【三章完結しました】チートは無いけどAIがある!社畜OLの異世界立身出世録

星 見人

文字の大きさ
179 / 179

第23話 【我慢できない王と、戻ってきた女王】

しおりを挟む

 馬の蹄が、大地を叩く。
 乾いた音が連なり、風を切り、道を裂いていく。

「はぁ~……馬ってさ、もっとこう……通勤用に進化できなかったのかなぁ~?」
『はい。ミサト。それは人間のエゴですね』
「なぁ、ミサト、、あんた戦場に向かってる自覚あるんか?」
「あるある!だから言ってんの!パカラ!パカラ!って戦場着く前に腰が死ぬぅぅぅ!!」

 ミサトは手綱を握ったまま、半泣きで叫んだ。

「ねぇリリィ~!異世界来てまで満員電車再現しなくてよくない!?」
『はい。ミサト。これは満員ではなく“揺れ”です』
「うるさいなぁ!社畜は揺れにもトラウマあるの!!」

 その横で、ゴブ太郎が“ブゥゥゥ”と小さく音を立てた。

「えっ?……今の何?え?風??」
「ボス。風にしては生温かくなかった?」
「お前さん……またほぉりこんだな!!」
「ごめん…オレだ…」
『はい。記録します。“ゴブ太郎緊張によるガス排出”』
「こら!リリィ。オナラをいちいち記録すんな!!」

 ニアが前を見たまま、ぽつりと言う。
「……なぁ。ミサト」
「ん~?」
「もしかして、ゴブ太郎緊張してんのか??」

 ミサトは一瞬だけ黙り、それから笑った。
「さぁね?でもまあ……」
 手綱を軽く引く。
「行かなきゃ始まらないでしょ」

◇◇◇

 その頃、、
 ラインハルト領外れの高台。

 風を受けながら、戦場では無い所を見下ろす男がいた。
「まだかなぁ……、、、おっ!来た☆」
 リュウコクは、はっきりとそれを認識した。

 馬影。数騎。
 だが、その中心にいる一人を、彼は見誤らない。

「……っ…はぁぁぁ……」
 胸の奥が、ぎゅっと締めつけられる。

「……ごめん!ザハラ!」
「は?」
 隣で釈迦寝していたザハラが振り向いた瞬間だった。

「ごめん!僕……やっぱり我慢できないや!!会いに行って来る!」
「何っ!?貴様馬鹿かっ!!」
 怒鳴り声が響くより早く、リュウコクは馬に飛び乗っていた。

「誰かに気付かれたらどうする!?我々は偽装撤退中だぞ!!」
「あははっ!☆大丈夫大丈夫!たぶん見られても怒られないから!」
「怒られるとか怒られないとか!そういう問題じゃないっ!!」

 だが、もう遅い。
 リュウコクは高台を駆け下り、一直線に走り出していた。

◇◇◇

「んっ……何か来る…」
 最初に気付いたのは、ニアだった。

「前方!単騎!!突っ込んで来よるぞ!!」
「敵か!?」
「えぇぇぇ!!待って待って!一人!?頭おかしくない!?誰?誰なの??」

 ミサトが前を見た、その瞬間、、

「ちょっ!!うわっ!?」

 リュウコクは、すっと体勢を低くし、ニアやゴブリンたちの間をすり抜ける。
 剣も、槍も、触れさせない。

「え、何!?速っ!!」
「おいっ!!止め、、」

 次の瞬間。
 ミサトの視界が、ふいに暗くなった。

「……っ」

 抱きしめられ、ミサトが馬から転げ落ちる。
 だがどこも痛くなく、そして強く、、迷いなく。

 ミサトは一瞬驚き、それから、、
 嗅いだことのある匂いに深く、息を吸った。

「……この匂い」
 視線を上げる前に、その者に腕を回す。

「ばぁぁぁかぁぁぁ!!」
 ぎゅっと抱き返し、叫んだ。

「心配したんだから!!大丈夫なの??怪我してない?」
「あははっ!うん!ごめん!ミサトも大丈夫?でも会えてよかった!!」

 リュウコクは、ミサトの頬に、遠慮なくキスを落とす。
「ちょっ!!いきなりほっぺにキスすんな~っ!汚いから!ちゃんとお風呂入ってないから!!」
「大丈夫!いつものいい匂いだよっ!本物のミサトだっ!!生きてる!」
「ぬぉぉぉっ!!私の生存確認方法が雑すぎるって!!あんたさぁ!脳みそから伝達受ける前に行動してんだろっ!!」

