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後編 影追い、戦う者たち編
42話 魅惑の狸踊り、そして黒幕登場
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色気のある三味線の音が、まだ薄暗い朝もやの中に流れ出す。
意地悪じいじが引くその三味線は、普段とは違い、どこか妖しく、それでいて心揺さぶる音色を奏で始めた。
赤い着物を纏った花音が、霧に溶けるように静かに姿を現した。その一歩一歩は、まるで薄もやの中で光を紡ぐ舞のようだった。
「さぁ、タヌキ!俺は三味線、お前はお前の仕事をしてみろ!」
じいじの叫びと共に、音吉あらため花音は舞い始めた。そして、赤い着物を一枚はらりと脱ぎ放り捨てた。
黒いミニ丈の着物姿に変身した花音。
舞うたびに、その白い太ももが月明かりのように煌めき、ラメの扇子からこぼれる光の粒は、オーロラ色。
夜空に描かれた星のように散っていった。
音吉は踊りながら、クラリネットを吹く。超音痴、音感一つない彼による必殺技ノイズ・アンセム、そして幻影の狸踊りだ。
「楽譜?もういらないよ!じいじに教えてもらったように、楽しく吹くよ。
みんな見ていて!里のみんなにも見て欲しい、みんなと踊る月夜のダンスみたいにとっても激しくって楽しいよ!」
花音の動きに合わせて煌めく光と音の波動が、鳴動器から放たれる不協和音とぶつかり合い、歪んだ音の視覚的な表現を打ち消していく。
磨き抜かれた舞を披露するたび、彼の周囲に半透明の「残像」が幾重にも重なり、敵の目を惑わし始めた。
幻のシャンパンタワーの頂上から、黄金色の美酒が滝のように注がれ、シュワシュワとあふれだし、敵の視界を幻惑の泡で覆い尽くす。酒の香りが広がり酔ってしまいそうだ。
その甘美な香りに、思わず体が傾きそうになる。まるで、祝祭の宴に迷い込んだかのような、抗いがたい酩酊感だった。
チンドン風流一座は一時的に封印された。
「正直、私も惑わされてしまいそうです、あの罪な狸に……」
「お前!?」
虎二は心の中でだけつぶやいたはずの言葉を月彦に聞かれ、頬を赤らめた。
「それにしても、田舎者とはいえ、さすがは狸、そして幻の秘酒ですね。これがもし満月の夜だとしたら……」
その時、黒いヘリコプターが上空を旋回し、着陸する場所を見つけて下降した。中から、黒服の護衛を連れた悪徳政治家が地上へ降り立った。
すかさず、団長と風流一座の面々が出迎えに走った。
「我が宿敵、このチャンスをどれほど待ったことか」
マスターはこぶしを握り締めた。
悪徳政治家は、団長にねぎらいの言葉をかけることもなく、冷ややかな視線で一瞥し、踊ることで場をかく乱している花音に目を向けた。
「何だ、あの見世物は? 思い通りにならぬあやかしは排除。お前たちの『音』で、徹底的に叩き潰せ」
団長は無言で頷き、再び鳴動器の方へ向き直り、超調律をスタートさせる。
政治家の言葉に応えるかのように、禍音の鳴動器から放たれる不協和音は、先ほどまでを凌駕するほど激しさを増した。まるで、耳をつんざく叫び声のように、神社の空気を震わせ、狛犬たちにも苦痛を強いる。
袖を翻すたびに煌めく光が舞う。疲れを押し殺しながらも、彼の踊りは止まることがない。
さすがの狸もここに来て疲れが出始めている。
それでも、周囲の禍音がわずかに歪み、風流一座のメンバーたちが一瞬怯む。彼らは苛立ちの表情を露わにし、さらに激しく楽器を叩き始めるが、音吉の舞とクラリネット、じいじの三味線の音色が、その不協和音の核を捉え、攪乱していく。
団長は鳴動器を操作し、不協和音の力を最大化させようとする。しかし、花音の舞による攪乱で、彼の動きに迷いが生じ始めた。
その隙を見逃さなかったのは、月彦だ。
「今です、狛犬。あいつらが音吉に気を取られている間に、鳴動器の周囲を固めます」
「了解でやんす!」
狛犬は力強く返事をして、月彦と共に、鳴動器を取り囲むように素早く動き出した。ノリさんは、マスターと目を合わせ、互いに頷く。
