する。
「セニョリータたち!今宵!リニューアル!祭りだ!店に来ておくれよ~」
音吉はティッシュを配りながら、愛嬌たっぷりに笑顔を振りまいていた。
「サーカスみたい!」
「キャー、風流一座、青様素敵!!」
うちわを持った推し活女子たちの、黄色い歓声が飛ぶ。
「これは、時代劇?歌舞伎ですか?」
外国人観光客もそのパフォーマンスに目を奪われていた。
猫社長の回想
あれは先日予定していた、猫妖怪ブロマイドの撮影でのことだった。
今回の撮影テーマは、ずばりレトロな風景。
ちび猫妖怪達も張り切って撮影前からポーズを研究していたほどだ。
ニャハ?ニャーン~、みんなで遊ぼ!
招き猫の手がいいかな?どう?
商店街は、休日でも人出が少ないと聞いていたが、その日はかなりの人数が繰り出し、その中心にはあの「風流一座」がいた。
「ああ、あれが話に聞く、チンドン屋ですかぁ」
ペットのおもちゃ屋猫社長とスタッフは目を輝かせた。あやかし経済雑誌でも取り上げられ興味があったのだ。
実物を見た猫社長の心はさらに浮き立った。
「次の新店オープンには、うちも頼んでみたいなぁ」
しかし、一座のパフォーマンスはすぐに落ちた。
暑さのせい?たしかにアーケード街とはいえ、この蒸し暑さだ。
先ほどまで生き生きとアドリブを入れていた団長、楽し気に楽器を奏でていた団員達。今はげっそりと疲れた顔で、動作も人形のように生気がない。
猫社長はある青年に目を留めた。
彼のクラリネットの音程はかなりはずれた、いかにも初心者といった音で、周りの笑いを誘っていたのだ。
だが、猫社長が違和感を感じたのは、単に音が外れていることだけではなかった。
「おい、お前は少し外れろ!」
団長らしき人物が、その青年に対しいらだったように指示を出した。青年はしょんぼりと、チンドン屋の輪から外れた。
猫社長は、これは好機とばかりに、その青年に近づき、話を聞くことにした。
「君、ひどい言われようだったけど、大丈夫かい?」猫社長が優しく声をかけると、青年は恐縮した様子で答えた。
「あ、はい、すみません。僕、楽器が下手なので」
ぐすぐすと泣きべそをかいた彼の耳から、人間の耳が消え、頭の上に丸い耳がぴょこんと飛び出した。
それは、いわゆる猫耳カチューシャの狸版のような、毛の生えた可愛らしい耳だった。
そう彼の正体は海でおぼれた狛犬を助けたあの狸の音吉である。
音吉は「あ!」と小さな声を上げて耳を抑え、恥ずかしそうに下を向いた。
「気にしなくていいよ」猫社長は言いながら、その瞬間、はっと息をのんだ。この狸青年には、「影」がくっきりとあったのだ。
野生の勘鋭い猫社長は、団員の半数以上が影が薄れていた事に気づいていた。
そして、彼と他の団員の音にも違いがある。
音吉の場合は、単に下手、音が外れているだけだ。
しかし、風流一座のチンドン音からは不快で、「異様な響き」が聴こえるのだ。
「私は耳がよくてねぇ、よすぎるのも困りもんだよ」
「君は、なぜチンドン屋に?」猫社長は核心に迫った。
狸青年は少しとまどいながらも、チンドン屋への深い愛情を語り始めた。
「僕、山奥の村にいたときからチンドン屋さんが大好きで、得意なダンスも生かせるかと思ったんです!」
「ああ、昔から狸の踊りは有名だものねぇ」
「でも、ダンスより、楽器って言う方針で。でもって、まだ見習いなんです」
「なるほど、見習いなのかい」
猫社長のなかで、今回の騒動のなにかがパチン、と音を立ててつながり始めた。
「はぁ、いつになったら先輩達みたいな音が出せるんだろ?なんか、すごく変わった音ですよね?
