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後編 影追い、戦う者たち編
41話 狸舞う!
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盃に注がれたそれは通常の日本酒と変わらないように見える。
狸青年は目をつぶって飲み干した。
「あっしも飲みたいでやんす……」狛犬がうらやましげな声を出す。
「あんたはダメだよ、いかにも酒癖が悪そうなタイプだからね」長年スナックをやってきたママのセリフは信ぴょう性がある。
「で、音吉君、体は大丈夫かい?苦しくない?」
マスターが狸青年を心配する一方で、虎二とノリさんは音吉の化け姿の予想合戦をしていた。
「マッチョ狸化するのではないでしょうか?または巨大化ですかね」
「オレの予想ではね、サンバ狸になるね!かけてもいいぜ、マスターのアップルパイかけよっか?」
その時、あたりがスモークのような煙に包まれた。
「花音と申します、ああ、踊りたいですぅ~」
音吉あらため花音登場!くるりと跳ねると、ぶかぶかのパーカーからちらりとくびれがのぞいた。
上下だぼだぼのゆるい服装だが、スタイルのよさは隠しきれない。はねるたびに胸が揺れ、足なども細すぎずのほどよい肉付き。
白い肌はもちもちと柔らかそうだ。
その姿を目にした虎二は、一瞬、息を呑んだ。「はっ……」慌てて視線を逸らし、平静を装おうとしたが、その頬はわずかに朱に染まっていた。
「お待ちお待ち!赤い着物がいいよ!」
キツネママが大喜びしている。「あと、髪も結って飾りを付けなきゃ。頬紅に口紅もね!」
さぁさぁと、音吉の手をひき店を出た。スナックキツネの隠れ家兼自宅に直行だ。
着物に着替え、お次はメイクアップ。白い肌に紅をさすたび、音吉に妖しい色気が増していく。
猫妖怪の一人が、器用にヘアアイロンとくしを操り、音吉のブラウンのロングヘアをさっとまとめハーフアップに。毛先が肩に優しくこぼれた。
「おや、今風のアレンジもいいじゃないか? さぁ、この薔薇の飾りを髪に刺しな」
両サイドの後れ毛をととのえると、猫妖怪たちが歓声をあげた。「ふふ、アラブの石油王がやってきちゃうかもニャ!」
こうして狸青年は、正真正銘、美しき踊り子として生まれ変わった。
着付けとメイクを終え、喫茶エコーの前に現れた音吉に、集まっていたメンバーは息を呑んだ。
「銀座の超高級クラブ?いやいや、AI?幻だよなこんな美人、いるわけねぇだろ!」
ノリさんは興奮を隠せず、スマホで激写しまくっている。
頬を赤らめたまま何も言えないのが、虎二。
猫社長は相変わらずの商才を発揮し電卓をピコピコ鳴らしている。
「ブロマイドなんて目ではありません!デジタル写真集?このメイクのテクニックを紹介する動画配信?」
「音吉君!さぁ、みんなを助けるでやんす!」
キツネママ、音吉、そして全メンバーが本町商店街を出発し、児珠神社へ向かった。
虎二は音吉の横に座りたかったが、この位置でまだ、よかったかもしれないと思いなおした。
ママのお酒の威力、恐るべし。
夜明けの再戦
夜明けが近づき、空と雲が薄紅色に染まり始めていた。
「ちっ!この音、響き、波動、禍音の鳴動器が動き出したのかよ。あいつら、早起きだねぇ、朝寝を楽しんでりゃいいのにさ」
禍音の不協和音が街に響き渡り、風流市の街角では妖精たちがおびえ、路地裏のあやかしたちは身を寄せ合って隠れている。
「あ、新聞配達だ!」
ゆるきゃらさんが、淡々といつものように新聞を配っていた。
「でも……なにか、オカシイ……」
一同は、児珠神社に到着した。禍音の鳴動器は昨日と同じ位置にあるようだ。
夜明けの薄明りの中、境内の中心で風流一座の団長と仲間たちが、まるでオペラの舞台劇の役者のように静かに立っていた。
顔に厚い白塗りを施し、原色の着物姿、ユーモラスな格好のはずが、どこか異様な空気だ。かろうじて残っていたあやかし団員の薄い影も消えていた。
