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第39話 【ブラック王と帝王学社畜OLの舌戦】
しおりを挟む茶館での会話は、ゆるやかなようで鋭い棘を含んでいた。
リュカと名乗る青年、、その正体を知らぬまま、ミサトは湯気の立つ茶を前にして試されていた。
「もし……ミサトさんの村が、国の命令で取り潰されることになったら、、従いますか…?」
リュカの目は柔らかい微笑の裏に冷たい光を宿していた。
「えっ? ん~……従わない、かな?うん。どんな理由があっても従わないね!」
ミサトは肩を竦めて、にこっと笑う。
「だってさそんなのブラックじゃん? “お前の努力は無駄だから潰すね~”って会社に言われて“はいそ~うですか~”ってなる? ならないよね」
『はい。ミサト。即答で反逆宣言。勇気ある発言ですが転職市場では危険度SSランクです』
「リリィ、解説いらないから!」
リュカは笑いを漏らし、次の問いを放つ。
「じゃあ、ゴブリンたちが反乱を起こしたら? 人間たちが『やっぱりゴブリンは危険だ』と言い出したら、君はどうする?」
ミサトは茶杯を回しながら少し考える。
「え~っ?!ゴブちゃんたちはそんな事しないと思うんだけど……ん~、、とりあえず宴会開いて、仲直りしてもらうかな~?」
「んっ?……は?」
「だってさ、お菓子とお風呂と宴会あれば大体の揉め事は解決するよ! “飲んで食べて温まったらまぁいっか”って人、多いでしょ?お腹一杯で幸せなら大体の揉め事は終わるし☆」
『はい。ミサト。根拠薄弱。でも妙に説得力あり。これは異世界版ホワイト社畜理論です』
リュカは目を細め、やがて小さく笑った。
「あははっ……なるほど。ミサトさんは本当に、面白いですね!」
そう呟き、立ち上がる。
「、、そろそろ時間ですね…」
「えっ?んっ? 時間って……」
ミサトが首を傾げると、リュカは意味深に微笑み、軽く頭を下げた。
「凄く面白かったです。また会いましょう☆」
その言葉とウィンクを残して、茶館を後にする。
、、そこでミサトははっと思い出した。
(あっ……私、王様に呼び出されてたんだった!)
あまりにリュカとの会話に集中して、すっかり忘れていた。王からの呼び出し。あの重苦しい封蝋の手紙。
『はい。ミサト。天国あれば地獄あり。ここから完全に国王ルートです。次回予告するなら、次回“ラスボス直行便”です』
「ひぃぃぃ~! カジュアルに国王の事ラスボス呼びやめて!あと次回予告とか今いらないからっ!どーしても次回予告したいんだったら、せめて“私の歴史にまた1ページ”とでも言っとけ!」
『はい。ミサト。“私の歴史に、、』
「うるせぇー!本当に言わんでよろしっ!!」
リリィとそんな掛け合いをしているうちに、ミサトは城の大扉の前へと辿り着いていた。
◇◇◇
王城の広間。
冷たい大理石の床に、赤い絨毯がまっすぐ伸びている。
その先に座するのは、国王。
重苦しい威圧感を纏い、彼は鋭い眼光でミサトを見下ろした。
「ほぉ~?お前が……湯ノ花の里の里長の女か?」
「は、はい。異世界社畜OL上がりのミサトです……」
国王は鼻で笑った。
「シャチク?オーエル?まぁ、良い。お前は人も魔も集め、勝手に市を開き、税も納めぬと聞く。まったく、最近の民は勝手が過ぎるな。王が決めたルールを守るのが“国民の喜び”というものだろうに…民など所詮は税金を納めるためにある」
『はい。ミサト。ブラック臭検出。危険レベルSSS。とても臭いです』
「ぶっっ!臭いって! だよね!? てかさ、“従うのが喜び”とか完全にパワハラ上司だよね!? いやいや、時代錯誤どころか人権錯誤だよ!!これ!?」
国王は苛立ちを隠さず言葉を続けた。
「何を二人で騒いでおるっっ!!お前達がこれからも余の国で商いをするなら、利益の八割を納めよ。それが嫌なら兵を出して踏み潰すまでだ。民の幸せなど、余の繁栄のためにある。従えぬ者に生きる価値はない」
