雲とバク

チャイ

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雲とバク

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あるところにのんきで面倒くさがりなバクがいました。
バクは悪夢を食べて暮らしています。悪夢の味ですか?そりゃバクにとってはおいしいですよ。たとえるならば、ピリ辛の料理やスパイシーなカレーと言ったところでしょうか。
栄養もあります。ちなみに普通の夢を食べても味がしません。

しかしここにいるバクさん、最近悪夢を食べるのが面倒になっていました。
「あーあ、なんか面倒だな、食べに行くの……」ため息をついてゴロリ。

悪夢を食べるにはまずは人間の夢に入る必要があります。大体の人間は夜に寝ますからそれに合わせるひつようがあります。

そして夢は、悪夢じゃないことのほうが多いのです。いい夢の場合は、お邪魔しましたねと言って夢からおいとましなければなりません。
ね、結構大変ですよね、悪夢を食べる生活と言うのも。

昔の人は悪い夢を見たら、この夢バクにあげますと言って、バクに知らせてくれたりもしたのですが、今はそんな親切な人も少なくなりました。

悪夢を食べるバクですが、幼いころはなんと雲を食べるのです。離乳食は柔らかな白い雲。
白い雲をぱくりと食べるとクリームのようにとろけます。

幼いバクにとって、人の悪夢や夢はまだ消化が悪く、成長するまでは雲を食べ、その次に人の夢を食べて慣らします。最後にスパイシーでエネルギーのある悪夢を食べるようになるのです。

さっきのバクが寝転んで空を見上げため息をついています。お腹が減っているけど、悪夢を探しに行くのがやっぱり面倒なんですって。

「お昼寝する人って少ないないからなぁ……」
昼下がり、空は青空、白い雲白い雲。

「ねぇ、あの雲、うんと小さいころはあれを食べてたんだから。今だって食べられるんじゃないの?おいしくはないかもだけど、腹の足しにはなりそうだよね」
白い雲はぽかぽか、ぷかぷかと楽しそうにも見えます。

バクはよっこいしょと立ち上がって、空に昇りました。雲の上まで行くと、さっそく雲をちぎって一口パクリ。え?バクって空飛べるの?なんて言っているあなた、バクは人の夢に入ることができるくらいなのですから、空だって飛べるんですよ。

綿のような雲で簡単にちぎることができます。もぐもぐ、パクパク。
「やっぱり、まずい……、ふわふわしすぎてすぐ溶けちゃうし」
バクは思いだしました、誰かの悪夢で見たあの綿菓子というお菓子に似ています。
悪夢に綿菓子が出てくる場合、甘~くてフワフワと言って喜んでいたそれが一晩たつと、しぼんでぺったんこになるんです。それを見た人間は「早く食べてしまえばよかった……」と涙をこぼします。

向こうにはもっとポコポコした白い雲がわいています。
「これは人間のお菓子、マシュマロに似てるんだな」
悪夢にマシュマロが出てくる場合、でっかいマシュマロのおばけに追いかけられたり、マシュマロのふとんにぎゅーっと押しつぶされたりするんです。そして人間は言うんです「ふわふわ柔らかい食て小さいマシュマロがあんなに大きくなるなんて」

そんなマシュマロみたいな白い雲をちぎってバクは食べました。
「薄い味で、物足りないけど、腹の足しにはなるかな」
雲をむぎゅっとちぎっては口に入れ、ちぎってはポイ。

食べ進むにつれ、白い雲はなくなり、いつの間にかバクの目の前の雲はどんよりとした灰色の雨雲になっていました。
雨雲の味ってどんなだろう?バクはグレーの雲をちぎってパクリ。
「あれ?黒い雲って白よりはおいしい!なんかちょっと味があるね」
雨雲は湿り気が多くてしっとりしているのも口当たりがいいなとバクは思いました。

なんだかあたりの空気がひやりとし、雨雲は雷雲に変わり真っ黒な雲達がビリビリと震えています。

バクの目の前に頭には角、トラ柄の黄色い鬼のパンツをはいた雷様があらわれ声をかけました。
「やあやあ、久しぶりに雲を食べるバクを見たぞ!ならば特製スパイシー雷雲を振る舞ってやろう!」

