お前との婚約は、ここで破棄する!

ねむたん

文字の大きさ
37 / 42
アレクシスの末路

37

しおりを挟む
アレクシスとグリゼルダの結婚生活は、始まったばかりだった。

「おはようございます、グリゼルダ」

「おはようございます、殿下」

グリゼルダは、端正な顔立ちを崩さずに、淡々と返す。

朝食の席についても、二人の間に交わされる会話は少ない。

——それも当然だった。

彼らの結婚は、愛ではなく”必要”によるものだった。

アレクシスは、王家に残るために。
グリゼルダは、“男爵家の娘”から”王族の妻”へと立場を上げるために。

(だが、それでも俺はこの結婚を大切にしなければならない)

アレクシスは、内心でそう強く思う。

「今日の予定は?」

彼は、努めて自然に話しかける。

グリゼルダは、一瞬だけ視線を向け、それから淡々と答えた。

「侍女たちとともに、王宮の礼儀作法や王族の妻としての立ち居振る舞いについて学びます」

「そうか……」

「殿下は?」

「……俺は、特に公務はない」

アレクシスの声に、自嘲の色が滲む。

結婚したとはいえ、彼に与えられる役割は何もなかった。
国王エドモンド・ローゼンベルクは、すでに彼を政治の場から遠ざけている。

(つまり、俺は”名ばかりの王子”ということか)

アレクシスは、静かにナイフを握る。

(それでも、俺はこの結婚を守らなければならない)

もう後がないのだから。


王宮での舞踏会。

「まあ、エルンスト公爵閣下と新しい公爵夫人……」

「お二人とも、とてもお似合いですわね」

ヴァルターとレティシアが社交界に正式に姿を現した瞬間、貴族たちは彼らの洗練された姿に感嘆した。

レティシアは、公爵夫人としての気品を完璧に備えていた。

「ごきげんよう、皆様」

微笑みを絶やさず、上品に会釈する彼女の姿は、社交界においてまさに”理想的な公爵夫人”だった。

一方で、ヴァルターは堂々と彼女をエスコートし、その立ち姿は”王宮に次ぐ実力者”としての風格を見せつけていた。

(彼と共にある限り、私は何も恐れることはありませんわ)

レティシアは、心からそう思った。

「……殿下、舞踏会にはいらっしゃらないのですか?」

侍従が恐る恐る尋ねる。

アレクシスは、静かに首を振った。

「俺のいる場所ではない」

王宮での舞踏会——そこには、かつては自分が中心にいたはずの場が広がっていた。
しかし今、彼は招待こそされているものの、誰も彼に期待していなかった。

「殿下……」

「俺には、グリゼルダがいる」

そう言って、彼は自分を奮い立たせるように妻の元へ向かった。

だが、グリゼルダは淡々とした態度のまま、彼を見つめるだけだった。

「どうしました?」

「……いや、何でもない」

彼女は、“冷静すぎるほど冷静”だった。

(この人は、俺を必要としているのか……?)

不安が、胸の奥に広がる。

しかし、それでも彼には”この結婚を守る”以外の道はなかった。

(もう、俺にはこれしかないのだから)

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

未来の記憶を手に入れて~婚約破棄された瞬間に未来を知った私は、受け入れて逃げ出したのだが~

キョウキョウ
恋愛
リムピンゼル公爵家の令嬢であるコルネリアはある日突然、ヘルベルト王子から婚約を破棄すると告げられた。 その瞬間にコルネリアは、処刑されてしまった数々の未来を見る。 絶対に死にたくないと思った彼女は、婚約破棄を快く受け入れた。 今後は彼らに目をつけられないよう、田舎に引きこもって地味に暮らすことを決意する。 それなのに、王子の周りに居た人達が次々と私に求婚してきた!? ※カクヨムにも掲載中の作品です。

【完結】その溺愛は聞いてない! ~やり直しの二度目の人生は悪役令嬢なんてごめんです~

Rohdea
恋愛
私が最期に聞いた言葉、それは……「お前のような奴はまさに悪役令嬢だ!」でした。 第1王子、スチュアート殿下の婚約者として過ごしていた、 公爵令嬢のリーツェはある日、スチュアートから突然婚約破棄を告げられる。 その傍らには、最近スチュアートとの距離を縮めて彼と噂になっていた平民、ミリアンヌの姿が…… そして身に覚えのあるような無いような罪で投獄されたリーツェに待っていたのは、まさかの処刑処分で── そうして死んだはずのリーツェが目を覚ますと1年前に時が戻っていた! 理由は分からないけれど、やり直せるというのなら…… 同じ道を歩まず“悪役令嬢”と呼ばれる存在にならなければいい! そう決意し、過去の記憶を頼りに以前とは違う行動を取ろうとするリーツェ。 だけど、何故か過去と違う行動をする人が他にもいて─── あれ? 知らないわよ、こんなの……聞いてない!