一座の仲間たちは、団長を取り囲むようにそれぞれが奇妙な動きをしている。彼らの動作は人間離れして滑らか。
チントンシャンと三味線の音。弾いているのは、風流一座のチンドン屋の大ベテラン、意地悪じいじだった。
本来なら禍音に取り込まれていてもおかしくないはずなのに、その顔に異変はなく、いつも通り小言を言い出しそうな仏頂面だ。
「じいじでやんすか!?無事か!?」狛犬が叫んだ。
「…………この音の中で、正気を保っているだと?」月彦が驚きを隠せない。
月彦の事前情報によれば、意地悪じいじは甘い記憶や願いが一切なく、孤独と無気力な生活に慣れ過ぎているという。だからこそ、禍音の精神攻撃が彼には通用しないのだ。
「俺はパチンコすらいかねぇからな」「家族?友人?ないよない」「髪もねぇ」「どこにも行くあてがねぇから、ここにいるだけさ」
意地悪じいじは、狛犬たちの声にも気づかぬ様子で、淡々と三味線を弾いている。しかし、ふいに彼が顔を上げた。
「おい、団長。いくらなんでも朝っぱらからこんな奇妙な音を響かせて、近所迷惑だろうが。風流一座の名に傷がつくぞ」
その言葉は、禍音の不協和音の中、驚くほどはっきりと響いた。
団長は、感情のない能面のような顔のまま、ゆっくりと意地悪じいじの方へ視線を向けた。その目が、微かに光を帯びる。
「ようこそ、夜明けの客人たちよ」
団長の声が、児珠神社の境内に響き渡った。それは、低く、複数の音が重なったような、異質な響きだった。彼の能面のような顔が、ゆっくりと狛犬たちの方を向く。
「我らの『音』は、この町の『願い』と『記憶』によって、さらに美しく響き渡る。…………邪魔をするというのなら、容赦はしない」
その言葉と共に、禍音の鳴動器から放たれる不協和音が、さらに大きく、激しくなった。まるで、団長の声に応えるかのように、神社全体の空気が震え始める。
「さぁ、タヌキ!俺が三味線弾くから、お前はお前の仕事をしてみろ!」じいじが三味線をロックにかき鳴らしながら叫んだ。
狸青年は目をつぶって飲み干した。
「あっしも飲みたいでやんす……」狛犬がうらやましげな声を出す。
「あんたはダメだよ、いかにも酒癖が悪そうなタイプだからね」長年スナックをやってきたママのセリフは信ぴょう性がある。
「で、音吉君、体は大丈夫かい?苦しくない?」
マスターが狸青年を心配する一方で、虎二とノリさんは音吉の化け姿の予想合戦をしていた。
「マッチョ狸化するのではないでしょうか?または巨大化ですかね」
「オレの予想ではね、サンバ狸になるね!かけてもいいぜ、マスターのアップルパイかけよっか?」
その時、あたりがスモークのような煙に包まれた。
「花音と申します、ああ、踊りたいですぅ~」
音吉あらため花音登場!くるりと跳ねると、ぶかぶかのパーカーからちらりとくびれがのぞいた。
上下だぼだぼのゆるい服装だが、スタイルのよさは隠しきれない。はねるたびに胸が揺れ、足なども細すぎずのほどよい肉付き。
白い肌はもちもちと柔らかそうだ。
その姿を目にした虎二は、一瞬、息を呑んだ。「はっ……」慌てて視線を逸らし、平静を装おうとしたが、その頬はわずかに朱に染まっていた。
「お待ちお待ち!赤い着物がいいよ!」
キツネママが大喜びしている。「あと、髪も結って飾りを付けなきゃ。頬紅に口紅もね!」
さぁさぁと、音吉の手をひき店を出た。スナックキツネの隠れ家兼自宅に直行だ。
着物に着替え、お次はメイクアップ。白い肌に紅をさすたび、音吉に妖しい色気が増していく。
猫妖怪の一人が、器用にヘアアイロンとくしを操り、音吉のブラウンのロングヘアをさっとまとめハーフアップに。毛先が肩に優しくこぼれた。
「おや、今風のアレンジもいいじゃないか? さぁ、この薔薇の飾りを髪に刺しな」
両サイドの後れ毛をととのえると、猫妖怪たちが歓声をあげた。「ふふ、アラブの石油王がやってきちゃうかもニャ!」
