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【ハロウィン】宇宙連盟「地球、渡航危険地域に指定」
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地球の西暦と言う暦の2060年。
十月最終日。
「うーむ、やつらの文明は、そろそろ進化しただろうか?」
「私たちの小型探査機による定点観測によると、だいぶ進化しているようです」
小型探査機が示すデータは、過去数年間の倫理コードの平均値を指し、観光地推薦基準のボーダーをわずかに超えていた。
ポーポー星人は、地球という星を宇宙連盟の観光地として推薦できるか、ある地点の観察を長年続けてきた。
たとえば、大昔、平安という時代に訪れた際は、牛車という乗り物が、天狗や生霊に襲われていた。危険すぎる。
その次は、戦国という時代だった。槍や刀を持った同族同士が殺し合っていた。野蛮すぎる。
「しかし現在のニホンでは、もう何十年も大きな戦争は起きていません」
「うむ。妖怪や悪魔、怪物の類もいなくなったようだな」
「観光地として推薦できるかもしれません」
「記録によれば、かつて『血塗られたシブヤ運動』という騒乱が起きたようですが、現在は終息したと判断しています」
「よし、直接この目で確かめよう。くれぐれも、現地人には気づかれないよう注意したまえよ」
「はい、イッパン地球人のようにふるまいます」
ウィーンウィーン。高性能な宇宙船が地球の上空にやってきた。
キラキラと輝くメタリックボディのポーポー星人が、トーキョーのシブヤに降り立った。十月三十一日の夜である。
「しまった、この恰好では目立つな。地球服を用意すればよかった」
だが、誰も彼らを不審な目で見ない。それどころか――
「それ手作りですか?素材何?どこの店?」
「すっごーい、映画みたい!マジ、カンドー」
「触っていいですか?俺たちSF映画オタク」
その場にいた地球人たちはポーポー星人を見つけると、友好的に話しかけてきた。
「カンドーとは、美しく上品と言う意味だそうですよ」
「ふむ、なかなか友好的な星ではないか」
「われわれの姿が好ましいとされているようですし」
「地球人の中でも『SFオタク』という種族らしいですね」
しばらく歩くと人混みが増えてきた。それまでBGMのように鳴っていた多数の地球人音声が、突如として不協和音に変わった。
「うぉーうぉー!」狼男が遠吠えを上げている。
「血が飲みたい!」ドラキュラが牙をむき出しにしている。
ミイラ男は包帯をヒラヒラさせ、ゾンビが腕を前に突き出してよろよろと歩いている。日本の妖怪らしき者もいる。
「な、なんと! 天狗がまだいるではないか!」
道路に停めてある車に、長い棒を持ったカッパが乗り上がり、バンバンと叩いている。
「進化系牛車が襲われています!」
シブヤの路は百鬼夜行。頭から血を流している者も多い。
「こ、これは……調査ミスか!?」
「妖怪も悪魔も、まだ健在のようですね……」
「な、なんと!『血塗られたシブヤ運動』が復活したのか!?」
その時、若者たちがスマホをこちらに向けてきた。
「宇宙人コスプレまじリアルw」
「完成度たっけえ!不気味すぎ」
「キモカワ!」
パシャパシャと撮影している。
「き、記録装置だ! 我々が記録されている!」
「まずい、正体がバレたのでは……」
そこへ、巨大なカボチャの頭をした者が近づいてきた。
「トリック・オア・トリート! お菓子くれなきゃいたずらするぞ!」
フードつきの黒ずくめの服、鼻の長い老婆は棒状のものを振り回している。ステッキのてっぺんには星。
「強盗ってやつですよ! 襲われる!」
「に、逃げるぞ!」
ウィーンウィーン。
宇宙船は慌ただしく離陸した。
搭乗口のハッチが閉まるまでの数秒間、ポーポー星人は、カボチャの形の人工知能が発する強烈なノイズを遮断するため、必死に聴覚を閉じた。
「こんな恐ろしい星には、観光ビザも出せない!植民地にもならん」
「宇宙連盟には『渡航危険地域』として報告しておきます」
「二度と近づくな!」
「しかし定点観測は続けなければな」
