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2話 木の上で再会!?
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「入学式も無事終わった!」
人通りも減った正門前で、ミア・ハートウェルは田舎から背負ってきた荷物を降ろし一休み。式では疲れて転寝してしまった。
美しい校舎に、中庭。
正面玄関には、学園の紋章が刻まれた大きな魔導盤が輝き、生徒たちの出入りを記録している。
「早くアレクシスに会いたいな!どこだろ?」
胸の下まで届く長い黒髪を揺らし、そっとあたりを見渡す。
この日のために伸ばした黒髪と、ぐっと抑えたふるまいで、彼女は一見おとなしそうな令嬢に見えた。
本当は「アルカディア学園ステキー!!」と叫びたいがぐっと我慢。
ミアは好奇心に満ちた子猫のような瞳をキラキラさせるだけにとどめた。
今も、前世の記憶ははっきりと残っている。
雨の日に捨てられた黒い子猫。
(寒い、お腹すいたにゃ、ママはどこにゃ?)
手を差し伸べてくれたのはアレクシス少年。
優しい笑顔で「迷子になっちゃったの? 大丈夫、怖くないよ」
小さな毛玉はニアと名付けられた。
それからは楽しい日々。
おてんばなニアは、いたずらっ子。怒られることもあったが、そんなのはへっちゃらとばかりにまた少年の膝の上に乗り、優しくなでてもらうのだった。
人間に転生したミアは決めている。
もう本をかじったり、ケリケリ足蹴り、脱走もしない!
おりこうさんになって彼を癒すのだと。
「猫かぶりでもなんでもやるにゃ!」
意気込んだものの、慌てて口を押さえる。貴族の言葉はいまだ慣れないようだ。
「さて、女子寮はどこかしら?」
ミアがあたりを見回すとふと大樹が目についた。
「やっぱり我慢できない!」
木登りは彼女が猫だった頃からの大好物。
誰も見ていない、少しだけと彼女は胸を高鳴らせた。
「ニャッ!」
ミアは慣れた身のこなしで、猫のようにしなやかに軽々と、木の幹を駆け上がる。
大きく枝を広げた一番高い場所に腰かけ、足をぶらぶらさせた。
校舎全体が見渡せる絶景に、思わず頬が緩む。
(木登り最高!)
その時だった。
「おい、君!」
ミアは心臓が止まるかと思うほど驚き、慌てて下を見る。
見覚えのある顔、少し大人びてはいるが間違いない。
そこに立っていたのは、成長し凛々くなったアレクシスだった。
以前の優しい面影よりも、理知的な印象が強い。ラピスラズリ色の瞳は、どこか近寄りがたい雰囲気も纏っている。
昔から本好きだったものね、銀縁の眼鏡が似合ってる!ミアの心臓がドキドキと高鳴る。
「君は新入生かな? いったい、そこでなにをしているのかね」
いぶかし気な声のトーンは一つ上なだけとは思えない大人を感じさせる。
そして、ミアはあせっていた。なんせスカートだ。木から降りることはためらわれた。
「初めてお目にかかります。私、ハートウェル男爵家のミアと申します」
木の上でどうにか完璧なお嬢様の挨拶をしようと試みる。
ミア……ニア?アレクシスは胸の奥がちくりと痛んだ。交通事故で逝ってしまった子猫の名前は『ニア』
――いや、違う。感情を押し殺し真顔を作った。
「こんな場所で、どうしたのだ」
「実は、道に迷ってしまい、高い場所から確認したくなり、見ていたのです」
正直に答えられず、とっさに嘘をついた。
アレクシスは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに真面目な表情に戻った。
「そうか。では、早く降りてきなさい。怪我でもしたら大変だ」
「それが、怖くて、降りられなくて……」
(ホントはもっと高いところだって平気なんだけどね)
「全く、仕方ないな」
アレクシスが小さくため息をついて、なんと制服のボタンを外しジャケットを脱ぎ捨てシャツの腕をまくり始めた。
そして何の躊躇もなく木の幹を登る。
ミアはその姿に目を丸くしつつときめく。やがて彼はミアのいる枝の少し下に腰をかけ、手を差し伸べた。
「さあ、この手を取って。怖がらず、ゆっくりだ」
先ほどの厳しさとは違い、優しさに満ちた声だった。ミアは彼の手に自分の手を重ねた。
「さぁ、怖がらないで」
アレクシスはミアの体をしっかりと支え、ゆっくりと枝から枝へと下ろしていく。
地面に降り立ったミアは、安堵から思わず彼の腕の中に飛び込んでしまいそうになったが、間一髪で堪えた。
「君は……」
アレクシスが言いかけて、ふっと微笑んだ。
その瞬間、ミアの心臓が跳ね上がる。
——だめ、この笑顔!昔と全然変わってない!
