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第3話 【余裕の天才 リュウコク王】
しおりを挟むラインハルト王国の朝は、ざわめきと不満に包まれていた。
玉座の間に集った旧王党派の臣下たちは、一様に渋い顔をしている。
「陛下はいつになればアルガスとの政略結婚を受け入れられるのか?」
「湯ノ花の楽市楽座など無秩序そのもの。いずれ王国の権威を損なうやもしれぬ」
「……あの辺境の女に惑わされ、国家を危うくするのは必定ですぞ…。よっぽど前国王様のが良かったのでは…?」
次々と飛び交う嘆きと愚痴。
彼らの脳裏にあるのは常に「前王のやり方」であり、変化を恐れる姿勢そのものだった。
、、そのとき、扉が開いた。
「やぁやぁ。おはよう、みんな! 今日も文句が多くて元気そうだね!ドアの外まで聞こえてるよ。あははっ!」
新王リュウコクが現れた。
肩肘張らぬ笑顔に、臣下たちは一瞬ぎょっとする。
いつもの軽薄な調子だと油断した、その刹那。
「う~ん?さて。まずは君達の気にしている外交の話から片づけようか。昨日のうちに来ていた使節団、応接室に通してあるんだろ?」
「は、はあ……」(なぜ?それを?)
臣下の一人が慌てて頷いた。
てっきり何も知らぬと思っていた。だが、リュウコクはすでに把握していたのだ。
◇◇◇
応接室に並んだのは、北方の商業国家アルガスの使者たち。
開口一番、彼らは切り込んできた。
「ラインハルト王国が新国王に代わったと言う事で、我が国は御国と政略婚による同盟を望む。婚姻こそが国家の絆であり、、」
言葉を遮る様にリュウコクが喋り出す。
「はいはい、ストップ。お口にチャックね! 婚姻はナシ。代わりに交易ね」
「……交易?」
「そう。湯ノ花とラインハルトの市場を通じて、アルガスの香辛料を南部に流す。代わりに南部の鉄鉱を北方へ。双方の利得は婚姻どころじゃない。数字、計算してあるよ。欲しければ帰り貰って帰りなよ。僕はもう頭に入ってるから♪」
リュウコクは懐から帳簿を取り出すと、滑らかに数値を並べた。
輸送コスト、需要予測、税収シミュレーション、、すべてが整然と記されている。
使者たちは目を丸くし、やがて低く唸った。
「……これは……我らが求めていた答えより、はるかに現実的だ」
「婚姻抜きで、これだけの利をもたらすとは……」
「そうでしょ!分かったら早く国帰って交易の準備してね」
旧臣下は口を挟もうとしたが、その隙はない。
すでに交渉は成立していた。
、、外交、一瞬で決着。
◇◇◇
次にリュウコクは王都の倉庫街へ向かった。
ずらりと積まれた麻袋、埃をかぶった樽、誰も管理しきれず放置された物資の山。
臣下たちは眉をひそめ、リュウコクとカリオスは咳き込む。
「ごほっ、ゴホッ、ん~、ずいぶんと放置してあったみたいだね…知ってたけど、、思ったよりひどいや……」
「これは先王の代からの問題でして……物資の滞留が……」
「そう、放置したら腐るだけ。だから、、こうする☆」
リュウコクはさらりと命じた。
「余剰穀物は湯ノ花へ。あそこなら温泉客に振る舞える。鉄材は南部の鍛冶ギルドへ回せ。織物は東方商人に競売させろ。うん。ほら、これで全部流れるだろ?」
あまりにあっけない。
だが、兵も商人も即座に動き出し、滞っていた物流は瞬く間に解消していく。
「こ、こんな簡単に……」
「父上の時代に出来なかったことを……」
呆然とする臣下をよそに、リュウコクは肩をすくめた。
「簡単だよ。余った物は使えばいい。それだけさ♪」
◇◇◇
昼下がり、リュウコクは市場にふらりと姿を見せた。
子どもたちが遊び、商人が声を張り上げる雑踏の中を、王自ら歩く。
臣下は慌てて止めようとした。だがカリオスがそれを止めた。
「王の威厳が……!」
「うるさいな。王様だって温泉まんじゅうくらい食べるんだよ!カリオスそいつ押さえといて」
「ははは!了解」「ひぃ!放せ~」
屋台で温泉まんじゅうを買い、横にいた子どもへひょいと手渡す。
目を輝かせる少年に、リュウコクは屈託なく笑った。
「もっと湯ノ花や世界のお菓子が入ってくれば、君らのおやつもも~っと増えるさ☆」
「おおっ! 王様ありがとう!」
その場の空気は一瞬で和んだ。
民衆は王を遠い存在ではなく、《自分たちの味方》として感じ始めていた。
◇◇◇
夕刻。玉座に戻ったリュウコクを、旧臣下たちが取り囲む。
矢継ぎ早の進言が飛ぶ。
「外交はどうされたのですか!」
「物流の混乱は……!」
「政略婚の件は……!」
リュウコクは椅子に腰掛け、伸びをしながら言った。
「あ~、、それもう全部終わってるよ」
「なっ……終わっている……?」
「外交は交易で決着。物流は解消済み。婚姻? ナシナシ。数字的にもメリットないし…僕には今世も来世もミサトが居るし…」
軽い口調だが、その言葉に一点の曖昧さもない。
臣下たちが呆気に取られている間に、リュウコクは立ち上がった。
豪奢なマントを翻し、背を向ける。
「それじゃ、後は頼んだよ!僕はミサトに会いに湯ノ花に行ってくるから! またね~」
ぽか~んと立ち尽くす臣下。
だが兵士や侍従たちは、思わず見送るその背中に、父王にはなかった確かな頼もしさを感じていた。
新しい風が、王都に吹き始めていた。
◇◇◇
王都を後にする馬車の中。
窓から風を受けて鼻歌を歌うリュウコクの隣で、カリオスが呆れ顔をしていた。
「お前なぁ……玉座で“全部終わってるよ”って、臣下どもの顔が真っ青になってただろうが」
「え? だって本当にちゃんと終わってたじゃん」
「そういう問題じゃねぇって、少しくらい“努力してます”って顔をしとけよ」
「あははっ!努力なんてしてないからなぁ。僕は楽しんでるだけ。ずーっと思い描いていた国にしてるだけだよ」
カリオスは大笑いした。
「ははっ! いいねぇ、その開き直り! あれこれ考えて裏で動いてた頃より、今の方がよっぽど王様らしいぜ」
「そう? 今の僕はただ、ミサトに会いたいだけなんだけど」
「ぷっはっ!……やれやれ、惚れた弱みか。またしこたま殴られんぞ!!あははっ! だがまぁ、そういう王に仕えるのも悪くねぇな」
二人の笑い声が、馬車の中に軽やかに響いた。
続
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