「そうですね、下等で野蛮な生物がいつ我々の星々に攻めてくるかわかりませんから」
「まぁ、この星の技術力では、まだまだだろうが……油断はできぬ」
こうして地球は、仮装パーティーで救われた。
※
宇宙船に戻ったポーポー星人は、データを詳しく解析した。
「はぁぁ、記録によると、少し前2000年代すぐから2020年あたりに『血塗られたシブヤ運動』があったそうですね。現在は終息しているはずだったのですが、また復活とは。地球人はやはり秩序というものを学ばないようでして」
「いや、あれは大昔の悪魔やら妖怪やらが復活したのでは?」
「新しく『かぼちゃ』と言うものまでいましたしね」
「それはどんな生物なんだ?気になるな。詳しいデータを出してくれ」
「そ、それが別名ジャックオランタン、かぼちゃ畑にいるとしか出てきません」
一番端っこに座るポーポー星人は、会議にも参加せず、なにやらもぐもぐおいしそうに食べている。
「これ、地球、渋谷土産。いける!ポーポー星でも売れそう」
彼の手にした袋には、マジカルキッチン、渋谷店。ジャックオランタンのイラスト。
「もう一つ食べよっと」
黄金色のパンプキンスコーンを取り出した。外はさっくり、中は軽めの食感。ほんのり甘いかぼちゃ味。
「ポーポー星まで、通販してくれないかなぁ」
※
翌朝、シブヤには何事もなかったように朝が来た。
アスファルトには、割れたビールの瓶がメタリックボディの足元で砕けた星屑のように光っていた。
近所の人がため息をつきながら、騒動の後片付け、ゴミ拾い、清掃をしている。おばぁさんが腰をさすりながらつぶやいた。
「渋谷のハロウィンも40、50年前みたいになっちゃたねぇ。あの頃はあたしも、友達と仮装して乱痴気騒ぎしてたっけ」
ボランティア仲間の若者が頷いた。
「むかしテレビの懐かし映像でみたことあるよ」
おばぁさんは懐かしそうに話を続ける。
「その後はしばらくこのハロウィン騒ぎも落ち着いてたんだよ。ずいぶん規制されたしねぇ」
「そうだよね、去年くらいから大騒ぎが始まったんだよね」
「歴史は繰り返されるのかねぇ」
※
挿絵2枚目レシピカードになってます。かぼちゃスコーン、色もきれいで、外はさくっとおいしいですよ。
十月最終日。
「うーむ、やつらの文明は、そろそろ進化しただろうか?」
「私たちの小型探査機による定点観測によると、だいぶ進化しているようです」
小型探査機が示すデータは、過去数年間の倫理コードの平均値を指し、観光地推薦基準のボーダーをわずかに超えていた。
ポーポー星人は、地球という星を宇宙連盟の観光地として推薦できるか、ある地点の観察を長年続けてきた。
たとえば、大昔、平安という時代に訪れた際は、牛車という乗り物が、天狗や生霊に襲われていた。危険すぎる。
その次は、戦国という時代だった。槍や刀を持った同族同士が殺し合っていた。野蛮すぎる。
「しかし現在のニホンでは、もう何十年も大きな戦争は起きていません」
「うむ。妖怪や悪魔、怪物の類もいなくなったようだな」
「観光地として推薦できるかもしれません」
「記録によれば、かつて『血塗られたシブヤ運動』という騒乱が起きたようですが、現在は終息したと判断しています」
「よし、直接この目で確かめよう。くれぐれも、現地人には気づかれないよう注意したまえよ」
「はい、イッパン地球人のようにふるまいます」
ウィーンウィーン。高性能な宇宙船が地球の上空にやってきた。
キラキラと輝くメタリックボディのポーポー星人が、トーキョーのシブヤに降り立った。十月三十一日の夜である。
「しまった、この恰好では目立つな。地球服を用意すればよかった」
だが、誰も彼らを不審な目で見ない。それどころか――
「それ手作りですか?素材何?どこの店?」
「すっごーい、映画みたい!マジ、カンドー」
「触っていいですか?俺たちSF映画オタク」
その場にいた地球人たちはポーポー星人を見つけると、友好的に話しかけてきた。
「カンドーとは、美しく上品と言う意味だそうですよ」
「ふむ、なかなか友好的な星ではないか」
「われわれの姿が好ましいとされているようですし」