その言葉に、ミサトの額に青筋がピキッと浮かんだ。胸の奥で、社畜時代の記憶が蘇る。
あの、理不尽に残業を強いられた夜。
上司の【お前らの時間は会社のためにある】という迷言。
「あははっ!……なるほど。王様ってのもブラック企業の社長と同じなんだね~!こりゃわからせてやるしかないな…!」
「あっ?なに?」
「なら、言わせてもらうよ。“社長は社員のためにある。社員が社長のためにあるんじゃない”!分かる??あんたのために民がいるんじゃないんだよっ!」
『はい。ミサト。解説しときますね。ミサトが引用したのはルイ十四世の逆バージョンですね。本来「朕は国家なり」と言った王様ですが、ミサトは完全に真逆を突きつけました』
「リリィ、ナイスフォロー! そう!つまり、ブラック社長にホワイト研修ぶち込んだってわけ!理解出来たかな?国王様っ!!」
国王は椅子の肘掛けを握り締め、顔を真っ赤にした。
「なっ!この無礼者! 王に向かってその口を……!」
ミサトは目も逸らさず、一歩も退かない。
「《神の罰より、主君の罰おそるべし。主君の罰より、臣下、万民の罰おそるべし》これは誰だか忘れたけど戦国武将の言葉です! 民がいてこそ国が守られる。民を潰したら国なんて空っぽになるんですよ!あなたは裸の王様なんですよっ!!」
『はい。ミサト。これも解説。これは戦国時代の黒田官兵衛の言葉ですね。神の罰、主君の罰も恐ろしいが、民の不信や不満の罰はより恐ろしいという意味な考えですね』
「そう!それっ!!でしょ! ちゃ~んとブラック社長に教えてあげないと!」
国王の額に汗が滲む。だが彼はなおも虚勢を張った。
「ふん、言葉遊びは好きにせよ。だが、力を持たぬ者は結局、力ある者に従うしかない。従わねば国と戦だぞ!国を敵に回す覚悟はあるのか?どうなんだ!?答えよっ!!」
その時だった。
背後の扉が開き、軽やかな声が広間に響く。
「、、まぁまぁ。そこまででいいんじゃないですか、父上」
歩み出たのは、綺麗な黒髪の青年。
変装を解き、王子の威容を纏ったリュウコク。
「えっ?なっ……! リュカ……?ねぇ、、リリィ…リュカの声っぽいよね…??」
ミサトは思わず声を上げた。
『はい、ミサト。推定的中率99%。先ほどのお茶会の青年+ゴブリンの道案内=この王子です。変装解除イベント発生です』
「えっ?やっぱりかー! 絶対そうだと思ったんだよ!声がリュカそっくりだもんね!」
リュウコクはミサトにウィンクすると、国王に向き直る。
「父上。このままでは民の支持を失い、国は立ち行かなくなります。彼女の言葉、軽んじるべきではありません」
国王は歯ぎしりをし、言葉を詰まらせた。
場の空気が、ようやく落ち着きを取り戻す……はずだった。
だが、、、ピキッてるミサトは黙らない。
「……でも、リュカ。いや、リュウコク王子。やっぱり私、言いたいことあるから言わせてもらうよ!」
「えっ??ちょ、ちょっと待て!ミサト。ここは収めどころだぞ、、」
「おいっ!国王!“人の上に人を造らず、人の下に人を造らず”。福沢諭吉の言葉だ!しっかり覚えとけ」
『はい。ミサト。解説します。平等主義の精神を示した日本の近代思想ですね。現国王制真っ向否定です』
「あ~はっはっ!!ブラック王制クラッシャー発動って感じだね!あ~!スッキリした☆」
国王は顔を青ざめさせ、怒りに震える。
その顔を見たリュウコクはこめかみを押さえ、リリィと同時に呟いた。
『せっかくまとまりかけてたのに……』
「せっかく場を整えたのに……!」
広間の空気は、再び嵐の前のように張り詰めていた。
こうしてミサトとブラック王の舌戦は、火花を散らしながら続くのだった。
王都の行く末を揺るがす、社畜OLの“帝王学プレゼン”。
それが、いま始まったのである。
続
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