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第4話 【湯ノ花の風と、王の素顔】
しおりを挟む王都から寄り道しながら半日ぐらいの道のり。
山並みを抜け、湯けむり漂う谷あいに馬車が差しかかると、白い湯煙と活気ある人声が風に乗って流れてきた。
「おお……着いたぞ~!湯ノ花の里~♪」
リュウコクは窓から顔を出し、目を輝かせる。
「ちゃんと来るのは初めてだな!王都とは空気が違う。堅苦しいのが一切ねぇ。こりゃ商人も旅人も集まるはずだ」
カリオスも感心して頷いた。
馬車を降りた瞬間、熱気に押されるように二人は市場へ吸い込まれていった。
露店が並び、串焼きの香ばしい匂い、蒸したての饅頭の甘い香り、薬草を干す香りが混じり合う。
「いらっしゃい!温泉たまごだよ、出来たてだよ!」
「焼き魚串一本!塩加減は抜群だよ!」
「温泉まんじゅうも蒸したてだよー!」
声を張り上げる商人たちの間を歩くと、観光客や子どもたちの笑い声が絶えない。
リュウコクは思わず足を止めた。
「ははっ!……すごいな。王都の大市より、ずっと楽しそうじゃないか」
「へっ。俺の腹の虫が鳴くくらいには魅力的みたいだぜ」
カリオスはもう早速、焼き豚串を三本も抱えていた。
「お前、どんだけ早いんだよ!」
「王よ、戦場と市場で遅い奴は生き残れねぇんだよ」
「えっ??市場で死ぬことある?!」
二人の掛け合いに、周囲の商人や子どもたちが笑い声を上げた。
と、その時。
快活な声が背後から響いた。
「おや?どこかで見た顔だと思ったら……新王様じゃないですか!」
振り返ると、鮮やかな髪の毛を揺らし、腰に短剣を差した女が立っていた。
エルナ。湯ノ花を守る受付にして、ミサトの良き理解者である。
「おぉ、君がエルナか!噂は聞いてるよ。案内してくれると助かるな」
「もちろん! 湯ノ花の魅力は歩いて体験しなきゃ分かりませんからね~」
◇◇◇
エルナを先頭に、市場の奥へ。
祭りのような賑わいに、リュウコクは胸を躍らせ、カリオスは屋台ごとに金を落としていく。
「おいリュウコク、これ食え。肉汁が溢れるぞ」
「いや僕はもう三つ食べたし……って、うわっ熱っ!」
「ははは!火傷した舌には温泉水だ、ほら飲め!」
湯の香り漂う水を差し出され、リュウコクは涙目になりながらも笑った。
そんな様子を、エルナはくすりと笑みを浮かべながら見ていた。
「ふふふ、王様らしくない王様、って評判は本当みたいですね」
と、ちょうどその時。
通りの向こうから、聞き覚えのある声が響いた。
「ほら、カイル、それはこっちに並べて!客の動線を考えなきゃ」
「へいへい、ミサトには敵わねぇな!」
リュウコクが振り返れば、ミサトとカイルが並んで笑い合っていた。
荷を担ぎ、店を手伝いながら、まるで昔からの仲間のように息が合っている。
その光景を見た瞬間、リュウコクの眉間がぴくりと動いた。
「おいっ??……ちょっと待ってカリオス、あれ何?見せつけてんの??」
「見せつけてるって、、ただの店仕事にしかみえないだろ!」
「ただの? いーやっ!笑ってるよ?一緒に!」
「お前なぁ、ヤキモチ丸出しじゃねぇか」
リュウコクは思わずスタスタと駆け寄ると、声を張り上げた。
「やぁっ!!ミサト~!そこのハンサムガイと楽しそうじゃないかぁ~?」
ミサトは振り返り、あからさまに呆れ顔をした。
「……アンタ、わざわざそんなこと言うために駆けつけたの?」
「いや別に!ただの同盟国として、視察に来ただけだし!全然気にしてないし!」
声が裏返り、周囲の子どもたちがクスクス笑う。
カイルは頭をかきながら、ミサトの後ろへ回った。
「……はぁ。こいつも頭の中にバケモン飼ってるタイプなのか??」
「え、今なんか言った?ハンサムガイ君!」
「いや、なんでもねぇ」
それでもリュウコクはすぐ真顔に戻り、通りを見回した。
「ん~??市場の配置、少し歪んでるな。
客の流れが東西で詰まってる様に見える。この露店を斜めに配置すれば、往来が楽になると思う。
あと、積み荷を受け取るなら出口でまとめるんじゃなく、入口で受け取った方が効率的だ。商人も安心する」
一瞬で矯正策を並べ立てるその姿に、エルナは目を丸くする。
カイルはため息をつき、肩を落とした。
「ははは、、……やっぱりバケモン確定だな」
ミサトはそんなリュウコクらを見て、口元だけで笑った。
「リュウコクはほんと、どこにいても王様なんだね~」
「え?それって褒めてる?それとも皮肉?」
「あははっ!両方よ♪」
◇◇◇
その後、エルナの案内で広場に腰を下ろすと、リュウコクは真剣な顔で話し始めた。
「さてと、遊びはここまで。少し真面目な話しをしよう。……アルガスの動きが速い。交易を装って、南部の鉄鉱を押さえようとしてる。
さらに西のマルディアは軍備拡張に熱心だし、東の砂漠王国ザイールは徴兵して商路を狙ってる。
残る南の島嶼連邦はまだ様子見だが……いずれどこも、湯ノ花とラインハルトに目をつけるだろう。頭が変わったばかりの国は獲るのが簡単だからね…。一歩間違えれば戦争もあり得る…」
その言葉に、エルナとカイルは緊張した面持ちになる。
だがミサトは、、、
「へぇ……この世界って広いんだね☆後で旅行とか行けたら楽しそう♪」
目を輝かせ、素直にそう言った。
「つまり……アルガスが鉄鉱を押さえ、西のマルディアは軍備拡張。東のザイールは商路狙い、南の島嶼連邦は様子見ってことね…。間違えると戦争っと」
リュウコクの説明に、ミサトが小声でつぶやく。
「えっ、この感じなんかエモッ!世界地図のテスト前みたい……」
リリィがくすっと笑う。
『はい。ミサト。ご安心を。地理は私が常時アップデート済みです。ミサトは“世界は広い”と感動していれば十分です』
「あっ!ちょっと~!今バカにしたでしょ??私の役割それでいいの!?覚えないよっ!」
リュウコクはその横顔を見て、ふっと笑う。
「はははっ……君ってやつはどこまでも尊い…。 だから僕は、この世界を楽しくしたいんだ。断っても手伝って貰うからね☆ミサト女王!」
夕陽の差す広場で、女王と王が肩を並べ、同じ未来を夢見る。
湯ノ花の夜は、まだ始まったばかりだった。
続
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