【三章完結しました】チートは無いけどAIがある!社畜OLの異世界立身出世録

星 見人

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第22話 【役者が揃って風雲急】

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 ボダレスの朝は、今日も最悪だ。

 頭が痛い。喉が渇く。記憶がところどころ飛んでいる。
 昨夜の宴会の残骸、、割れた皿、倒れた椅子、誰のものか分からない靴、、パンツ、、が広場のあちこちに転がり、潮風と酒の匂いが混じり合っていた。

「……うぇ……世界が回ってる……。朝日が眩ひぃぃぃ……」
「それ二日酔いじゃなくて、ミサトの人生がか?」
「ははは、ニア…あんたも湯ノ花来たからには、人生がぐるぐる回りだすわよ…」
 ミサト達はふらつきながら身支度を整え、仲間たちを見回す。
 ニアは頭を抱え、ゴブリンたちは地面に転がり、誰一人として“戦争に行く顔”をしていない。

『はい。ミサト。これはこれで平和な光景ですね』
「うん。嫌いじゃないんだけどね~。あぁぁぁ、、飲み過ぎた…」

 出発前、街のみんなに挨拶を済ませて、最後チャムチャムの家に立ち寄る。
 家の奥から出てきたチャムチャムママは、いつものように腕を組み、わざとらしく鼻を鳴らした。

「あらあら、ミサト!まったく……騒がしいと思ったら、もう行くのかい?」
「うん。ちょっと野暮用でね!全部片付いたらここも綺麗にしに来るから☆」

 チャムチャムママは一瞬だけ視線を逸らし、それからミサトをぐっと抱きしめた。
「いつでも帰ってきな。ここはアンタの街だよ」
「いやいや、、滅相もございません…ここを背負うのは私には荷が重すぎます~」
 
 その横でチャムチャムが肩をすくめる。
「よぉ♪ビッチ!行くのか??早く行かねぇと全部終わってるかもな~!」
「えっ?大丈夫だよ!まだ始まったばっかりだから……あっ!そうだ。ねぇチャムチャム、、」
「あっ!?つまんねぇ事言いそうな顔だな??聞かねぇよ!早く行け!!俺は忙しいんだ!!あははっ!」
 ミサトの言葉を遮る様に喋り出し、チャムチャムは外に出て行った。

 冗談めいた口調の奥に、本気が混じっている。
 ミサトは笑って手を振った。

◇◇◇
 
 、、出発直前、忘れ物確認をしているとミサトは気づく。
「……あれ?チャムチャム帰って来てない??」

 チャムチャムを探してみると、港の防波堤の先にいた。チャムチャムはボルドと並び、釣竿を垂らしていた。

 海は静かだった。
 まるで、これから何も起きないかのように。

「あっ!居た。……こんな時に釣り?忙しいんじゃなかったの??」
「シャラップ!!はは!どう見ても忙しいだろ??こんな時だから釣りなんだよ!今日食う飯が無くなる!!」

 ミサトは隣に立つ。
「あはは、ねぇ……たぶん、ここが一番激戦区になるかも」
 チャムチャムは、視線を海に向けたまま、小さく。
「……わかってる」

「島嶼連合、ここを獲りに来るはず」
「……わかってる」

 それ以上、言葉はいらなかった。

 ミサトは一歩下がり、深く頭を下げる。
「……じゃあ、私行くね。“ここ、お願いします”」

 チャムチャムは慌てたように手を振った。
「やめろやめろ!頭下げんな!らしくねぇだろ!」

 振り返ると、ボルドがにっと笑っている。
「気ぃつけてな!死ぬなよ!あと…似合ってるぜぇ~その服!」

「うん。ありがとう。そっちもね☆チャムチャムお願い☆」
 そう言われるとボルドはミサトにウィンクした
 そしてミサトたちはボダレスを後にする。

◇◇◇
 
 しばらくして、、

「……行ったな」
「あぁ、、行ったな」
「嵐みたいな女だな…」
「あぁ……」
 ボルドがチャムチャムを横目で見る。
「んっ?お前……寂しいんか??」
「あぁん!?寂しくねぇわ!」

「えっ??あれ?お前……泣いてね??」
「ファァァックッ!泣いてねぇよ!!潮風だ!!」

 ボルドは笑わなかった。
 チャムチャムも、釣竿を握る手に、少しだけ力が入っていた。
「なぁ?ボルド……」
「あ?どうした?」
「いや、もし、今回生き残れたら…ミサトの言ってた温泉に入ってみてぇな……一緒に行こうな…」
「あははっ!!やめとけやめとけ!明日を語る奴ほど死亡フラグが立つんだよ!お前!今ビンビンにおったちまってるぞ??あははっ!でもよ…生きてたら入りに行こうな☆」
「あぁ!……ここは、、渡さねぇぞ!」
「あぁ!もちろんだ!」
 その瞬間、釣り竿の浮が海面に小さく波紋を落とした。
 騒動は、港から始まる。