「うん!!」

「いやいや!胸張って言うなし!あんた本当、後でちゃ~んとお説教だからね!ちゃ~んと説明しなさいよっ!!」
「あははっ!勿論。ミサトが眠くなるまで子守唄の様に聞かせてあげる☆」
「だ~か~ら~!チュ~すんなって!あははっ!」
 
 周囲が二人のやり取りに完全に固まる中、リュウコクはようやく深呼吸し、名残惜しそうに腕を離した。

「ミサト。来てくれて……ありがとう」
「なにそれ?来るの知ってたでしょ??」
「うん。……ミサト。全部、終わりにしよう☆」
 
 リュウコクはミサトを真っ直ぐに見つめる。

「そして、始めよう…☆」
「……うん」
 その時のリュウコクの笑顔は寂しそうな、切ない様な顔だった。

 そう言って、彼は踵を返し、名残り惜しそうに高台へ戻っていった。

◇◇◇

 戦場の平原には、すでに血と土の匂いが満ちていた。
 ラインハルト前国王は、古びた鎧のまま最前線に立っていた。

「押し返せっ!!ラインハルト王国に一歩も踏み入れさせるな!!」

 剣を振るう腕は重く、息は荒い。それでも一歩も下がらない。
 若き兵が倒れそうになるたび、王はその前に立ち、盾となった。

「ありがとうございます!王が前にいる限り、我らは崩れぬ!」
「お前達!!もう少しだ…もう少しだけ踏ん張れ!!」
 その叫びが響いた瞬間、、

 地鳴りが来た。

「待たせたなぁ!!ラインハルト前王よっ!!」
 怒涛の勢いで突っ込んできたのは、カリオスの騎兵隊だった。
 敵陣を横から割り、叩き、蹴散らす。

「待たせた分は、倍返しだ!!」

 反対側から、ラキムのザイール兵が楔のように突入する。
 戦線は、一気に押し返された。

 前国王は、血に濡れた剣を握り直し、空を仰ぐ。

「ふぅ……やっと来たか…。よしっ!陣を立て直し本陣に戻る準備だっ!」
 その声には、安堵と誇りが滲んでいた。

◇◇◇
 
 血煙の向こう、マルディア軍本陣。
 ヴラド・ノクティアルは、戦場を見渡しながら不敵に笑っていた。

「ギュッギュッ~!いいねぇ……もっと血を流せ……」
 指先で空をなぞるように、くつくつと喉を鳴らす。

「流せば流すほど……それがお前達自身の首を絞める。あははっ!! 戦ってるつもりで、もう詰んでるのにさぁ!!おいっ!!家畜!今日も“昨日の女用意しておけよ”!腹が減ってしかたねぇからなっ!ギュ~ッギュッ!」

 狂喜の笑いが、夜気を裂いた。

 その背後で、地図を握り締めていた男が、歯を食いしばる。
 マルディア軍、軍師ガロア。

「……狂ってる…」

 誰にも聞こえぬほど小さく呟く。
 数字も陣形も、すべては読めている。
 だが、この男の“嗜好”だけは、理屈を超えていた。

(血を……戦を……命を……遊びにしている……)

 ガロアは、次に起こる戦場の未来に寒気を覚えた。

◇◇◇
 
 その頃、ミサト達はラインハルト王国に到着した。
 王国には、すでに“役者”が揃っていた。

「よぉ!久しぶりだなミサト!!」
「あれっ!?マリー!……もう来てたんだ?」
「当たり前だろ!」

 その背後には、バレンティオとフィオナ。そしてアルガスの傭兵。
 さらに、、森の気配をまとった、エルフの部隊。

「ふふ。間に合いましたね」
 女王アエリアが、優雅に一礼する。

「えっ?アエリアさんまで??リュシアも……あぁ。助かります。でも…何でみんなこんな早いの??」
 慌ててミサトもみんなに頭を下げながら聞く。

◇◇◇
 
 そして少しだけ、時間を戻す。

 ➖➖湯ノ花➖➖
 伝達係がエルナに詳細を話す。
 エルナはニッコリ笑い、
「ありがとうございます。みんな首をながぁぁぁくしてこれを待ってたんです。で、、何で貴方はパンイチ??」
「……深くは聞かないでください」
 伝達係は下を向いた。

