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後編 影追い、戦う者たち編
38話 作戦会議、闇を識る者たち
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真夜中の喫茶店エコーに、ガチャリと戸の開く音が響いた。
「みなさん、だ、だいじょうぶでしたかー?0時前のあの神社の光ったらすごかったですよ」
丸眼鏡の小柄な男、通称猫社長がバタバタと喫茶店エコーに入ってきた。マスターが熱いコーヒーを差し出し、これまでの戦況を掻い摘んで説明した。
ノリさんが肩をすくめながら続けた。
「それがもう大変でね、社長。敵さん、怒っちゃってさ、あの機械、禍音の鳴動器ってやつが、甘ったるい記憶で精神攻撃してくるなんて、意味わかる?」
「はぁ?甘いですか?」
猫社長は困惑の表情を浮かべた。
「あとさ、チンドン屋の連中。いよいよ団長さんが、お出ましになって、紙吹雪みたいなのをまいたのよ、そりゃきれいだったさ。
夜空にふわりと舞い散る花吹雪、でもね、それが刃なわけ、信じられる?」
早口でまくし立てた後、彼は疲れたようにテーブルにつっぷした。
最前線でそれを経験したばかりのチンドン屋見習の音吉は、込み上げる涙がこぼれないように顔を上にした。
「なんて恐ろしい!よくぞ皆さんご無事で」
猫社長の顔から血の気が引く。一方、過酷な戦闘で顔色を失っていた月彦の頬には、ホットココアの作用か、ようやく赤みが戻っていた。
「で、社長。あなたの持ってきた情報は?」
月彦が静かに問うと、猫社長は急に活気を取り戻した。
「これですよ!これ!」
そう言って、猫社長がテーブルに広げたのは、何枚かの古びた写真と、一枚の手書きの地図、そして色褪せた新聞の切り抜きを写した資料だった。
そこには、禍々しい文様が刻まれたからくり時計のようなものと、満面の笑みを浮かべた若き日のチンドン屋一座の団長らしき人物が写っている。
「先日、悪徳政治家どもの事務所に潜入した際に、たまたま見つけました。まさか、こんな形で役立つとは…………」
猫社長は興奮した面持ちで語り始めた。
「この回転木馬のからくり時計、いまのと違うね、今のはこんな変な模様はないし、馬の顔だってもっとかわいいよね」
音吉が写真を指さし指摘した。
「よく気が付いたね、このからくり時計は2代目だよ。戦後に新しく作られたからね。風流第一映画館と言えば、昔は町一番の建物で、誰も彼もがあの時計の前で待ち合わせをしたもんさ。50年前ってとこかね」
話し終えたキツネママは遠くを見るような顔をしていた。
「そうでやんす。100年前もそうでやんした。あっしは生意気な連れとあそこでシネマを見て、みんなで、飛び出したからくり時計に拍手をしてましたぜ…………」
狛犬が静かにつぶやいた。
マスターは皆に見せた、古い新聞記事の二代目からくり時計からはあの文様が消え、全体的に遊園地のメリーゴーランドに近い愛らしい雰囲気がある。
「マスター、猫社長、ありがとうございました。これらのヒントでわかったこと。それは、あの時計はただの仕掛けじゃなかった」
月彦は、古びた新聞の切り抜きを指さした。
「この新聞記事には、『時局柄、不謹慎である』とされ、劇場からからくり時計が撤去されたことが報じられています。
しかし、私がこの件を調べていたところ、どうやら裏では、当時の政治家たちが、妖器の兵器化を進め軍部への恩を売ろうと画策していた形跡があったのです」
「えー、実際に戦争で使われたの?」狸青年が目を丸くする。
月彦は首を横に振り話を続けた。
「おそらくその計画はうまくいかなかったのだろう。あれは並みの技術者では歯がたたない。
高度な知識と腕を持った妖匠、しかも最高位の妖匠でなければ、組み立てなおすことすら不可能だ。
だからこそ、ただ解体されたまま、保管されていたと考えるのが自然だ。
そして、今回現れた『禍音の鳴動器』は、そのからくり時計のコア部品を妖器へ組み込み、より強力にパワーを増幅させたものだ」
彼は額に手を添え、うつむき一呼吸おいた。
「そこに至るまでにどんな実験がくりかえされたのか、考えたくもないな」
マスターは低くうなった。
虎二、音吉、猫社長、キツネママ、そして狛犬。一同は、からくり時計の背後に隠された、町の、そしてこの国の暗い歴史の片鱗を目の当たりにしたように、言葉を失っていた。
