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第23話 【我慢できない王と、戻ってきた女王】
しおりを挟む馬の蹄が、大地を叩く。
乾いた音が連なり、風を切り、道を裂いていく。
「はぁ~……馬ってさ、もっとこう……通勤用に進化できなかったのかなぁ~?」
『はい。ミサト。それは人間のエゴですね』
「なぁ、ミサト、、あんた戦場に向かってる自覚あるんか?」
「あるある!だから言ってんの!パカラ!パカラ!って戦場着く前に腰が死ぬぅぅぅ!!」
ミサトは手綱を握ったまま、半泣きで叫んだ。
「ねぇリリィ~!異世界来てまで満員電車再現しなくてよくない!?」
『はい。ミサト。これは満員ではなく“揺れ”です』
「うるさいなぁ!社畜は揺れにもトラウマあるの!!」
その横で、ゴブ太郎が“ブゥゥゥ”と小さく音を立てた。
「えっ?……今の何?え?風??」
「ボス。風にしては生温かくなかった?」
「お前さん……またほぉりこんだな!!」
「ごめん…オレだ…」
『はい。記録します。“ゴブ太郎緊張によるガス排出”』
「こら!リリィ。オナラをいちいち記録すんな!!」
ニアが前を見たまま、ぽつりと言う。
「……なぁ。ミサト」
「ん~?」
「もしかして、ゴブ太郎緊張してんのか??」
ミサトは一瞬だけ黙り、それから笑った。
「さぁね?でもまあ……」
手綱を軽く引く。
「行かなきゃ始まらないでしょ」
◇◇◇
その頃、、
ラインハルト領外れの高台。
風を受けながら、戦場では無い所を見下ろす男がいた。
「まだかなぁ……、、、おっ!来た☆」
リュウコクは、はっきりとそれを認識した。
馬影。数騎。
だが、その中心にいる一人を、彼は見誤らない。
「……っ…はぁぁぁ……」
胸の奥が、ぎゅっと締めつけられる。
「……ごめん!ザハラ!」
「は?」
隣で釈迦寝していたザハラが振り向いた瞬間だった。
「ごめん!僕……やっぱり我慢できないや!!会いに行って来る!」
「何っ!?貴様馬鹿かっ!!」
怒鳴り声が響くより早く、リュウコクは馬に飛び乗っていた。
「誰かに気付かれたらどうする!?我々は偽装撤退中だぞ!!」
「あははっ!☆大丈夫大丈夫!たぶん見られても怒られないから!」
「怒られるとか怒られないとか!そういう問題じゃないっ!!」
だが、もう遅い。
リュウコクは高台を駆け下り、一直線に走り出していた。
◇◇◇
「んっ……何か来る…」
最初に気付いたのは、ニアだった。
「前方!単騎!!突っ込んで来よるぞ!!」
「敵か!?」
「えぇぇぇ!!待って待って!一人!?頭おかしくない!?誰?誰なの??」
ミサトが前を見た、その瞬間、、
「ちょっ!!うわっ!?」
リュウコクは、すっと体勢を低くし、ニアやゴブリンたちの間をすり抜ける。
剣も、槍も、触れさせない。
「え、何!?速っ!!」
「おいっ!!止め、、」
次の瞬間。
ミサトの視界が、ふいに暗くなった。
「……っ」
抱きしめられ、ミサトが馬から転げ落ちる。
だがどこも痛くなく、そして強く、、迷いなく。
ミサトは一瞬驚き、それから、、
嗅いだことのある匂いに深く、息を吸った。
「……この匂い」
視線を上げる前に、その者に腕を回す。
「ばぁぁぁかぁぁぁ!!」
ぎゅっと抱き返し、叫んだ。
「心配したんだから!!大丈夫なの??怪我してない?」
「あははっ!うん!ごめん!ミサトも大丈夫?でも会えてよかった!!」
リュウコクは、ミサトの頬に、遠慮なくキスを落とす。
「ちょっ!!いきなりほっぺにキスすんな~っ!汚いから!ちゃんとお風呂入ってないから!!」
「大丈夫!いつものいい匂いだよっ!本物のミサトだっ!!生きてる!」
「ぬぉぉぉっ!!私の生存確認方法が雑すぎるって!!あんたさぁ!脳みそから伝達受ける前に行動してんだろっ!!」
「うん!!」
「いやいや!胸張って言うなし!あんた本当、後でちゃ~んとお説教だからね!ちゃ~んと説明しなさいよっ!!」
「あははっ!勿論。ミサトが眠くなるまで子守唄の様に聞かせてあげる☆」
「だ~か~ら~!チュ~すんなって!あははっ!」
周囲が二人のやり取りに完全に固まる中、リュウコクはようやく深呼吸し、名残惜しそうに腕を離した。
「ミサト。来てくれて……ありがとう」
「なにそれ?来るの知ってたでしょ??」
