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第10話 【ラスボスは朝から太巻きを咥えている】
しおりを挟むボダレスの昼前は、思った以上に賑やかだった。
「うわぁ……見て見て!あの串焼きの匂い、、絶対うまいやつだよね!?」
『はい。ミサト。看板に謎肉の串焼きと書いてありますが…抵抗はありませんか??スキャンして何の肉か判別しますか?」
「えっ?んんんっ~。調べて食べれなかったら損するからとりあえず食う!!」
「あははっ!腹壊すで~。それにミサトはん、今食べたら昼入らへんで?」
「昼は昼、これは“ボダレス名物の事前調査”だから!ほら、ゴブちゃん達も食べる気満々!」
「ジロウ……あれ、クシニク……オイシソウ……」
ゴブ太郎が串焼きを指差し、よだれを飲み込む。
「……ニオイ、ヤバイ。コレ、ゼッタイ、ウマイ」
「おいっ!ダメだ兄貴。今は任務中だ!しっかりミサトとニアを守らないと」
ゴブ次郎は胸を張って言い切るが、視線はしっかり串に吸い寄せられている。
「ジロウ……目、ニク見テル……」
「見てない!!……ちょっと見てるだけだ!!てか、いつまで片言遊びすんだよっ!」
串焼きが焼ける音が、じゅうっと鳴る。
「ジロウ、、ヒトクチ……ヒトクチダケ……」
「だ、ダメだよ!ボスが“事前調査”って言ってるだろ!」
「じゃあ……オレ、調査、スル……!」
ゴブ太郎が一歩踏み出した瞬間、ゴブ次郎が慌てて襟を掴む。
「兄貴!待て!調査は……」
ごくり。
「……半分こしてくれる??」
二人は顔を見合わせ、同時に頷いた。
「アニキ、、ダイスキ」
「あははっ!次郎、うるさい!次はちゃんと自分の金で払えよ!」
青い布を揺らしながら、ミサトたちは街を食べ歩きしながらきゃっきゃと歩く。
露店から立ち上る香草と油の匂い。金属音。笑い声。怒鳴り声。
秩序と無秩序が、雑に混ぜられて煮込まれている。
「おいおい……お前ら、もう少し危機感持てよ」
ガイドの青年、スピードが額を押さえて吐き捨てる。
「観光地じゃねぇんだぞ、ここは」
「え~、だってさ、街って感じするじゃん?街って感じしたら観光するじゃん☆観光するってなったら食べ歩くじゃん☆」
「するけどな!するけど危ねぇんだよ!うろうろすんな!ぐるっと見て回ったらすぐ帰るからなっ!」
文句を言いながらも、スピードは先導をやめない。
ミサトはその背中を見ながら、視線だけは忙しく街をなぞっていた。
(通りの奥、倉庫多め……あっちは露店が多い。……あ、あの荷運び、同じ印の箱ばっかだな…。荷札が付いてないのもある…。それにしても怖そうな人ばっかりだなぁ……うわぁ…ゲーした!)
「ねぇ、ニア、あれ見て」
「ん?……あぁ、出所同じっぽそうやな。後で回って調べよかぁ」
口では軽口、頭は仕事。
ついでに、謎肉の串焼きを一口。
「うまぁ……!ボダレス、危険だけど味は優しい!」
その時だった。
ざわ、と。
街の空気が、一斉に揺れた。
「……?」
人の流れが変わる。
露店の呼び声が止み、視線が一方向に集まる。
さっきまで賑わっていた通りが一斉に誰も居なくなる。
、、青い塊が、ユラユラと陽炎の様に動いていた。
否。
人の群れだ。青い布を揃えて纏った、異様な密度の集団。
「……おい、、おい、、…」
スピードの声が、一段低くなる。
「嘘だろ……なんでこんな時間に……こんな場所に……」
群れの先頭。
裸に近い体に毛皮を羽織り、太巻きを咥え、煙を吐き出しながら三つ編みを両サイドに垂らす男がいた。
歩くたび、周囲の空気が押し退けられる。
誰も逆らわない。誰も近づかない。
ただ、その塊が動けば道が“空く”。
「……は、、はは…」
スピードが引きつった笑いを浮かべる。
「くそっ!最悪だ……ラスボスだ……」
「んっ?ラスボス?」
「冗談じゃねぇ……“チャムチャム”だ。何でこんな時間に……」
ミサトたちを庇うように、スピードが手を広げる。
「いいか!全員、端に寄れ!目合わせるな!笑うな!一言も発するな!出来るだけ息も吸うな!壁だけ見てろ!」
「え、ちょ、いきなり何、、無茶苦茶言うなしっ!」
だが、もう遅い。
すれ違う、その瞬間。
チャムチャムの視線が、ミサトを捉えた。
「……ん??」
太巻きを咥えたまま、口元が歪む。
「青か?見ねぇ顔だな。新入りか??」
チャムチャム視線が、ミサトの上から下まで滑る。
「ふふ……それにしても」
口笛。
「とんでもねぇ“ビッチ”だな!あははっ!お前らも見ろよ!たまんねぇぞ、あははっ!」
「……え?」
ミサトの思考が、一瞬止まる。そして脳内でリリィに話しかける。
(ビッチ……??馬鹿にされた??どう言う意味??リリィちゃん??)
