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第21話 【女帝王覚醒??】
しおりを挟むボダレスの街は、相変わらず品がない。
怒鳴り声、笑い声、何かが壊れる音。
昨日と同じ騒音が、今日もちゃんと世界が回っていることを教えてくれる。
港が見渡せる、近くの広場。
昼寝から目覚めたミサトはロッキンチェアーに腰掛け、大股を広げ、足をぶらぶらさせながらコーヒーを啜っていた。
「はぁ……よく寝た……。うん。平和。戦争前夜とか言われてた割に、三日経ってもこの有様よ。世界って意外と適当よね~」
『はい。ミサト。油断は禁物です』
「分かってるって。でもさ、ずっと気張ってたら社畜は死ぬの。休憩は義務。ゴブちゃんもニアも見てみなさい。昼休み過ぎた14時みたいな顔で寝てるわよ!あははっ!」
そのときだった。
遠くから、やたらと騒がしい声が近づいてくる。
「おい!そこ通せ! ミサト! ミサト呼んでこい!」
「知らねぇよ! 勝手に入るな!」
「だから伝令だって言ってるだろうが!!○すぞ!」
ミサトは眉を上げる。
「んっ?……また厄介事?」
そこへ、騒いでる人を掻き分け、チャムチャムが煙を吐きながらやって来た。
「よぉ~♪ビッチ!軍が動き出したぞ。こっちに向かってじゃねぇ……国に帰って行きやがる!あとそれによ入口で騒いでる奴がいる。ん~、、俺が言うのも何だけどよ、、なんか……すごいことになってるぞ!はははっ!!」
「えっ?どんな?」
「身ぐるみ剥がされてる」
「えっ?……あぁ…通常運転じゃん」
ミサトは立ち上がった。
「それはもう、ボダレスだね~」
『はい。ミサト。これぞ正に完全にボダレス案件です』
◇◇◇
➖➖ボダレス入口➖➖
そこには、文字通り、、パンイチの男がいた。
鎧なし、靴なし、荷物なし。
辛うじて下着だけは残されているが、あちこちに殴られた跡があり、涙目だ。
「うぅ……俺は……俺はただ伝令を……」
周囲のボダレス民は興味なさそうに眺めている。
「くっくっ!運が悪かったな」
「持ち物が多すぎた」
「全部置いていけば生きて帰れる。良心的だろ?」
ミサトは顎に手を当てた。
「……うん。やっぱり今日も通常運転」
『はい。ミサト。これは犯罪ではなく文化です』
「いや文化って言うなし!」
ミサトはパンイチ伝令の前に立つ。
「お兄さん、大変だったね~。寒くない?」
「あっ!ミサト様、、さ、寒いです……! でもそれ以上に心が……!」
「そっかぁ。まあでもね」
ミサトは肩をすくめた。
「ここ、ボダレスだから。生きてるだけでお兄さんの勝ちだよ?」
「えっ……?」
『はい。ミサト。慰めとしては最低点です』
「えっ??この街なら最高得点なんじゃないの??あと現実的って言って」
ミサトはしゃがみ込み、男の目を見る。
「んで?んで?? 誰からの伝令かしら?」
男はごくりと喉を鳴らした。
「ラ、ラインハルト王国より……リュウコク王と、ザイール女王ザハラ……」
その瞬間。
ミサトの顔から、すべての緩みが消えた。
「……何?」
空気が変わる。
「り、リュウコク王とザハラ女王……マルディアとの戦いにおいて……」
男は震える声で言った。
「、、敗走しました!!」
世界が、音を失う。
「……は??ごめん…」
ミサトは、ゆっくり立ち上がった。
「負けたって事??リュウコクが?」
男は必死に頷く。
「は、はい……! マルディア軍はそのままラインハルト領内へ侵攻を……」
次の瞬間。
「、、あはは」
ミサトは、笑った。
「ないない。それはないわ~……冗談キツいって…。今すぐ来いって言ったから意地悪してんだろ…あいつ…きっとそうだよ…ねぇ?リリィ??」
『はい。……ミサト?』
「だってさ!!」
ミサトの目が、細くなる。
「リュウコクが……あいつが負けるわけないでしょ」
その声には、リュウコクに対しての疑いが一切なかった。
「よし……わかった!会いに来いって事だな!なら会いに行ってやる!ニア、ゴブちゃん準備して!」
ミサトは踵を返す。
「ラインハルトに向かう」
「えっ、ボス。今すぐ!?」
「今すぐ!本当に敗走してるなら、尚更でしょ!」
だが、、、
数歩進んだところで、ミサトは止まった。
「……」
『はい。ミサト?』
ミサトは、その場で立ち尽くす。
「ん~、、でも……なんかおかしいな……」
呟くように言った。
「本当にマルディアに負けたのならラインハルトが負けた理由が、ない…と思うんだよね…。ほら、、」
指を一本立てる。
「まず一つ。なんでボダレスの民を殺してない?」
指、二本目。
「街だけ燃やした。しかも、、私がボダレスにいる時に……」
三本目。
「リュウコクは、負ける戦をしない。負けず嫌いだから……“勝てない戦”は、するかもだけど…」
