夢占はじめました。二代目あやかし太郎の夢解け日記

チャイ

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後編

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その夜、狸山たぬきやま温泉のパンフレットを眺めながら、太郎はふと物思いにふけっていた。

「狸山温泉、いいところだよな。俺も今度、父ちゃんかぁちゃん連れて行ってやるか」

タヌキ族が経営する一大温泉施設は、泉質の高い露天風呂からスライダープール、サウナまで、一年中楽しめることで有名だ。

祖父の世代は、キツネとタヌキは化かし合うライバルとしていがみ合っていたものだが、今はそんな時代ではない。

「ま、金になるならどちらでもいいっしょ」
太郎は心の中でそうつぶやき、大あくびをしながら背伸びをした。


数日後、高校生二人組が来店、このあたりの進学校の制服。太郎の母校だ。店には学生の客も多い、二代目のサービスであるペア割引や学割が活躍しているようだ。

二人は店に入ってきても、スマホを握りしめたまま固くなっていた。

太郎が彼らに飲み物のリクエストを聞くとなんでもいいというので、グリンティーをグラスに作り氷を入れた。

「これな、ミルクで割ってもいいってさ、うちの商店街のお茶屋さんおすすめ!」

抹茶に砂糖で甘みをつけた飲み物は鮮やかな緑色。彼らは初めて飲みますと言いつつも、一口飲むとパッと笑顔になった。

「ねぇ、わたし、毎日同じ人に追いかけられる夢見るんだけど、これって何かの暗示夢かな?風流市って怖い話多いし、うちの学校もその手の話多いから」

少女が不安げに尋ねる。

「僕も怖い夢見るんです、いわゆる都市伝説系の怖い夢。何かの祟り?呪い?悪いことが起こる前触れだったりして?」

少年がおびえた顔で早口で言った。

太郎は彼らの不安な表情と、手にしているスマホを観察した。現代の高校生が怖い夢を見る原因として最も可能性が高いのは、ネット上のコンテンツの影響だ。

「宿題とか部活とか大丈夫かー?」

太郎は核心に迫る前に、まず日常生活について質問した。これにより相手の状況を把握し、同時に会話の主導権を握る。

「えーと?」

戸惑う二人に、太郎はさらに畳みかける。

「ちゃんとやってるのかってことだよ」

「なんか勉強も部活も時間がなくて中途半端な感じかな」

「だろうなぁ」

太郎は予想通りの答えに満足した。時間管理ができていない高校生が、ネット上の刺激的なコンテンツに時間を取られている典型的なパターンだ。

「お前ら、寝る前のスマホ禁止な!ブルーライトも安眠に悪いらしいし。寝る前に動画見てたらね、夢に出るに決まってんだからさ、怖い夢になるって、そりゃ」

太郎は科学的な根拠を交えながら、論理的に説明する。
これで説得力増し増しね!

「えー、怖い動画じゃなかったらいいですか?」

男子高校生が食い下がった。寝る前のスマホは絶対にやめられないと言う強い意志を感じる。

太郎は少し遠い目をして、昔を思い出すように語った。と言っても、わずか一年ほど前のことだ。

「俺もさ、スマホばっか見てたことあったんだよ。夢占いアプリ作ろうと思ってね。でもさ、結局ショート動画にはまっちゃったのよ。次から次だもんなアレ」

太郎は自分の失敗体験を語ることで、説教臭さを軽減し、相手との距離を縮める。同時に「自分も同じ経験をした」という共感を示す。

身に覚えがあるらしき、二人も深くうなづいた。

「そしたら、いつのまにか、大学行かなくなってた……。今、留年中だよ、俺」

突然のカミングアウトに、高校生たちは固まった。背筋がぞーっとし、手のひらには妙な汗がにじむ。

「浪人してないのにー、りゅーねーんー、アハハ」

一方、太郎は能天気に笑っている。

そのとき、男子高校生の視線の先にクリアファイルが目に入った。大学の名前がプリントされている。え?まさかの有名大学?目の前の怪しすぎるあやかし太郎と思わず見比べてしまった。