『はい。ミサト。ビッチとは“性的にだらしない女性”を指す侮辱語です。簡単に言うとヤ○○ンです』
(は??侮辱??ヤ○○ン??何で??)
(はぁぁぁっ!なにそれ!?今、私馬鹿にされたの??一回見ただけで!?そんな意味だったの!?てかっ!ヤ○○ンじゃねぇーしっ!むっきゃぁぁぁぁ!!腹立つぅぅぅぅ!!殴ろうかな?うん。よし殴ろう!)
『はい。ミサト。ダメです。殴った場合のパーティー生存率は果てしなく低いです。それにあなたの露出率が原因です』
(露出率のせい!?じゃあこの街が悪いんじゃん!!着ろって言われて真面目にこの服着て、ビッチって言われて、じゃぁ!どうしろって言うんだよっ!)
『はい。ミサト。私に言われても困ります。受け入れましょう。ヤ○○ンミサト』
「ぷぅぅぎぃぃぃ!言ったなっ?言っちゃったな??そこは私の味方でしょ!?リリィ!!」
二人で脳内で口喧嘩をしている間に、チャムチャムはもう興味を失っていた。
「あ~、ビッチ見んのも飽きたな……。おい、ボルド、お前ら市場行くぞ」
「おう。昼飯前に片付けちまおうぜ」
さっきまでの下卑た笑いは消え、
一瞬で“仕事の顔”に戻る。
青い群れが、再び動き出す。
「……今のが……ラスボス……?」
ミサトが小さく呟く。
「おいっ!いつまでも見てんな!」
スピードが声を荒げる。
「命が惜しくねぇのか!」
「ねぇ……今、市場って言ったよね?」
「あぁ……言ったが…。市場はメキルが仕切ってるから黒い布に変えないと行けねぇぞ…。今回は青のエリアだけだ…」
「うん。わかった☆よしっ!追お」
「はぁ!?話し聞いてんのか!?ダメだって言ってんだろ!」
チャムチャムに向かって進むミサトにスピードが立ち塞がる。
「ふざけんな!!死ぬぞ!!」
「大丈夫大丈夫、ほら、青だし」
「そういう問題じゃねぇ!!市場は黒だって言ってんだろ!お前ら“観光目的”じゃねぇなっ!? それに追うって……あれが誰か分かって言ってんのか!? “触るな危険、お子様には勧められん有害人物”だぞっ!」
「あははっ!面白い事言うね~☆分かってるよ。でもさ……」
ミサトは街の奥、倉庫が並ぶ通りを指差した。
「さっき見たでしょ。市場から出てくる箱、同じ印ばっか。しかも荷札が曖昧」
「……確かに、普通の流通じゃねぇな…。でもそれがボダレスだからな…。何の不思議もねぇよ」
「ニア、あの印」
「あぁ、見た事ないな、、船卸しじゃない。陸経由やな。国境の印もなかったしな、、しかも量が多すぎるっちゅう話しや!個人じゃ無理やで!」
ミサトは口元に指を当てる。
「誰の物でもない顔して、誰かの腹と財布を満たしてる荷物……一番危ないやつ」
『はい。ミサト。不明瞭な所有権は争いの温床です』
「でしょ?なら、今の“青の塊”が動く理由と繋がる」
「ちょっ、ちょっと……待て。つまりお前、あれが原因だって言いたいのか?」
ミサトは笑った。
「うん。たぶん“もう始まってる”。これを見に行かない理由、ある??それに今なら青に紛れて市場に侵入出来る!」
スピードは舌打ちし、手で金のハンドサインをする。
「……ちくしょう。命、安くねぇぞ。チャムチャムに着いて行くなら、、倍、、いやっ!3倍貰うぞ!」
ミサトは、にっこり笑って袋を開けた。
金貨が、陽を反射する。
ミサトはスピードの顔を両手で掴み、胸の谷間を寄せて「あらっ?坊や……これで、足りるかしら~ぁん?」
「「「『うわぁ……ビッチやん』」」」
リリィ達は声を揃えて言った。
「……っ、くそっ!!」
スピードが歯噛みする。
「成金ビッチめっ!……いいか!危なくなったら俺は逃げるからな!!あと俺に色仕掛けしたってダメだからな!嫁と生まれて来る子供がいるんだからよっ!」
「あははっ!顔真っ赤☆それでいいよ~♪」
『はい。ミサト。あなたも慣れない事するから顔が真っ赤ですよ』
「リリィっ!うるせぇっ!!ビッチって言われたからそれっぽくしてみただけだよっ!」
その横で、ニアが肩を揺らして笑った。
「そやっ!逃げる言うたらなぁ……昔、俺のツレになおもろい奴がおってぇ!ほいで~、そいつが獣から逃げる話がめっちゃうけんねん!ほんでぇ~……」
「ニア!今する話じゃない!!」
「いや、待てって!ちょうどええ話やって!聞いてぇやっ!」
笑い声が、街に溶ける。
その先にあるのは、賑わう市場か。
それとも、、叫び声が聞こえる戦場か。
ボダレスは、今日も忙しい。
続
後書き
ここまで読んで頂きありがとうございます。
この話で今年最後の投稿になると思います。
来年も書いていきますのでどうぞよろしくお願いします。それではみなさん良いお年を☆
10
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