「本当に面白い人だね。まさか木登りをするお嬢様に出会うとは思わなかった」
彼の声には、どこか楽しそうな響きがある。
「私はアレクシス・クロフォード。2回生で、生徒会役員と風紀委員をしている」
名乗りながら、彼が軽く前髪を掻き上げる仕草に、ミアは思わずぽーっとしてしまう。
(成長したアレクシス、反則的にかっこいいよ!)
寮を探していたのだと彼に告げると、案内しようとミアをエスコートした。
寮へ続く道すがら、アレクシスは淡々と規律について語り始めた。
「寮は、魔導エレベーターを使い、部屋には魔導ランプと魔法瓶が設置されている。廊下を走る、私物を放置するなど、規律を破る行為は一切許されない。肝に銘じるように」
「あの……」
つい昔のように甘えたくなったが、慌てて言葉を飲み込んだ。
いつか「あなたに助けられた猫のニアです。人間になって、会いに来ました」そう告げたら、彼は喜ぶ?それとも?
丘の上にある女子寮の門の前で彼と別れ背中を見送りつつミアは思った。
アレクシスの事はもちろんこれからの学園生活にも夢をはせる。
聖アルカディア学園。学生達の憧れが詰まった、夢のアカデメイア——。
学園案内にも、これでもかとばかりに研究実績がずらりと並ぶ。
「ふむふむ、高等部の学生でも、大学の研究室で研究を行う者も少なくありません」
アレクシスの名前を見つけ、ミアは胸を高鳴らせた。
でも、まず目標は「授業についていくこと!えへへ、なんせまぐれで入れたようなもんだもんね」
そして、新しい教科書達を抱きしめた。
人通りも減った正門前で、ミア・ハートウェルは田舎から背負ってきた荷物を降ろし一休み。式では疲れて転寝してしまった。
美しい校舎に、中庭。
正面玄関には、学園の紋章が刻まれた大きな魔導盤が輝き、生徒たちの出入りを記録している。
「早くアレクシスに会いたいな!どこだろ?」
胸の下まで届く長い黒髪を揺らし、そっとあたりを見渡す。
この日のために伸ばした黒髪と、ぐっと抑えたふるまいで、彼女は一見おとなしそうな令嬢に見えた。
本当は「アルカディア学園ステキー!!」と叫びたいがぐっと我慢。
ミアは好奇心に満ちた子猫のような瞳をキラキラさせるだけにとどめた。
今も、前世の記憶ははっきりと残っている。
雨の日に捨てられた黒い子猫。
(寒い、お腹すいたにゃ、ママはどこにゃ?)
手を差し伸べてくれたのはアレクシス少年。
優しい笑顔で「迷子になっちゃったの? 大丈夫、怖くないよ」
小さな毛玉はニアと名付けられた。
それからは楽しい日々。
おてんばなニアは、いたずらっ子。怒られることもあったが、そんなのはへっちゃらとばかりにまた少年の膝の上に乗り、優しくなでてもらうのだった。
人間に転生したミアは決めている。
もう本をかじったり、ケリケリ足蹴り、脱走もしない!
おりこうさんになって彼を癒すのだと。
「猫かぶりでもなんでもやるにゃ!」
意気込んだものの、慌てて口を押さえる。貴族の言葉はいまだ慣れないようだ。
「さて、女子寮はどこかしら?」
ミアがあたりを見回すとふと大樹が目についた。
「やっぱり我慢できない!」
木登りは彼女が猫だった頃からの大好物。
誰も見ていない、少しだけと彼女は胸を高鳴らせた。
「ニャッ!」
ミアは慣れた身のこなしで、猫のようにしなやかに軽々と、木の幹を駆け上がる。
大きく枝を広げた一番高い場所に腰かけ、足をぶらぶらさせた。
校舎全体が見渡せる絶景に、思わず頬が緩む。
(木登り最高!)