◇◇◇

 ➖➖一方、アルガス➖➖

 アルガスの港に届いた知らせは、十分すぎるほどだった。
【ラインハルト王国、西、マルディアからの侵攻を受ける】

 マリーは報告書を叩きつける。
「おいっ!バレンティオ!!……これ知ってたのか?」
「んっ??あぁ。知ってたよ」

 問い詰めるマリーに、バレンティオは腕を組む。
「だってよ~、、それ言ったらお前、楽しそうだからって行くだろ??」
「はぁ?行くけど??何か悪いか??」

「あのなぁ、、お前はこの国の王だぞ!楽しそうで国を空けるな!お前が国を開ければ当然狙う奴も居れば、書類だって貯まる。王様ってのは遊びじゃ務まんねぇんだよ!」

 マリーは一歩も引かない。
「ほぉぉ?そう来たか!じゃあお前に聞く。もし、今回の事でミサトから号令が来たら?」
 バレンティオは、少しだけ黙ってから。
「……なら、助けに行くしかないだろ」

 マリーは大笑いした。
「でしょ!だったら最初からそのつもりでいこう!“ラインハルト侵攻”なんて聞いたらミサトが黙ってる訳無い!必ずあたし達に“助けて~”の声が届く!だからもう湯ノ花に行こう!」

 振り返り、叫ぶ。
「よしっ!腕の立つ奴用意しろ!今からアルガスは湯ノ花の里へ向かう!!」

「はぁぁ、、やっぱり行くのか…。んで何人欲しいんだよ?」
「おっ?やる気になったな?!……急だからなぁ~……五百も集まれば御の字か?」

 バレンティオは腹を抱えて笑った。
「五百??そんだけ??何だよ…千集めちまったよ!」
 マリーは不敵に笑う。
「あははっ!何だよ!お前もやっぱりやる気満々じゃねぇか!上出来!!」

 その横で、妹のフィオナが呆れた顔をする。
「マリー姉、バレチン…なんだかんだでいいコンビなんだから、、またアルガスが空っぽになるわね」
「あはは!大丈夫大丈夫!ちゃんと帰ってくるから!その時アルガスが奪われてたらめっちゃボコすから!!あははっ!」

 嘘じゃない。ミサトを信じている顔だった。

 港が、動き出す。
 世界が、連動する。

◇◇◇
 
 ➖➖湯ノ花の奥➖➖
 
 人の足がほとんど踏み入れぬ、森羅万象の森。
 エルフの女王アエリアは、長い沈黙を破るように玉座から立ち上がった。

「……どうやら、“西の化け物”が動き出しましたね…」

 傍らで、娘のリュシアが瞬く。
「えっ?お母様? まだ何の知らせも…」

「ふふ、ええ。だからこそ、です」
 アエリアは森の奥、、見えぬ戦場を見据え、微かに口角を上げた。

「均衡が崩れました。なら“東の私達”も、動かねばならないでしょう」

 指をパチンと鳴らす。

「部隊を組みなさい。弓兵、槍兵、私たちエルフは湯ノ花と共に動きます」

 静かな森に、確かな意思が走った。
 素早く部隊が組まれて行く。
 エルフは、戦争を恐れない。
 彼らはただ、“遅れない”。

◇◇◇

 ➖➖ザイール王国➖➖
 
 玉座の間に、静かな緊張が満ちていた。

「カイル様!カイル様ぁぁ、、……リュウコク王、ザハラ女王。敗走の知らせが今伝令係からっ!!」

 報告が終わると、誰も言葉を発しなかった。

 カイルは静かに地図を広げ、指先で西をなぞる。
 ラインハルト、マルディア、そして、、ボダレス。
 カイルは静かに考える。

(まいったなぁ、、毎日風呂入って、果物食ってりゃ王様業が終わると思ってたのに…。敗走??まさか??あの王子と女王が…無い無い!ただでやられるなんてのはまず無い!てことは……何かの作戦だな…。どう動く??考えろ!!戦争も商売も一緒だ!相手が嫌がる事をしてやるんだ!)

「よし……ここだな」
 ボダレスを指差す。呟きは、小さく、だが迷いがない。

 西に援軍を出すこともできる。
 だが、それは“今”ではない。

「ボダレスが落ちれば、海が開く。島嶼連合が大陸に入りやすくなる!たとえ西の侵攻を防げてもここが獲られたら挟み撃ちだ…」

 カイルは顔を上げた。

「なら、ザイールはここを守る。女王の留守を預かる者として」

 命令は短かった。
「ザイール港からボダレスの街に船を出してくれ!それから陸地からボダレスに軍を出してくれ!戦力の温存は考えなくていい…ここは、、ボダレスの地は踏ませない」
「いや、、カイル様……それではもし湯ノ花やラインハルトが好機とばかりにこの地を奪いに来、、」
「あはは!はっきり言えるよ……それは無い!!今すぐ用意してくれ!俺も出る」
 

 ザハラが不在でも、ザイールは揺るがなかった。
 そして全て巡る戦場は、すぐそこまで来ていた。


          続


            
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