四本目。
「負けず嫌いなのに、なぜかみんなに分かるように敗走を“公表”してる」
ミサトは、はっと息を吸った。
「……あぁ。そういうことね~☆」
『はい。ミサト。……結論をどうぞ』
ミサトは、ゆっくり笑った。
「これ、全部、、私へのメッセージだ」
振り返り、伝令を見る。
「ねぇ。伝言、他にもある?」
「は、はい……!このままマルディアはラインハルトへ……」
「うん。分かった!それで十分」
ミサトは、踵を返した。
「ねぇ?誰か紙とペン頂戴!」
『はい。ミサト。……はい?何をするつもりですか?』
「うん。手紙書く」
◇◇◇
即席の机。
ミサトは迷いなく筆を走らせる。
宛名は二つ。
湯ノ花のエルナ。
アルガスのマリー。
内容は短い。
【動いて。準備して。今から盤面をひっくり返す。】
それだけ。
ミサトは紙を畳み、伝令に差し出した。
「これ、アルガスのマリーと湯ノ花のエルナに渡して!渡せば分かるから」
「え……?」
「ほら!早く!!めっちゃダッシュね。途中でまた身ぐるみ剥がされたら、フル○ンで戻って来ていいから!あははっ!」
「ちょっ!ひどくないですか!?えっ?僕、、パンイチで行くの??」
『はい。ミサト。言い回しが非常にひどいです』
ミサトは笑う。
「あははっ!でも、ここに戻れば生きてラインハルトに帰れるでしょ?」
伝令は一瞬迷い、深く頭を下げた。
「……必ず!!」
走り去る背中を見送りながら、リリィがぽつりと言う。
『はい。ミサト。……貴女…』
「ん?どうしたリリィ??」
『貴女……覚醒、始まってません?』
ミサトは、海の方を見た。
穏やかな波。
何も知らない青。
「あはは!始まったんじゃないよ…」
微笑む。
「、、たぶん戻っただけ?かな??」
『はい。ミサト。……戻っただけ、ですか?社畜時代の頃にって事ですか?」
リリィの声は、どこか慎重だった。
「なにその言い方。ホラー映画の“元に戻っただけ”はだいたい一番ヤバいやつなんだけど。日常が戻ったけど“実は~”的なやつ!“ほらっ!後ろだっ!”なんてね☆あははっ!」
ミサトは肩をすくめる。
「大丈夫大丈夫。今回はちょっと勘が冴えただけ」
『はい。ミサト。その“ちょっと”がですね』
リリィの声を遮る様にミサトが話し出す。
「ほら、あるでしょ。仕事辞めた瞬間に有能になる現象。それって上司の使い方が悪かったって事じゃん☆それに似てんじゃないの??」
『はい。ミサト。“似てんじゃないの”って…でもその社畜理論は初耳です』
「えぇぇ~!でもさー、私これからどうなっちゃうのよ~。このまま行くと、朝起きたら“盤面が見える女”とか名乗り始めない??“我が覇道を止めてみろ”とか言い出したら止めてね!」
『はい。ミサト。可能性は否定できませんし、止めません』
「あははっ!そこは止めろよっ!やだなぁ……普通に温泉入って、甘いもの食べて、たまにラッキーで世界救うくらいでいたいのににに」
『はい。ミサト。ですがすでに“たまに”の範疇を超えていますすす』
ミサトは小さく笑った。
「ま、壊れたわけじゃないならいいでしょ」
視線は前へ。
「ちゃんと“私”だし!そこが一番大事☆」
『はい。ミサト。……そこが一番、厄介ですね』
夜風が、二人の間をすり抜けた。
女王は、もう迷わない。
次に動くのは、世界のほうだ。
「よぉー!ビッチッ!何やら忙しくなっちまってんなぁ!!」
唐突に割り込んできたのは、いつもの軽い声だった。
「でもよっ!慌てたって腹は減るし、夜は夜だろ。明日出るなら、ボダレス最後の今日は宴会しとけって!ママにチキン頼んでやるからよっ!」
振り向けば、チャムチャムやボルド。ボダレスの面々が腕を組んで立っている。状況も空気も丸ごと無視した顔だ。
「今すぐ動いたって、夜道は危ねぇしよ。どうせなら食って飲んで寝て、頭すっきりさせてからだろ☆これがボダレススタァァァ~イル♪だろっ」
ミサトは一瞬きょとんとして、それから吹き出した。
「あははっ!……あー、うん。そうだね~。どうせ今急いで行っても“まだやる事ないし”……着いたとてやれる事あるか分からないし…」
考えるより早く、頷く。
「よし、宴会しよ。ボダレス式で。派手に☆チキン大盛りで!!」
「あははっ!おう、決まりな!」
チャムチャムがにっと笑う。
「ねぇ?リリィ。法的にギリギリな西海岸サウンド流してよ☆」
『はい。ミサト。法的スレスレの西海岸AI著作権フリーリリィちゃんMIX流します』
火が起こされ、粋な音楽が流れ、強い酒が運ばれ、街の笑い声と怒声が戻る。
嵐の前だというのに、不思議とミサトの心は静かだった。
明日は戦場へ。
だから今夜は、生きていることを祝う。
続
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