雷様が雷太鼓を打ち鳴らすと、雲の下で一層立派なピカピカとした稲光、ゴロゴロドーンという音が鳴り響きました。

地上ではゲリラ豪雨、外にいる人間の傘は全く役に立たないほどの大雨です。家の中の人間とペットは、とんでもない数の雷に、皆おびえて小さく丸まり身を寄せ合いガタガタと震えていたそうです。

「この雲はいけますね!ピリピリしておいしいです」
バクの言葉に雷様は気をよくして景気よく雷雲を出してくれました。太鼓を乱れ打ち、真っ黒でピカピカ光る雲がどんどん湧き出てきます。
「ありがとう雷様!」

バクはピリピリしたしびれるようなおいしさの雷雲を心行くまで楽しみました。
お腹がいっぱいになったバクはぷっくりと膨れたお腹をさすって大満足。
背伸びをしながら大あくび、おっとっと、体が重いぞ。バランスを崩したバクは雲を突き破り、地上に落っこちていきました。

ヒューン、ドスン。
「はぁ、落ちちゃった、でも帰る手間がはぶけて、まぁよかったな」

バクはやれやれと住み慣れたわが家へ戻り、リビングのソファーでごろり、テレビをつけました。
ワイドショーを見ていましたが、しばらくすると、お腹を押さえてみました。

なんだかとてもお腹が冷たい。
「あ、おなかの調子が……おトイレ……」
便器に腰かけてつらそうな顔のバクのお腹の中で鳴り響くのはゴロゴロドーン。ゴロゴロ。
そう雷でした。時折鼻から稲光がピカピカと出てきます。

「ひー、助けて―」
しばらくすると、お腹は落ち着きましたが、バクは力尽きて、そのまま寝てしまいました。夢も見ずに。



事情を聞いて、翌日見舞いに来た友人バクが言いました。
「君のお腹、昨日は大変だったみたいだね」
「そうなんだ、雷雲って味はなかなかいけるけど、お腹には悪いね。ピーヒャラドンドンだ。やっぱり人間の悪夢が一番だよ」

「そうさ、昨日の夜なんてすごかったよ」
バクの友達はうっとりした顔で思いだしました。
「町中みんな怖い夢を見てさ、あっちもこっちも食べ放題さ。よっぽど昼間怖いことがあったんだろうね」
「へー、なにがあったんだろうね?」

実は町の人々、昼間の雷が怖くて、その晩は悪夢でうなされたのです。昔から怖い物の例えに、『地震、雷、火事、親父』とあげられるほどですからね。

「あーあ、僕は昨日の夜はお腹を壊して、疲れて寝ちゃったよ。まだ今も眠いくらいだ」
そう言ったそばから彼のまぶたは重くなり、うつらんうつらんしてきました。
そして、黒い雷雲、ゴロピカドンドン、バクのお腹の中で雷が鳴りはじめました。
でもこれは夢、そう、バクの夢の中の出来事のようです。

「おやおやすごい悪夢だね」
友達バクも驚くほどの派手な悪夢がここに広がっています。お腹の中で雷が鳴り響きお腹が痛くてたまらない夢です。

「ああ、痛いよぉ、雲なんて食べるんじゃなかったよ」
バクはうなされています。

「昨日もいっぱい悪夢を食べたから、あんまり食欲ないんだよね」
そう言いながら、友達バクはゴロゴロと鳴り続けるバクの腹から湧き出る悪夢をゆっくりと食べました。

「お腹を壊すほど雷雲を食べるなんて、お前は食い意地が張ってるな」
極上の刺激的な味わいの悪夢にグルメな友達バクも大満足。
悪夢を食べてもらったバクも、悪夢がなくなりようやく落ち着き、安らかな寝息を立てて眠っています。

「ごちそうさま」
はぁ、ゲップップと、友達バクの口から小さな稲光つきのゲップがもれました。

*おまけのレシピカード
作中に出てきたマシュマロを使ったトーストレシピです。
レシピは著者のサイト「マジカルキッチン」より
https://magicalkitchen.com/




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