僕が田舎者だからかなぁ?」
その言い方があまりにいじらしく、猫社長はふと昔の自分を思い出した。
「早く見習い卒業してみんなと街を盛り上げたいです!」
そうか、彼は人間とあやかし関係なく、この一座を愛しているんだなと猫社長は気づいた。
そして、狸であるにも関わらず、キツネのあやかしが多いチンドン屋に所属していることにも、彼の信念や芯の強さを感じるのだ。
「見た目によらず、なかなかの若者ですねぇ」
いけない、つい話し込んでしまった! 猫社長は音吉に名刺を渡し、あわてて猫妖怪たちの元へ戻った。
幼年組猫妖怪たちは、はじめはきゃきゃとはしゃぎ、三味線や、サックスの真似をする子までいたらしい。
しかし、しばらくすると、猫妖怪たちは異変をきたした。ある者は怖がって耳をふさぐ、音につられて踊り狂う子まで現れた。
猫社長は、あの時の猫妖怪たちの異変を思い出し、胸が締め付けられる。
「まずい!」とスタッフと社長は、必死で彼らを連れしばらく路地裏をさまよった。
いつの間にかたどり着いたそこは、今はなきキツネ横丁とされる場所。
彼らはほっと息を吐き、あたりを見回した。
怪しいものはないようだ。
そして彼らは、ほんの一瞬、キツネ横丁の在りし日の幻をみた。
猫社長は机の上でそれを思い出し、深く重いため息をついた。
これが社長を憂鬱にしている、3つの悩みの最後である。
明日あたりあの喫茶店エコーへ行ってみよう。
迷い人、あやかしのための喫茶店へ。
さぁさ、風流一座、本日も……。
「東西、東西、隅から隅までご覧あれ~~!
ここは平和な風流市、山は狸温泉ほっかほか、川に遊ぶはカッパの伝説!
昼は人、夜はあやかし。商いの奥に妖の影、祭りの裏に笑いと涙!
さてさて風流一座、吹き込むは音の風。
鳴らす太鼓に願いをのせて、響く音色は過去と未来を繋ぐ糸。
三味線じいじのこの糸に、町の百年、記憶が宿り。
お町の笑顔、涙も、みな音に染めてお届けつかまつる!」
団長は華やかな衣装をまとい、大きなプラカードを掲げて先頭を行く。
その横では、ラメ入りのまばゆい青い着物がひときわ目を引く青様が、にこやかにビラを配り、時折ひらりと身を翻して観客を魅了する。
「セニョリータたち!今宵!リニューアル!祭りだ!店に来ておくれよ~」
音吉はティッシュを配りながら、愛嬌たっぷりに笑顔を振りまいていた。
「サーカスみたい!」
「キャー、風流一座、青様素敵!!」
うちわを持った推し活女子たちの、黄色い歓声が飛ぶ。
「これは、時代劇?歌舞伎ですか?」
外国人観光客もそのパフォーマンスに目を奪われていた。
猫社長の回想
あれは先日予定していた、猫妖怪ブロマイドの撮影でのことだった。
今回の撮影テーマは、ずばりレトロな風景。
ちび猫妖怪達も張り切って撮影前からポーズを研究していたほどだ。
ニャハ?ニャーン~、みんなで遊ぼ!
招き猫の手がいいかな?どう?
