お前との婚約は、ここで破棄する!

ねむたん

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エーデルシュタイン公爵家との正式な婚約を終えた直後、ヴァルター公爵のもとに王宮からの使者が訪れた。

「公爵様、王宮よりお召しでございます」

「……王宮が俺を呼び出すとは、珍しいな」

ヴァルター公爵は、報告を受けながら冷静に呟いた。

「陛下がお会いになりたいとのことです」

「理由は?」

「詳細は伝えられておりませんが、婚約に関するお話があるかと……」

「……」

ヴァルター公爵は沈黙したまま、窓の外を見つめた。

(王家が、俺の婚約に口を挟むか)

——帝国最強の公爵と、王家随一の名門エーデルシュタイン家の結束。

それが王宮にとって”都合が悪い”ことくらい、容易に想像がついた。

「……面白い」

公爵は口元にわずかな笑みを浮かべた。

「分かった。王宮へ向かおう」

ヴァルター公爵が王宮へ到着すると、案内されたのは王宮の謁見の間だった。

そこには、国王エドモンド・フォン・ローゼンベルクが座していた。

その隣には第一王子クラウス、そして第三王子アレクシスの姿もある。

「よく来たな、ヴァルター公爵」

国王の低く威厳ある声が響く。

「突然の召喚、いかなる用件でしょうか?」

ヴァルター公爵は一歩も引かぬ姿勢で、冷静に問いかける。

国王はしばらく彼を見つめた後、静かに切り出した。

「まずは、エーデルシュタイン公爵令嬢との正式な婚約、おめでとうと言っておこう」

「ご配慮、痛み入ります」

公爵は淡々と答える。

「だが、我々としても、この婚約は非常に関心のある出来事でな」

「……王家が、俺の婚約に口を挟むと?」

ヴァルター公爵の瞳が鋭く光る。

「挟むというよりは、“確認” したいのだ」

クラウス王子が言葉を継ぐ。

「ヴァルター公爵、あなたがエーデルシュタイン家と結びつくことで、帝国にとっても大きな影響がある。我々としては、あなたの意図を知りたい」

「意図?」

「あなたは、なぜエーデルシュタイン公爵令嬢を選ばれた?」

その問いに、公爵は静かに目を細めた。

(つまり、これは”警戒”ということか)

エーデルシュタイン公爵家は、元々王家に忠誠を誓っていた。
しかし、その公爵家の令嬢が婚約破棄され、今度はヴァルター公爵と結びついた。

それは、王家にとってエーデルシュタイン家の影響力が王宮から離れつつあることを意味する。

国王は、それを危惧しているのだ。

「理由は単純だ」

ヴァルター公爵は、静かに言った。

「レティシアを、俺が手に入れたかっただけだ」

「……」

「俺は彼女を望んだ。それだけのこと」

ヴァルター公爵の言葉に、王宮の重臣たちは驚いたようにざわついた。

彼ほどの男が、合理的な理由もなく**「ただ彼女を望んだから」**という理由で婚約を結んだ?

国王はしばらく考え込んだ後、重々しく口を開いた。

「……ヴァルター。貴殿は帝国の軍事を担う者でありながら、貴族社会においても大きな影響を持っている」

「承知しております」

「ならば、王家としても貴殿の動きには慎重にならざるを得ない」

「つまり?」

「我々としては、エーデルシュタイン公爵家との結束を”王家にとって有益なもの”としたいのだ」

ヴァルター公爵は、一瞬だけ笑った。

「つまり、俺に王家への忠誠を示せと?」

国王は何も答えなかったが、その沈黙が答えだった。

王家は、ヴァルター公爵の権力がこれ以上拡大することを恐れている。
だからこそ、彼の忠誠を確かめようとしているのだ。

「……ふむ」

ヴァルター公爵は、静かに国王を見据えた。

「陛下、俺は帝国の公爵であり、帝国の防衛を担う者。その立場において、王家を脅かすような真似をするつもりはありません」

「……」

「しかし——」

公爵の瞳が、冷たく光る。

「俺の婚約について、王家が干渉するつもりなら、話は別です」

「……っ!」

その場の空気が張り詰める。

ヴァルター公爵は、一歩も引かぬ姿勢で言い放った。

「レティシアは、俺の婚約者だ。誰にも口を出させるつもりはない」

「……」

国王はじっと彼を見つめる。

やがて——

「……よかろう」

静かに頷いた。

「貴殿が帝国への忠誠を誓う限り、王家は貴殿の婚約に口を挟むことはしない」

「その言葉を、陛下の御意志として承ります」

ヴァルター公爵は、軽く頭を下げる。

こうして、王家とヴァルター公爵の間で微妙な均衡が生まれた。

謁見が終わり、王宮の廊下を歩いていたアレクシスは、強く歯を噛みしめていた。

(……なぜ、あの男が、こんなにも堂々とレティシアを手に入れたのか)

ヴァルター公爵は、一歩も引かず、王家に対しても強気の姿勢を崩さなかった。

それは、彼に”それだけの価値”があるからだ。

そして、レティシアもまた、そのヴァルター公爵に選ばれるほどの存在だった。

(俺は……何を手放した?)

焦燥と後悔が、アレクシスの胸を強く締め付ける。

だが、その思いを振り払うように、彼は拳を握りしめた。

(まだ……終わっていない)

彼の目に、一瞬だけ執着の光が宿った。

——俺は、あのままレティシアを失うつもりはない。

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