その時だった。
「おい、君!」
ミアは心臓が止まるかと思うほど驚き、慌てて下を見る。
見覚えのある顔、少し大人びてはいるが間違いない。
そこに立っていたのは、成長し凛々くなったアレクシスだった。
以前の優しい面影よりも、理知的な印象が強い。ラピスラズリ色の瞳は、どこか近寄りがたい雰囲気も纏っている。
昔から本好きだったものね、銀縁の眼鏡が似合ってる!ミアの心臓がドキドキと高鳴る。
「君は新入生かな? いったい、そこでなにをしているのかね」
いぶかし気な声のトーンは一つ上なだけとは思えない大人を感じさせる。
そして、ミアはあせっていた。なんせスカートだ。木から降りることはためらわれた。
「初めてお目にかかります。私、ハートウェル男爵家のミアと申します」
木の上でどうにか完璧なお嬢様の挨拶をしようと試みる。
ミア……ニア?アレクシスは胸の奥がちくりと痛んだ。交通事故で逝ってしまった子猫の名前は『ニア』
――いや、違う。感情を押し殺し真顔を作った。
「こんな場所で、どうしたのだ」
「実は、道に迷ってしまい、高い場所から確認したくなり、見ていたのです」
正直に答えられず、とっさに嘘をついた。
アレクシスは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに真面目な表情に戻った。
「そうか。では、早く降りてきなさい。怪我でもしたら大変だ」
「それが、怖くて、降りられなくて……」
(ホントはもっと高いところだって平気なんだけどね)
「全く、仕方ないな」
アレクシスが小さくため息をついて、なんと制服のボタンを外しジャケットを脱ぎ捨てシャツの腕をまくり始めた。
そして何の躊躇もなく木の幹を登る。
ミアはその姿に目を丸くしつつときめく。やがて彼はミアのいる枝の少し下に腰をかけ、手を差し伸べた。
「さあ、この手を取って。怖がらず、ゆっくりだ」
先ほどの厳しさとは違い、優しさに満ちた声だった。ミアは彼の手に自分の手を重ねた。
「さぁ、怖がらないで」
アレクシスはミアの体をしっかりと支え、ゆっくりと枝から枝へと下ろしていく。
地面に降り立ったミアは、安堵から思わず彼の腕の中に飛び込んでしまいそうになったが、間一髪で堪えた。
「君は……」
アレクシスが言いかけて、ふっと微笑んだ。
その瞬間、ミアの心臓が跳ね上がる。
——だめ、この笑顔!昔と全然変わってない!
「本当に面白い人だね。まさか木登りをするお嬢様に出会うとは思わなかった」
彼の声には、どこか楽しそうな響きがある。
「私はアレクシス・クロフォード。2回生で、生徒会役員と風紀委員をしている」
名乗りながら、彼が軽く前髪を掻き上げる仕草に、ミアは思わずぽーっとしてしまう。
(成長したアレクシス、反則的にかっこいいよ!)
寮を探していたのだと彼に告げると、案内しようとミアをエスコートした。
寮へ続く道すがら、アレクシスは淡々と規律について語り始めた。
「寮は、魔導エレベーターを使い、部屋には魔導ランプと魔法瓶が設置されている。廊下を走る、私物を放置するなど、規律を破る行為は一切許されない。肝に銘じるように」
「あの……」
つい昔のように甘えたくなったが、慌てて言葉を飲み込んだ。
いつか「あなたに助けられた猫のニアです。人間になって、会いに来ました」そう告げたら、彼は喜ぶ?それとも?
丘の上にある女子寮の門の前で彼と別れ背中を見送りつつミアは思った。
アレクシスの事はもちろんこれからの学園生活にも夢をはせる。
聖アルカディア学園。学生達の憧れが詰まった、夢のアカデメイア——。
学園案内にも、これでもかとばかりに研究実績がずらりと並ぶ。
「ふむふむ、高等部の学生でも、大学の研究室で研究を行う者も少なくありません」
アレクシスの名前を見つけ、ミアは胸を高鳴らせた。
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