商店街は、休日でも人出が少ないと聞いていたが、その日はかなりの人数が繰り出し、その中心にはあの「風流一座」がいた。
「ああ、あれが話に聞く、チンドン屋ですかぁ」
ペットのおもちゃ屋猫社長とスタッフは目を輝かせた。あやかし経済雑誌でも取り上げられ興味があったのだ。
実物を見た猫社長の心はさらに浮き立った。
「次の新店オープンには、うちも頼んでみたいなぁ」
しかし、一座のパフォーマンスはすぐに落ちた。
暑さのせい?たしかにアーケード街とはいえ、この蒸し暑さだ。
先ほどまで生き生きとアドリブを入れていた団長、楽し気に楽器を奏でていた団員達。今はげっそりと疲れた顔で、動作も人形のように生気がない。
猫社長はある青年に目を留めた。
彼のクラリネットの音程はかなりはずれた、いかにも初心者といった音で、周りの笑いを誘っていたのだ。
だが、猫社長が違和感を感じたのは、単に音が外れていることだけではなかった。
「おい、お前は少し外れろ!」
団長らしき人物が、その青年に対しいらだったように指示を出した。青年はしょんぼりと、チンドン屋の輪から外れた。
猫社長は、これは好機とばかりに、その青年に近づき、話を聞くことにした。
「君、ひどい言われようだったけど、大丈夫かい?」猫社長が優しく声をかけると、青年は恐縮した様子で答えた。
「あ、はい、すみません。僕、楽器が下手なので」
ぐすぐすと泣きべそをかいた彼の耳から、人間の耳が消え、頭の上に丸い耳がぴょこんと飛び出した。
それは、いわゆる猫耳カチューシャの狸版のような、毛の生えた可愛らしい耳だった。
そう彼の正体は海でおぼれた狛犬を助けたあの狸の音吉である。
音吉は「あ!」と小さな声を上げて耳を抑え、恥ずかしそうに下を向いた。
「気にしなくていいよ」猫社長は言いながら、その瞬間、はっと息をのんだ。この狸青年には、「影」がくっきりとあったのだ。
野生の勘鋭い猫社長は、団員の半数以上が影が薄れていた事に気づいていた。
そして、彼と他の団員の音にも違いがある。
音吉の場合は、単に下手、音が外れているだけだ。
しかし、風流一座のチンドン音からは不快で、「異様な響き」が聴こえるのだ。
「私は耳がよくてねぇ、よすぎるのも困りもんだよ」
「君は、なぜチンドン屋に?」猫社長は核心に迫った。
狸青年は少しとまどいながらも、チンドン屋への深い愛情を語り始めた。
「僕、山奥の村にいたときからチンドン屋さんが大好きで、得意なダンスも生かせるかと思ったんです!」
「ああ、昔から狸の踊りは有名だものねぇ」
「でも、ダンスより、楽器って言う方針で。でもって、まだ見習いなんです」
「なるほど、見習いなのかい」
猫社長のなかで、今回の騒動のなにかがパチン、と音を立ててつながり始めた。
「はぁ、いつになったら先輩達みたいな音が出せるんだろ?なんか、すごく変わった音ですよね?
僕が田舎者だからかなぁ?」
その言い方があまりにいじらしく、猫社長はふと昔の自分を思い出した。
「早く見習い卒業してみんなと街を盛り上げたいです!」
そうか、彼は人間とあやかし関係なく、この一座を愛しているんだなと猫社長は気づいた。
そして、狸であるにも関わらず、キツネのあやかしが多いチンドン屋に所属していることにも、彼の信念や芯の強さを感じるのだ。
「見た目によらず、なかなかの若者ですねぇ」
いけない、つい話し込んでしまった! 猫社長は音吉に名刺を渡し、あわてて猫妖怪たちの元へ戻った。
幼年組猫妖怪たちは、はじめはきゃきゃとはしゃぎ、三味線や、サックスの真似をする子までいたらしい。
しかし、しばらくすると、猫妖怪たちは異変をきたした。ある者は怖がって耳をふさぐ、音につられて踊り狂う子まで現れた。
猫社長は、あの時の猫妖怪たちの異変を思い出し、胸が締め付けられる。
「まずい!」とスタッフと社長は、必死で彼らを連れしばらく路地裏をさまよった。
いつの間にかたどり着いたそこは、今はなきキツネ横丁とされる場所。
彼らはほっと息を吐き、あたりを見回した。
怪しいものはないようだ。
そして彼らは、ほんの一瞬、キツネ横丁の在りし日の幻をみた。
猫社長は机の上でそれを思い出し、深く重いため息をついた。
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