お前との婚約は、ここで破棄する!

ねむたん

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 「公爵令嬢レティシア・フォン・エーデルシュタイン! お前との婚約は、ここで破棄する!」

 華やかな舞踏会の中心で、第三王子アレクシス・ローゼンベルクがそう高らかに宣言した。
 一瞬の静寂の後、会場がどよめく。

 私は心の中でため息をついた。

 これが第三王子のやり方だ。婚約破棄を大勢の前で宣言し、相手に屈辱を与える。それが王子の「勝者」としての証明になるのだ。
 しかも、私に罪を着せるための決め台詞はもう分かっている。

 案の定、アレクシスの隣に立つ純白のドレスを着た少女が、小さく震えながら声を上げた。

 「レティシア様が……私を、いじめたんです……」

 ——ほらきた。

 フローラ・ラングレー子爵令嬢。王子が新しく選んだ「聖女」気取りの令嬢。
 彼女は涙を浮かべながら、震える声で訴えた。

 「私、何もしていないのに……レティシア様が『生意気な平民上がりは王族に相応しくない』って……っ!」

 会場の貴族たちはすぐに私を見る。嘲笑と嫌悪の視線が交差する。

 アレクシスは、まるで「正義の裁判官」のような表情で私を見下ろし、冷たく言い放った。

 「これ以上、貴族社会を乱すお前を許すわけにはいかない。今すぐ王宮から去れ!」

 ざわめきが広がる。貴族たちの視線が、より冷たくなる。

 ——でもね。私は知ってるのよ。
 この茶番の裏側を。

 フローラの「いじめられた」は嘘。
 証拠も証人もある。だが、ここで反論したところで意味はない。
 この場は「王子の権威」を示すための舞台。事実なんて関係ない。

 私はゆっくりと、深いため息をついた。

 そして、優雅に微笑みながら言い放つ。

 「——分かりましたわ」

 場内が静まり返る。

 アレクシスは驚いたように目を見開いた。
 フローラも、計画通りの「泣いて許しを乞う」展開にならなかったことに戸惑っている。

 私はドレスの裾を持ち上げ、貴族らしい完璧な礼をした。

 「この婚約、破棄させていただきます」

 そのまま、くるりと背を向けて歩き出す。
 誰も私を止めない。いや、むしろ「ざまあみろ」と言わんばかりの目で見送っている。

 ——いいわ。それなら、こっちも最強の成り上がりを見せてやる。

 私はこの国を出て、新しい人生を歩むつもりだった。
 だが——その思惑をぶち壊す男が、次の瞬間、私の前に現れた。

 「待て、レティシア・フォン・エーデルシュタイン」

 鋭く低い声に、空気が一変する。
 ——この声は、知っている。

 ゆっくりと振り返ると、そこに立っていたのは——漆黒の軍服を纏った、冷酷無慈悲な帝国の戦神。

 ヴァルター・フォン・エルンスト公爵——最強の騎士であり、全貴族が恐れる男。

 彼は私をまっすぐ見つめ、衝撃の一言を放った。

 「お前は俺の妻になる」

 ……は???

 会場がざわめく。いや、もう大騒ぎだ。
 さっきまで私を蔑んでいた貴族たちが、一斉に顔を青ざめる。

 ヴァルター公爵は、この国で王族に次ぐ権力を持つ男。
 その彼が、婚約破棄されたばかりの私を強引に妻に迎えようとしている。

 アレクシスの顔がみるみるうちに歪んだ。

 「な、何を言っている!? 彼女は……!」

 だが、ヴァルター公爵は一瞥するだけで、王子を一蹴する。

 「貴様のような愚か者が手放した女を、俺が拾って何が悪い?」

 この一言で、アレクシスは完全に言葉を失った。

 私は混乱しながらも、なんとなく分かってしまった。

 ——これは、「逆転の始まり」なのだと。

 婚約破棄された公爵令嬢、なぜか最強の男に溺愛される——この時、私はその渦中に放り込まれたのだった。
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