お前との婚約は、ここで破棄する!

ねむたん

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エーデルシュタイン公爵家がヴァルター公爵邸を訪れた同日、王宮では異様な空気が漂っていた。

——エーデルシュタイン公爵令嬢とヴァルター公爵の正式な婚約が成立した。

この知らせが王宮に届いた瞬間、王族と側近たちはざわつきを隠せなかった。

「……つまり、ヴァルターが、正式にエーデルシュタイン公爵令嬢を婚約者として迎えたということか?」

王座に座るのは、エドモンド・ローゼンベルク国王。
帝国の統治者であり、冷徹な判断力を持つ王。

彼は報告書を手に取り、静かに目を細めた。

「は……」

宰相が、緊張した面持ちで頷く。

「エーデルシュタイン公爵家も婚約を正式に承認し、先ほど署名が交わされたとのことです」

「……」

国王は、短くため息をついた。

「これは……やっかいなことになったな」

彼の横で、第一王子であるクラウス・ローゼンベルクが険しい顔をする。

「父上……これは王家にとって、かなりの痛手ではありませんか?」

クラウス王子は、理知的で冷静な男だ。

「レティシアは、元々第三王子アレクシスの婚約者であった。そして、彼女の婚約破棄によってエーデルシュタイン家との関係に亀裂が入ったばかりだった」

「うむ……」

国王は重々しく頷く。

「それが今、ヴァルター公爵と正式に婚約を結んだ。つまり、エーデルシュタイン家は王家ではなく、ヴァルター側へとついたということになる」

「……!」

側近たちが息を呑む。

——これは、単なる貴族の婚約話ではない。

ヴァルター公爵は、帝国最強の軍事力を持つ男であり、彼自身の権威も王族に次ぐものだ。
さらに、エーデルシュタイン家は国内随一の財力を誇る名門。

それが手を結ぶということは——

「ヴァルター公爵の影響力が、ますます強まるということだな……」

国王は、静かに言った。

「アレクシスの不用意な婚約破棄が、この結果を生んだか」

「……っ」

その言葉に、第三王子アレクシスの顔が強張る。


王宮の会議室を出た後、アレクシスは強く歯を噛みしめていた。

(そんな馬鹿な……)

レティシアが正式にヴァルター公爵の婚約者になった——
その事実を聞いたとき、彼の胸には言いようのない焦燥感が広がった。

(俺は、確かにレティシアを手放した……)

彼はフローラ・ラングレーを選び、レティシアとの婚約を破棄した。
レティシアは気高く、有能だったが、どこか冷たく、アレクシスには近寄りがたい存在だった。

だが、ヴァルター公爵と並ぶ彼女を見たとき——

彼女は決して「冷たい」存在ではなかった。
むしろ、公爵と共にいるときのレティシアは、以前よりもどこか穏やかに見えた。

(あのヴァルター公爵が……本気でレティシアを求めたというのか?)

アレクシスは信じられなかった。

ヴァルター公爵は、冷徹で理知的な男だ。
感情に流されることなどない。

——そんな男が、レティシアを「正式に」迎えた。

その事実が、彼の胸の奥で鈍く響く。

「アレクシス様……」

そのとき、後ろから甘い声が響いた。

「フローラ……」

フローラ・ラングレーが、そっと彼の腕に手を添えた。

「お顔の色が優れませんわ。何か、お悩みですか?」

アレクシスは、一瞬言葉に詰まる。

(俺は——何を悩んでいる?)

彼は、フローラを選んだのだ。

レティシアは、もう自分のものではない。
それなのに——

(俺は、本当にこれでよかったのか?)

アレクシスは、初めて本気で「後悔」の感情に襲われていた。


王宮の中では、すでに次の動きが始まっていた。

「……陛下」

宰相が、慎重な声で進言する。

「ヴァルター公爵がこれほどの影響力を持つ以上、王家としても動くべきではありませんか?」

「うむ……」

国王は、思案深げに顎をなでる。

「ヴァルター公爵が、これ以上の力を持つことを避けるべきだという意見もある」

「ですが、彼は帝国最強の戦力を持つ男。敵に回すことは、帝国の安定を揺るがすことにもなります」

国王は静かに頷いた。

「いずれにせよ、ヴァルター公爵の動向には注視する必要がある」

王家としても、このままヴァルター公爵の影響力を拡大させるわけにはいかない——。

国王は、静かに決断した。

「しばらくの間、ヴァルター公爵との関係を深める方向で動け。王宮に呼び出し、直接話をする機会を作るのだ」

「はっ」

こうして、王家は新たな動きへと乗り出した——。
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