「地球人の中でも『SFオタク』という種族らしいですね」
しばらく歩くと人混みが増えてきた。それまでBGMのように鳴っていた多数の地球人音声が、突如として不協和音に変わった。
「うぉーうぉー!」狼男が遠吠えを上げている。
「血が飲みたい!」ドラキュラが牙をむき出しにしている。
ミイラ男は包帯をヒラヒラさせ、ゾンビが腕を前に突き出してよろよろと歩いている。日本の妖怪らしき者もいる。
「な、なんと! 天狗がまだいるではないか!」
道路に停めてある車に、長い棒を持ったカッパが乗り上がり、バンバンと叩いている。
「進化系牛車が襲われています!」
シブヤの路は百鬼夜行。頭から血を流している者も多い。
「こ、これは……調査ミスか!?」
「妖怪も悪魔も、まだ健在のようですね……」
「な、なんと!『血塗られたシブヤ運動』が復活したのか!?」
その時、若者たちがスマホをこちらに向けてきた。
「宇宙人コスプレまじリアルw」
「完成度たっけえ!不気味すぎ」
「キモカワ!」
パシャパシャと撮影している。
「き、記録装置だ! 我々が記録されている!」
「まずい、正体がバレたのでは……」
そこへ、巨大なカボチャの頭をした者が近づいてきた。
「トリック・オア・トリート! お菓子くれなきゃいたずらするぞ!」
フードつきの黒ずくめの服、鼻の長い老婆は棒状のものを振り回している。ステッキのてっぺんには星。
「強盗ってやつですよ! 襲われる!」
「に、逃げるぞ!」
ウィーンウィーン。
宇宙船は慌ただしく離陸した。
搭乗口のハッチが閉まるまでの数秒間、ポーポー星人は、カボチャの形の人工知能が発する強烈なノイズを遮断するため、必死に聴覚を閉じた。
「こんな恐ろしい星には、観光ビザも出せない!植民地にもならん」
「宇宙連盟には『渡航危険地域』として報告しておきます」
「二度と近づくな!」
「しかし定点観測は続けなければな」
「そうですね、下等で野蛮な生物がいつ我々の星々に攻めてくるかわかりませんから」
「まぁ、この星の技術力では、まだまだだろうが……油断はできぬ」
こうして地球は、仮装パーティーで救われた。
※
宇宙船に戻ったポーポー星人は、データを詳しく解析した。
「はぁぁ、記録によると、少し前2000年代すぐから2020年あたりに『血塗られたシブヤ運動』があったそうですね。現在は終息しているはずだったのですが、また復活とは。地球人はやはり秩序というものを学ばないようでして」
「いや、あれは大昔の悪魔やら妖怪やらが復活したのでは?」
「新しく『かぼちゃ』と言うものまでいましたしね」
「それはどんな生物なんだ?気になるな。詳しいデータを出してくれ」
「そ、それが別名ジャックオランタン、かぼちゃ畑にいるとしか出てきません」
一番端っこに座るポーポー星人は、会議にも参加せず、なにやらもぐもぐおいしそうに食べている。
「これ、地球、渋谷土産。いける!ポーポー星でも売れそう」
彼の手にした袋には、マジカルキッチン、渋谷店。ジャックオランタンのイラスト。
「もう一つ食べよっと」
黄金色のパンプキンスコーンを取り出した。外はさっくり、中は軽めの食感。ほんのり甘いかぼちゃ味。
「ポーポー星まで、通販してくれないかなぁ」
※
翌朝、シブヤには何事もなかったように朝が来た。
アスファルトには、割れたビールの瓶がメタリックボディの足元で砕けた星屑のように光っていた。
近所の人がため息をつきながら、騒動の後片付け、ゴミ拾い、清掃をしている。おばぁさんが腰をさすりながらつぶやいた。
「渋谷のハロウィンも40、50年前みたいになっちゃたねぇ。あの頃はあたしも、友達と仮装して乱痴気騒ぎしてたっけ」
ボランティア仲間の若者が頷いた。
「むかしテレビの懐かし映像でみたことあるよ」
おばぁさんは懐かしそうに話を続ける。
「その後はしばらくこのハロウィン騒ぎも落ち着いてたんだよ。ずいぶん規制されたしねぇ」
「そうだよね、去年くらいから大騒ぎが始まったんだよね」
「歴史は繰り返されるのかねぇ」
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