「皆さ~ん!やっと届きましたよ~!!」
 エルナが、やけに楽しそうに声を張り上げた。

「おっ!?来たか?あはは!読むまでもねぇな!」
 マリーが笑う。
「おいっ!行くぞ!ラインハルトだ!!」

「ふふ……届きましたか…では、参りましょう」
 アエリアが軍を進める。

「ゴブちゃん達!里のみんな!準備いい!?」
 エルナが手を振る。
「さぁ行こう!私達の女王のところへ!!」

◇◇◇

 ➖➖そして現在➖➖

「みんな集まってるぜ!」
 マリーが叫ぶ。
「さぁミサト!!号令をくれ!!」

 ミサトは、一歩前に出た。
 深呼吸を一つ。

 そして、、笑う。

「全軍!」
 ミサト声が、ラインハルトに響く。
「平原に向け、、出発っっっ!!」

『はい。ミサト。完全に女王ムーブです』
「うるさい!今いいとこ!!」
『はい。記録します。タイトルは“ミサトご満悦顔”』
「ぷぅぎぃぃぃ!!リリィ!消しなさい!!」

 笑いが起きる。
 だが、誰も迷ってはいない。

 戦は、ここからだ。


          続
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

Taka多可 (お米)

お箸を使う異世界なんですね。パン食なのに。

2026.01.07 星 見人


読んで頂きありがとうございます。
そう言われてみるとパンを箸って変でしたね…。箸が使えなくて骨が折れるが書きたくて細かく書いてなかったです。
教えて頂きありがとうございます。

解除

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

異世界にアバターで転移?させられましたが私は異世界を満喫します

そう
ファンタジー
ナノハは気がつくとファーナシスタというゲームのアバターで森の中にいた。 そこからナノハの自由気ままな冒険が始まる。

落ちこぼれ職人、万能スキルでギルド最強になります!

たまごころ
ファンタジー
ギルド最弱の鍛冶師レオンは、仲間に「役立たず」と笑われて追放された。 途方に暮れる彼の前に現れたのは、伝説の鍛冶書と、しゃべる鉄塊(?)。 鍛冶・錬金・料理・魔道具――あらゆるクラフトスキルを吸収する《創精鍛造》を極め、万能職人へと覚醒! 素材採取から戦闘まで、すべて自作で挑む“ものづくり異世界成り上がり譚”が今、始まる。 裏切った元仲間? 今さら後悔しても遅いぞ!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

神様転生~うどんを食べてスローライフをしつつ、領地を豊かにしようとする話、の筈だったのですけれど~

於田縫紀
ファンタジー
大西彩花(香川県出身、享年29歳、独身)は転生直後、維持神を名乗る存在から、いきなり土地神を命じられた。目の前は砂浜と海。反対側は枯れたような色の草原と、所々にぽつんと高い山、そしてずっと向こうにも山。神の権能『全知』によると、この地を豊かにして人や動物を呼び込まなければ、私という土地神は消えてしまうらしい。  現状は乾燥の為、樹木も生えない状態で、あるのは草原と小動物位。私の土地神としての挑戦が、今始まる!  の前に、まずは衣食住を何とかしないと。衣はどうにでもなるらしいから、まずは食、次に住を。食べ物と言うと、やっぱり元うどん県人としては…… (カクヨムと小説家になろうにも、投稿しています) (イラストにあるピンクの化物? が何かは、お話が進めば、そのうち……)

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

現世にダンジョンができたので冒険者になった。

盾乃あに
ファンタジー
忠野健人は帰り道に狼を倒してしまう。『レベルアップ』なにそれ?そして周りはモンスターだらけでなんとか倒して行く。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。