あやかし喫茶店エコー:時巡る風流一座と街の秘密

チャイ

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後編 影追い、戦う者たち編

40話 秘策は酒?月夜に踊る狸

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静まり返った喫茶エコーに、緊張が満ちていた。月彦が現状の打開策について口を開こうとした、その時。

「まあ、待ちなさいよ。月彦ちゃん」――キツネママの親しげな呼びかけに、月彦の世話係である虎二は、内心でひっそり膝から崩れ落ちていた。
主への無礼は看過できないが、キツネママの奇妙な魅力の前では、反論の言葉さえ出なかった。
ママがマスターに頼んで取り出してもらった古い木箱がカウンターテーブルに置かれている。

「これはね、とっておきの『秘蔵酒』だよ。キツネ横丁がまだ賑わっていた頃、ある酒蔵に代々伝わる、特別な一本なんだ。滅多に表には出さないんだけどね」

キツネママはちらりと音吉に目をやり、小瓶を揺らした。琥珀色の液体が揺れる瓶が、いかにも怪しく妖しい光を放っているように見えた。

「狸が飲むとね…………内に秘めた力が引き出されるって、昔から言われてるのさ。まあ、ちょっとばかり『酔い加減』で暴れん坊になっちまうけどね」
キツネママの言葉に、一同の視線が音吉に集まる。音吉は目を丸くして、その特別な瓶を見つめていた。

「えっ、僕がこれを……?」
「飲め、音吉」
間髪入れずに月彦の声が飛んだ。

「そうですよ、音吉さん!月彦様がいくらかでも楽になる手助けができるとは田舎狸にはもったいないほどのお役目ですよ」
丁寧な口調で失礼なことを言う。

「ノイズ・アンセムって何でやんすか?」
狛犬が首を傾げた。
「おいおい、コマさん、それはだな」ノリさんが得意げに口を挟んだ。

「狸君が特訓で生み出した必殺技で、敵の攻撃にぶつける威力のある音(波動)のことだ。俺たちは、あの鳴動器の狂った音を打ち消し、チンドン屋さんたちを救うのが目的なんだからな。」

「キツネ横丁の秘蔵酒で、あなたに秘められた野生を解放してください!素晴らしきぽんぽこ田舎狸踊りにさらなる力を!」
虎二は真剣な眼差しで音吉を見つめた。

マスターが本棚から、古い郷土誌を取り出した。いたるところに付箋がはってある。

「狸踊りは言い過ぎかもしれないが、たしかにクラリネットだけではなく、踊りを取り入れるのはいいかもしれない。
かつての風流市にあった盆踊りのように、激しくリズミカルな踊りが、実は鎮魂や力を増幅させる効果を持っていたという伝承がある」
ほら、ここだとマスターが指さした先には、あやかしと人間がともに踊る盆踊りの記述があった。狸など宙返りして踊っている。

妖精と呼ばれる、キラキラした羽をもつ少女たちも踊っていた。
「音吉君の踊りとノイズアンセムを組み合わせれば、風流一座を傷つけずに救い出すことができるかもしれないね」
マスターは、開いた郷土誌から顔を上げ、皆を見た。

音吉は、琥珀色の液体が揺れる小瓶と、古びた郷土誌の挿絵を交互に見つめた。狸たちが宙返りする姿が、なぜか自分と重なる。

今まで知らなかった秘められた力。この一杯が、団長を救う鍵になるのなら――。胸の奥に、新たな、熱い決意が湧き上がっていた。
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