「せっかくストレートで入学できたのに、スマホで留年だなんて。怪談より怖すぎます」

男子高校生が絞り出すような声を上げ、少女も青ざめた顔で頷く。

太郎の戦略的な自己開示は見事に功を奏した。
はぁ、よかったよかった、自己開示して。恥ずかしい経験も役に立ってくれる。

男子高校生は、何やら思うところがあったようだ。
「僕、夜スマホやめます!」ときっぱりした声で宣言した。

そして、少女も太郎を見て小さく「ヤッバ」と声を出して言った。
「私も、今日の夜からスマホやめるよ!」

あやかし太郎も、案外教育的に役立つものらしい。



それにしても、みんな寝不足なんだなぁ。あやかしも人間も、睡眠が一番だ。

さぁ、そろそろ寝る支度をと、彼は眼鏡をはずした。普段は切れ長でクールな目元だが、眠いのかショボショボとしている。

最近彼は、「〇〇式睡眠法」、「人は睡眠が9割」だのと言う睡眠本にはまっている。大あくびをしながら背伸びすると、彼の目に、初代あやかし太郎の書が目に入った。

夢は裏なり、現(うつつ)は真(まこと)

「予知夢なんてのは、ほとんどない。たいていが、記憶の整理や寝る前にみたもん。あとは、落ちる夢やら追いかけられる夢ってのは、やっぱり忙しかったりストレスが原因だな。」

願い海へと帰らんってのは、彼らの願望を明かしてやる、それが大事――というようなことを、彼の祖父は語っていた。

しかし、二代目あやかし太郎である彼にもまだわからないことがあった。

夢解きとは、なんなのか?それが、わからねぇんだよなぁ。

からまった夢?固まった夢?夢が解けるって、溶ける?

太郎は、これまでの客たちの夢を思い返していた。夢は現実を映すもの、そして時に夢はかたまり、からまることがある。

ああ、面倒だ。現実だけでも面倒なのに、夢でまでからまるなんて、どうやって解きほぐせばいいんだ?

その夜、彼は夢を見た。

――馬鹿もん!

じいちゃんが、あの頃と変わらない声で叱咤した。

――お前、せっかく難関大学に合格したのに、もったいない!何をしてる!中退する気か!ちゃんと学校へ通え!

そうだ、俺は大学で行動心理学をやってるんだ。まだやめる気はないよ。もっともっと、人の心を読むテクニックを、ちゃんと学んでこないとな!

卒論も途中だった。「現代社会における非合理的な消費行動と睡眠負債の関係性に関する行動心理学的考察」がテーマなんだよ。

太郎の「夢占ゆめうら」は、まごうことなきペテンだ。しかし、それは心理学に基づいた精巧なペテンだった。

観察から情報を収集し、相手の反応を読み取りながら推理を進める。共感を示し、権威を引用し、具体的な解決策を提示する。これらすべてが、人の心を動かすテクニックなのだ。

先代の祖父もそうだった。彼の父は夢占師になることはなかったものの、実演販売士として風流百貨店で活躍中というから、商売のセンスは血筋なのかもしれない。

お客をよく観察し、説得力のある話術で、相手に安心感を与え信頼感を得る。実はこれらは技術と経験が必要になる。

「父ちゃんは、若いころアマチュアマジシャンで人気者だったらしいしな」
太郎は実家に飾ってあるトロフィーや写真を思いだした。

代々彼らの妖力は低いようだが、頭の回転は早く、口もうまかった。ペテン師詐欺師のそれだった初代の占いは、客にはまったくそれを悟らせず、ありがたがられ、占い師としての地位を確立したのだ。

だが、占いという名のカウンセリングが、人々の心を解きほぐし、生きる力を与えているのも事実だ。

今日もまた、太郎は夢の「裏側」を解き明かし、ペテンという名の「人助け」を続けていく。目指すは、堂々まっすぐなペテン街道だ。その先にきっと夢解きがあるのだろう。

「たまにはあの看板も磨いてやるか」まずは雑巾を買いに行かないとなぁ。

店先を歩き出した側からおっちゃん、おばちゃんに声をかけられる。
「太郎ちゃん!遅くなるけど、今晩いいかい?」
「待ってまーす」
「あやかしさ~ん、この前の占いありがとねー仲直りできたよ」

ハーイ、夢ならおまかせ、二代目あやかし太郎。この街の夢悩み、本日もズバリ解決いたします!
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