こうして狸青年は、正真正銘、美しき踊り子として生まれ変わった。
着付けとメイクを終え、喫茶エコーの前に現れた音吉に、集まっていたメンバーは息を呑んだ。
「銀座の超高級クラブ?いやいや、AI?幻だよなこんな美人、いるわけねぇだろ!」
ノリさんは興奮を隠せず、スマホで激写しまくっている。
頬を赤らめたまま何も言えないのが、虎二。
猫社長は相変わらずの商才を発揮し電卓をピコピコ鳴らしている。
「ブロマイドなんて目ではありません!デジタル写真集?このメイクのテクニックを紹介する動画配信?」
「音吉君!さぁ、みんなを助けるでやんす!」
キツネママ、音吉、そして全メンバーが本町商店街を出発し、児珠神社へ向かった。
虎二は音吉の横に座りたかったが、この位置でまだ、よかったかもしれないと思いなおした。
ママのお酒の威力、恐るべし。
夜明けの再戦
夜明けが近づき、空と雲が薄紅色に染まり始めていた。
「ちっ!この音、響き、波動、禍音の鳴動器が動き出したのかよ。あいつら、早起きだねぇ、朝寝を楽しんでりゃいいのにさ」
禍音の不協和音が街に響き渡り、風流市の街角では妖精たちがおびえ、路地裏のあやかしたちは身を寄せ合って隠れている。
「あ、新聞配達だ!」
ゆるきゃらさんが、淡々といつものように新聞を配っていた。
「でも……なにか、オカシイ……」
一同は、児珠神社に到着した。禍音の鳴動器は昨日と同じ位置にあるようだ。
夜明けの薄明りの中、境内の中心で風流一座の団長と仲間たちが、まるでオペラの舞台劇の役者のように静かに立っていた。
顔に厚い白塗りを施し、原色の着物姿、ユーモラスな格好のはずが、どこか異様な空気だ。かろうじて残っていたあやかし団員の薄い影も消えていた。
一座の仲間たちは、団長を取り囲むようにそれぞれが奇妙な動きをしている。彼らの動作は人間離れして滑らか。
チントンシャンと三味線の音。弾いているのは、風流一座のチンドン屋の大ベテラン、意地悪じいじだった。
本来なら禍音に取り込まれていてもおかしくないはずなのに、その顔に異変はなく、いつも通り小言を言い出しそうな仏頂面だ。
「じいじでやんすか!?無事か!?」狛犬が叫んだ。
「…………この音の中で、正気を保っているだと?」月彦が驚きを隠せない。
月彦の事前情報によれば、意地悪じいじは甘い記憶や願いが一切なく、孤独と無気力な生活に慣れ過ぎているという。だからこそ、禍音の精神攻撃が彼には通用しないのだ。
「俺はパチンコすらいかねぇからな」「家族?友人?ないよない」「髪もねぇ」「どこにも行くあてがねぇから、ここにいるだけさ」
意地悪じいじは、狛犬たちの声にも気づかぬ様子で、淡々と三味線を弾いている。しかし、ふいに彼が顔を上げた。
「おい、団長。いくらなんでも朝っぱらからこんな奇妙な音を響かせて、近所迷惑だろうが。風流一座の名に傷がつくぞ」
その言葉は、禍音の不協和音の中、驚くほどはっきりと響いた。
団長は、感情のない能面のような顔のまま、ゆっくりと意地悪じいじの方へ視線を向けた。その目が、微かに光を帯びる。
「ようこそ、夜明けの客人たちよ」
団長の声が、児珠神社の境内に響き渡った。それは、低く、複数の音が重なったような、異質な響きだった。彼の能面のような顔が、ゆっくりと狛犬たちの方を向く。
「我らの『音』は、この町の『願い』と『記憶』によって、さらに美しく響き渡る。…………邪魔をするというのなら、容赦はしない」
その言葉と共に、禍音の鳴動器から放たれる不協和音が、さらに大きく、激しくなった。まるで、団長の声に応えるかのように、神社全体の空気が震え始める。
「さぁ、タヌキ!俺が三味線弾くから、お前はお前の仕事をしてみろ!」じいじが三味線をロックにかき鳴らしながら叫んだ。
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