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しおりを挟む「……やはり、お前はもっと俺に慣れなければならないな」
ヴァルター公爵のその言葉に、私は盛大にむせた。
「げほっ……! ちょっ、公爵!? 何を言ってるんですか!?」
「事実だ。お前は俺の手が触れただけで慌てすぎる」
「いや、それ普通の反応ですよね!? いきなり密着されて冷静でいられる方がどうかしてます!」
「夫婦になるのなら、これくらいで動揺していては困る」
「えっ!? ちょっ、待って!! いつの間に結婚確定したんですか!!?」
私は必死に抗議するが、公爵は淡々と続けた。
「俺の妻になる以上、俺との接触に慣れる必要がある」
「だから、なぜそれが前提になってるんですか!!?」
「お前が拒む限り、俺は何度でも繰り返す」
「なにそれ、無限ループですか!?」
私は頭を抱えた。
この男、冗談抜きで「強引にでも慣れさせる」つもりだ。
さすがにこれ以上は勘弁してほしい——そう思ったその瞬間。
「では、実践形式で慣らしていくとしよう」
「は?」
「お前の部屋を俺の部屋の隣に移した」
「……」
「お前は今日から俺と同じ食事をとり、夜も俺の近くで眠る」
「ちょっと待って!??」
「それが最も早く慣れる方法だからな」
「それはもう護身術関係ないですよね!!??」
私は必死に反論するが、公爵はいつも通りの無表情を崩さない。
むしろ、どこか満足そうにすら見える。
「護身術の一環だ」
「どこがですか!!!」
「身を守るためには、まずは俺に慣れることが必要だ」
「えっ、意味不明なんですけど!!?」
私は真っ赤になりながら、必死に言葉を絞り出した。
「だ、だったら、護衛の人たちと訓練したほうがよくないですか!?」
「お前は俺の妻になるのだから、俺が直々に鍛えるのが当然だ」
「いや、話が飛躍しすぎてません!?」
公爵は腕を組み、冷静に私を見つめた。
「お前は俺が直接指導するのが嫌なのか?」
「……っ!」
その目は、ほんのわずかに影を落としていた。
普段は冷酷で何も感じていないような顔をしているのに。
その目の奥に、一瞬だけ——不安のようなものが見えた気がした。
「……えっと……」
動揺した私は、思わず口ごもる。
その隙を突くように、公爵は静かに言った。
「なら決まりだな」
「ちょっと待って!? 私、まだ何も言って——」
「お前の新しい部屋の準備はすでに整っている」
「話が早すぎます!!!」
「風呂も用意させた。訓練の後は、俺と共に入ることもできる」
「いや、それは絶対に無理です!!!!」
私は全力で拒否するが、公爵はまるで聞く耳を持たない。
「そうか。ならば、入浴はまだ先にするとしよう」
「先にって何!? 予定に入ってるの!?」
「だが、慣れるためにはいずれ必要になる」
「必要ないです!!!!」
「……」
「……」
私は、公爵の無表情としばし睨み合う。
この人、本気で「私を慣れさせる」つもりだ。
護身術とは名ばかりの、ただの溺愛訓練が始まろうとしている——。
そして、その未来を予感した私は、心の底から思った。
——この屋敷から、逃げられない。
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