夜は、まだ明けない。そして、目の前の脅威が、想像以上に深く、根を張っていることを、彼らは知った。
「みなさん、だ、だいじょうぶでしたかー?0時前のあの神社の光ったらすごかったですよ」
丸眼鏡の小柄な男、通称猫社長がバタバタと喫茶店エコーに入ってきた。マスターが熱いコーヒーを差し出し、これまでの戦況を掻い摘んで説明した。
ノリさんが肩をすくめながら続けた。
「それがもう大変でね、社長。敵さん、怒っちゃってさ、あの機械、禍音の鳴動器ってやつが、甘ったるい記憶で精神攻撃してくるなんて、意味わかる?」
「はぁ?甘いですか?」
猫社長は困惑の表情を浮かべた。
「あとさ、チンドン屋の連中。いよいよ団長さんが、お出ましになって、紙吹雪みたいなのをまいたのよ、そりゃきれいだったさ。
夜空にふわりと舞い散る花吹雪、でもね、それが刃なわけ、信じられる?」
早口でまくし立てた後、彼は疲れたようにテーブルにつっぷした。
最前線でそれを経験したばかりのチンドン屋見習の音吉は、込み上げる涙がこぼれないように顔を上にした。
「なんて恐ろしい!よくぞ皆さんご無事で」
猫社長の顔から血の気が引く。一方、過酷な戦闘で顔色を失っていた月彦の頬には、ホットココアの作用か、ようやく赤みが戻っていた。
「で、社長。あなたの持ってきた情報は?」
月彦が静かに問うと、猫社長は急に活気を取り戻した。
「これですよ!これ!」
そう言って、猫社長がテーブルに広げたのは、何枚かの古びた写真と、一枚の手書きの地図、そして色褪せた新聞の切り抜きを写した資料だった。
そこには、禍々しい文様が刻まれたからくり時計のようなものと、満面の笑みを浮かべた若き日のチンドン屋一座の団長らしき人物が写っている。
「先日、悪徳政治家どもの事務所に潜入した際に、たまたま見つけました。まさか、こんな形で役立つとは…………」
猫社長は興奮した面持ちで語り始めた。
「この回転木馬のからくり時計、いまのと違うね、今のはこんな変な模様はないし、馬の顔だってもっとかわいいよね」
音吉が写真を指さし指摘した。
「よく気が付いたね、このからくり時計は2代目だよ。戦後に新しく作られたからね。風流第一映画館と言えば、昔は町一番の建物で、誰も彼もがあの時計の前で待ち合わせをしたもんさ。50年前ってとこかね」
話し終えたキツネママは遠くを見るような顔をしていた。
「そうでやんす。100年前もそうでやんした。あっしは生意気な連れとあそこでシネマを見て、みんなで、飛び出したからくり時計に拍手をしてましたぜ…………」
狛犬が静かにつぶやいた。
マスターは皆に見せた、古い新聞記事の二代目からくり時計からはあの文様が消え、全体的に遊園地のメリーゴーランドに近い愛らしい雰囲気がある。
「マスター、猫社長、ありがとうございました。これらのヒントでわかったこと。それは、あの時計はただの仕掛けじゃなかった」
月彦は、古びた新聞の切り抜きを指さした。
「この新聞記事には、『時局柄、不謹慎である』とされ、劇場からからくり時計が撤去されたことが報じられています。
しかし、私がこの件を調べていたところ、どうやら裏では、当時の政治家たちが、妖器の兵器化を進め軍部への恩を売ろうと画策していた形跡があったのです」
「えー、実際に戦争で使われたの?」狸青年が目を丸くする。
月彦は首を横に振り話を続けた。
「おそらくその計画はうまくいかなかったのだろう。あれは並みの技術者では歯がたたない。
高度な知識と腕を持った妖匠、しかも最高位の妖匠でなければ、組み立てなおすことすら不可能だ。
だからこそ、ただ解体されたまま、保管されていたと考えるのが自然だ。
そして、今回現れた『禍音の鳴動器』は、そのからくり時計のコア部品を妖器へ組み込み、より強力にパワーを増幅させたものだ」
彼は額に手を添え、うつむき一呼吸おいた。
「そこに至るまでにどんな実験がくりかえされたのか、考えたくもないな」
マスターは低くうなった。
虎二、音吉、猫社長、キツネママ、そして狛犬。一同は、からくり時計の背後に隠された、町の、そしてこの国の暗い歴史の片鱗を目の当たりにしたように、言葉を失っていた。
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