「うん。……ミサト。全部、終わりにしよう☆」
リュウコクはミサトを真っ直ぐに見つめる。
「そして、始めよう…☆」
「……うん」
その時のリュウコクの笑顔は寂しそうな、切ない様な顔だった。
そう言って、彼は踵を返し、名残り惜しそうに高台へ戻っていった。
◇◇◇
戦場の平原には、すでに血と土の匂いが満ちていた。
ラインハルト前国王は、古びた鎧のまま最前線に立っていた。
「押し返せっ!!ラインハルト王国に一歩も踏み入れさせるな!!」
剣を振るう腕は重く、息は荒い。それでも一歩も下がらない。
若き兵が倒れそうになるたび、王はその前に立ち、盾となった。
「ありがとうございます!王が前にいる限り、我らは崩れぬ!」
「お前達!!もう少しだ…もう少しだけ踏ん張れ!!」
その叫びが響いた瞬間、、
地鳴りが来た。
「待たせたなぁ!!ラインハルト前王よっ!!」
怒涛の勢いで突っ込んできたのは、カリオスの騎兵隊だった。
敵陣を横から割り、叩き、蹴散らす。
「待たせた分は、倍返しだ!!」
反対側から、ラキムのザイール兵が楔のように突入する。
戦線は、一気に押し返された。
前国王は、血に濡れた剣を握り直し、空を仰ぐ。
「ふぅ……やっと来たか…。よしっ!陣を立て直し本陣に戻る準備だっ!」
その声には、安堵と誇りが滲んでいた。
◇◇◇
血煙の向こう、マルディア軍本陣。
ヴラド・ノクティアルは、戦場を見渡しながら不敵に笑っていた。
「ギュッギュッ~!いいねぇ……もっと血を流せ……」
指先で空をなぞるように、くつくつと喉を鳴らす。
「流せば流すほど……それがお前達自身の首を絞める。あははっ!! 戦ってるつもりで、もう詰んでるのにさぁ!!おいっ!!家畜!今日も“昨日の女用意しておけよ”!腹が減ってしかたねぇからなっ!ギュ~ッギュッ!」
狂喜の笑いが、夜気を裂いた。
その背後で、地図を握り締めていた男が、歯を食いしばる。
マルディア軍、軍師ガロア。
「……狂ってる…」
誰にも聞こえぬほど小さく呟く。
数字も陣形も、すべては読めている。
だが、この男の“嗜好”だけは、理屈を超えていた。
(血を……戦を……命を……遊びにしている……)
ガロアは、次に起こる戦場の未来に寒気を覚えた。
◇◇◇
その頃、ミサト達はラインハルト王国に到着した。
王国には、すでに“役者”が揃っていた。
「よぉ!久しぶりだなミサト!!」
「あれっ!?マリー!……もう来てたんだ?」
「当たり前だろ!」
その背後には、バレンティオとフィオナ。そしてアルガスの傭兵。
さらに、、森の気配をまとった、エルフの部隊。
「ふふ。間に合いましたね」
女王アエリアが、優雅に一礼する。
「えっ?アエリアさんまで??リュシアも……あぁ。助かります。でも…何でみんなこんな早いの??」
慌ててミサトもみんなに頭を下げながら聞く。
◇◇◇
そして少しだけ、時間を戻す。
➖➖湯ノ花➖➖
伝達係がエルナに詳細を話す。
エルナはニッコリ笑い、
「ありがとうございます。みんな首をながぁぁぁくしてこれを待ってたんです。で、、何で貴方はパンイチ??」
「……深くは聞かないでください」
伝達係は下を向いた。
「皆さ~ん!やっと届きましたよ~!!」
エルナが、やけに楽しそうに声を張り上げた。
「おっ!?来たか?あはは!読むまでもねぇな!」
マリーが笑う。
「おいっ!行くぞ!ラインハルトだ!!」
「ふふ……届きましたか…では、参りましょう」
アエリアが軍を進める。
「ゴブちゃん達!里のみんな!準備いい!?」
エルナが手を振る。
「さぁ行こう!私達の女王のところへ!!」
◇◇◇
➖➖そして現在➖➖
「みんな集まってるぜ!」
マリーが叫ぶ。
「さぁミサト!!号令をくれ!!」
ミサトは、一歩前に出た。
深呼吸を一つ。
そして、、笑う。
「全軍!」
ミサト声が、ラインハルトに響く。
「平原に向け、、出発っっっ!!」
『はい。ミサト。完全に女王ムーブです』
「うるさい!今いいとこ!!」
『はい。記録します。タイトルは“ミサトご満悦顔”』
「ぷぅぎぃぃぃ!!リリィ!消しなさい!!」
笑いが起きる。
だが、誰も迷ってはいない。
戦は、ここからだ。
続
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