婚約破棄、承りました!悪役令嬢は面倒なので認めます。

パリパリかぷちーの
恋愛
「ミイーシヤ! 貴様との婚約を破棄する!」 王城の夜会で、バカ王子アレクセイから婚約破棄を突きつけられた公爵令嬢ミイーシヤ。 周囲は彼女が泣き崩れると思ったが――彼女は「承知いたしました(ガッツポーズ)」と即答!

悪役令嬢の私、計画通り追放されました ~無能な婚約者と傾国の未来を捨てて、隣国で大商人になります~

希羽
恋愛
​「ええ、喜んで国を去りましょう。――全て、私の計算通りですわ」 ​才色兼備と謳われた公爵令嬢セラフィーナは、卒業パーティーの場で、婚約者である王子から婚約破棄を突きつけられる。聖女を虐げた「悪役令嬢」として、満座の中で断罪される彼女。 ​しかし、その顔に悲壮感はない。むしろ、彼女は内心でほくそ笑んでいた――『計画通り』と。 ​無能な婚約者と、沈みゆく国の未来をとうに見限っていた彼女にとって、自ら悪役の汚名を着て国を追われることこそが、完璧なシナリオだったのだ。 ​莫大な手切れ金を手に、自由都市で商人『セーラ』として第二の人生を歩み始めた彼女。その類まれなる才覚は、やがて大陸の経済を揺るがすほどの渦を巻き起こしていく。 ​一方、有能な彼女を失った祖国は坂道を転がるように没落。愚かな元婚約者たちが、彼女の真価に気づき後悔した時、物語は最高のカタルシスを迎える――。

婚約破棄!ついでに王子をどん底に突き落とす。

鏡おもち
恋愛
公爵令嬢パルメは、王立学院のパーティーで第一王子リュントから公開婚約破棄を突きつけられる。しかし、周囲の同情をよそにパルメは歓喜した。

【完結】姉に婚約者を奪われ、役立たずと言われ家からも追放されたので、隣国で幸せに生きます

よどら文鳥
恋愛
「リリーナ、俺はお前の姉と結婚することにした。だからお前との婚約は取り消しにさせろ」  婚約者だったザグローム様は婚約破棄が当然のように言ってきました。 「ようやくお前でも家のために役立つ日がきたかと思ったが、所詮は役立たずだったか……」 「リリーナは伯爵家にとって必要ない子なの」  両親からもゴミのように扱われています。そして役に立たないと、家から追放されることが決まりました。  お姉様からは用が済んだからと捨てられます。 「あなたの手柄は全部私が貰ってきたから、今回の婚約も私のもの。当然の流れよね。だから謝罪するつもりはないわよ」 「平民になっても公爵婦人になる私からは何の援助もしないけど、立派に生きて頂戴ね」  ですが、これでようやく理不尽な家からも解放されて自由になれました。  唯一の味方になってくれた執事の助言と支援によって、隣国の公爵家へ向かうことになりました。  ここから私の人生が大きく変わっていきます。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

たいした苦悩じゃないのよね?

ぽんぽこ狸
恋愛
 シェリルは、朝の日課である魔力の奉納をおこなった。    潤沢に満ちていた魔力はあっという間に吸い出され、すっからかんになって体が酷く重たくなり、足元はふらつき気分も悪い。  それでもこれはとても重要な役目であり、体にどれだけ負担がかかろうとも唯一無二の人々を守ることができる仕事だった。  けれども婚約者であるアルバートは、体が自由に動かない苦痛もシェリルの気持ちも理解せずに、幼いころからやっているという事実を盾にして「たいしたことない癖に、大袈裟だ」と罵る。  彼の友人は、シェリルの仕事に理解を示してアルバートを窘めようとするが怒鳴り散らして聞く耳を持たない。その様子を見てやっとシェリルは彼の真意に気がついたのだった。

処理中です...