「よっしゃ、俺たちは援護射撃だ。マスター、頼むぜ」
マスターは冷たく燃える目で、悪徳政治家を睨みつけていた。
意地悪じいじが引くその三味線は、普段とは違い、どこか妖しく、それでいて心揺さぶる音色を奏で始めた。
赤い着物を纏った花音が、霧に溶けるように静かに姿を現した。その一歩一歩は、まるで薄もやの中で光を紡ぐ舞のようだった。
「さぁ、タヌキ!俺は三味線、お前はお前の仕事をしてみろ!」
じいじの叫びと共に、音吉あらため花音は舞い始めた。そして、赤い着物を一枚はらりと脱ぎ放り捨てた。
黒いミニ丈の着物姿に変身した花音。
舞うたびに、その白い太ももが月明かりのように煌めき、ラメの扇子からこぼれる光の粒は、オーロラ色。
夜空に描かれた星のように散っていった。
音吉は踊りながら、クラリネットを吹く。超音痴、音感一つない彼による必殺技ノイズ・アンセム、そして幻影の狸踊りだ。
「楽譜?もういらないよ!じいじに教えてもらったように、楽しく吹くよ。
みんな見ていて!里のみんなにも見て欲しい、みんなと踊る月夜のダンスみたいにとっても激しくって楽しいよ!」
花音の動きに合わせて煌めく光と音の波動が、鳴動器から放たれる不協和音とぶつかり合い、歪んだ音の視覚的な表現を打ち消していく。
磨き抜かれた舞を披露するたび、彼の周囲に半透明の「残像」が幾重にも重なり、敵の目を惑わし始めた。
幻のシャンパンタワーの頂上から、黄金色の美酒が滝のように注がれ、シュワシュワとあふれだし、敵の視界を幻惑の泡で覆い尽くす。酒の香りが広がり酔ってしまいそうだ。
その甘美な香りに、思わず体が傾きそうになる。まるで、祝祭の宴に迷い込んだかのような、抗いがたい酩酊感だった。
チンドン風流一座は一時的に封印された。
「正直、私も惑わされてしまいそうです、あの罪な狸に……」
「お前!?」
虎二は心の中でだけつぶやいたはずの言葉を月彦に聞かれ、頬を赤らめた。
「それにしても、田舎者とはいえ、さすがは狸、そして幻の秘酒ですね。これがもし満月の夜だとしたら……」
その時、黒いヘリコプターが上空を旋回し、着陸する場所を見つけて下降した。中から、黒服の護衛を連れた悪徳政治家が地上へ降り立った。
すかさず、団長と風流一座の面々が出迎えに走った。
「我が宿敵、このチャンスをどれほど待ったことか」
マスターはこぶしを握り締めた。
悪徳政治家は、団長にねぎらいの言葉をかけることもなく、冷ややかな視線で一瞥し、踊ることで場をかく乱している花音に目を向けた。
「何だ、あの見世物は? 思い通りにならぬあやかしは排除。お前たちの『音』で、徹底的に叩き潰せ」
団長は無言で頷き、再び鳴動器の方へ向き直り、超調律をスタートさせる。
政治家の言葉に応えるかのように、禍音の鳴動器から放たれる不協和音は、先ほどまでを凌駕するほど激しさを増した。まるで、耳をつんざく叫び声のように、神社の空気を震わせ、狛犬たちにも苦痛を強いる。
袖を翻すたびに煌めく光が舞う。疲れを押し殺しながらも、彼の踊りは止まることがない。
さすがの狸もここに来て疲れが出始めている。
それでも、周囲の禍音がわずかに歪み、風流一座のメンバーたちが一瞬怯む。彼らは苛立ちの表情を露わにし、さらに激しく楽器を叩き始めるが、音吉の舞とクラリネット、じいじの三味線の音色が、その不協和音の核を捉え、攪乱していく。
団長は鳴動器を操作し、不協和音の力を最大化させようとする。しかし、花音の舞による攪乱で、彼の動きに迷いが生じ始めた。
その隙を見逃さなかったのは、月彦だ。
「今です、狛犬。あいつらが音吉に気を取られている間に、鳴動器の周囲を固めます」
「了解でやんす!」
狛犬は力強く返事をして、月彦と共に、鳴動器を取り囲むように素早く動き出した。ノリさんは、マスターと目を合わせ、互いに頷く。
「よっしゃ、俺たちは援護射撃だ。マスター、頼むぜ」
マスターは冷たく燃える目で、悪徳政治家を睨みつけていた。
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