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第21話 【交渉の果てに】
しおりを挟む潮風が荒々しく吹き抜け、アルガスの喧噪をさらに掻き立てていた。
剣戟と怒号の渦、その中心に立つのはミサト、リュウコク、マリー、そしてバレンティオ。
「……さて。勝者と敗者が揃ったな」
リュウコクが薄笑いを浮かべる。
「勝者?敗者??笑わせるな!」
バレンティオが顔を歪める。
「港を押さえたぐらいで調子に乗るなよ。俺の背後にはまだ無数の商人と傭兵たちが控えている。金をばらまけば、すぐにでも新たな軍勢が湧いて出る。お前らの勝利なんて、蜃気楼だ!」
その言葉に、周囲の傭兵がざわめいた。
確かに金で動く者は多い。だが、ミサトは涼しい顔で口を開く。
「でもさぁ、蜃気楼って、あったらいいなって思うから見えるんだよね…」
「……は?なに言ってんだ!」
「ほら、あなたのお金も一緒。人が欲しいと思うから価値が生まれる。でも今、ここに集まってるみんなはどう? 命を張ってまであんたの金を欲しいと思ってる?」
視線が自然と港の傭兵に集まる。彼らは目を逸らし、誰も声を上げなかった。
追い打ちをかけるようにリュウコクが言い放つ。
「ミサトの言う通りだよ。金で買えるのは忠誠ではなく、一瞬の幻だ。お前の“アルガス”は最早、絵に描いた餅と一緒だよ」
バレンティオは唇を吊り上げ、なおも虚勢を張った。
「ふ、ふははっ! いいか?俺を殺したら、このアルガスの帳簿も、商流の秘密もすべて闇に沈むぞ! お前らに大船団を動かす知恵も、商会達をまとめる技もあるまい!」
ミサトはきょとんと首をかしげる。
「へぇ~、じゃああなたは帳簿と一緒に人も国も抱えて死ぬの? 変な殉職だね。前の世界の社畜OL時代でもそんな上司見たことないよ。次の日音信不通で飛んじゃう人はいたけどね~!」
リュウコクは低く笑った。
「ふふっ、僕たちは既に自分たちの船を作り、人を集め、ここまでの道を切り開いた。帳簿一冊で揺らぐ程度なら、とっくにこの喧嘩負けてる。、、つまりお前は“自分がいないと何も回らない”と勘違いしている哀れな男だな」
その言葉に、バレンティオの顔色が変わる。港の空気が、完全に彼を孤立させていった。
バレンティオの顔が怒りに歪む。
「くそっ!口だけで勝った気になるな!!!」
反論を続けようとした瞬間、リュウコクが抜き放った剣の冷たい光が、バレンティオの首筋にぴたりと寄せられた。
「口だけ?? お前もう詰んでるよ、、?敗者に口無し」
リュウコクの声は低く、冷たかった。
「いいかい?成金? 歴史は常に勝者が描くものだ。敗者の言葉は、もはや物語の余白にすら残らない」
周囲の空気が張り詰め、誰もが息を呑む。
その時、ミサトが慌てて声を上げた。
「ちょっ!?ちょ、だ、だめっ! リュウコク、殺しちゃだめだよ!」
彼は眉をひそめた。
「んっ?しかし、今ここで片をつけなければ、またこいつは牙を剥くぞ……」
「うん。わかってる…でも、、それでもだよ」
ミサトの声が震える。
「今ここでこの人を殺しても……きっと、この人のことを好きな人がどこかにいる。その人は私たちを憎んで、また復讐に来る。そうなったら、ずっと繰り返しになっちゃう」
リュウコクは剣を揺らしながら視線を落とす。
「ふぅ~、、……なら、ミサトはどうしたい?」
問い詰められ、ミサトは一瞬迷った。だが、ふっと笑みを浮かべる。
「そ~だなぁ、、また一からやってもらうってのはどう??」
「一から……?」
「そう、一からこの国で働いてもらえばいい。上に立つと、部下の気持ちが分からなくなるってよく言うじゃない?」
その言葉に、リリィがすかさず茶々を入れる。
『はい。ミサト。完璧な社畜経験者ミサトならではの発想ですね。ブラック企業の経営者を再教育コースへ突っ込む感じです』
「こらっ!完璧な社畜経験者とか言うな!」
ミサトが半ばむくれた声を上げる。
「でもさ、ほんとそういうこと。いきなり偉そうに上からじゃなくて、地道にやり直せば少しは人の気持ちが分かるんじゃないかな?」
リュウコクはふっと剣を引いた。
「あははっ!なるほどね……ミサトらしい答えだ」
彼は少し微笑むと、しかし急に真剣な声で問いかける。
「だが、この国は誰が治める? 力が無ければこいつは抑えられないぞ。僕はラインハルトとの往来は嫌だ。……ミサトに会う時間が減るからね」
「いやっ!断る理由そこなんかい!! ん~?力があって、船が乗れて、アルガスに詳しい人ねぇ、、、」
その言葉に、場の空気が一瞬止まる。
そして、ゆっくりと、、全員の視線がマリーへと向いた。
「ふえっ……わ、私ぃぃぃ!?」
マリーが目を見開き、ぶんぶんと手を振る。
「いやいや!む、無理に決まってるでしょ! 国なんて動かしたことない! だいたい私、ただの船乗りで……!しかも海賊だし、、」
しかし誰も視線を逸らさない。ゴブ太郎ですら真剣な顔でうなずいている。
みんなを見回し観念したマリーは、大きなため息をついた。
「っくぁぁぁ~、、マジかよ……はぁ。わかったよ。やるよ。でもっ!で~もっ!これだけは約束して!」
マリーは振り返り、ミサトとリュウコクを交互に睨む。
「二人!!絶対にサポートしてよね! 私一人じゃ無理だから!」
ミサトは親指を立てて笑う。
「あははっ!うん。任せて! 一緒にやろう!」
リュウコクもミサトの肩にそっと手を回し静かにうなずく。
「うん。もちろん。マリーが背負うなら、僕ら“夫婦”も隣で支えよう!」
「ふ、夫婦!?!? 夫婦じゃなぁぁぁぁいっ!!あとしれっと肩に手ぇ回すなっ!このっ!このっ!お触り厳禁っ!!」
ミサトとリュウコクのやり取りで緊張の空気が和らいだ瞬間、ミサトがぽつりと呟いた。
「……結局さ、“人は城、人は石垣、人は堀”ってことだよね」
『はい。ミサト。武田信玄の言葉ですね。ですが彼も最終的には人間関係で苦労してます』
「ちょ、夢壊すなっ! せっかく人が絞り出した名言で締めたのに!」
『はい。ミサト。夢は壊れませんよ。現実が勝つだけです。朝鳴り響く目覚まし時計によって』
「うわぁぁ、、リリィって夢見ないんだぁ、、寝ないもんねぇ、、でもまぁ……現実でも夢でも、人が大事ってことだよね☆」
その瞬間、アルガス港に笑いと新しい風が吹いた。
血と怒号に満ちた戦場のはずなのに、潮風が少しだけ柔らかく感じられたのは、、きっと気のせいではなかった。
続
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