お前との婚約は、ここで破棄する!

ねむたん

文字の大きさ
38 / 42
アレクシスの末路

38

しおりを挟む
アレクシスは、自室の窓から外を眺めていた。

青空の下、王宮の庭園では貴族たちが談笑し、穏やかな時間を過ごしている。
かつての彼なら、その中心にいたはずだった。

だが今——そこにアレクシスの姿はない。

王宮の誰もが、彼を”いないもの”として扱っているかのようだった。

(……俺は、ここでどう生きていけばいい?)

彼は、静かに拳を握る。

——もう後がない。だからこそ、グリゼルダとの結婚を大切にしなければならない。

彼女との関係を築き、“王宮での居場所”を確保しなければならないのだ。


朝食の席。

アレクシスは、婚約以来、彼女との関係を少しでも良くしようと努力していた。

「昨夜はよく眠れたか?」

「ええ、問題なく」

グリゼルダは、相変わらず淡々と答える。

「そろそろ、社交界にも顔を出そうと思うのだが……お前の意見を聞きたい」

アレクシスは、慎重に言葉を選ぶ。

「……王宮の舞踏会に出席するということですか?」

「ああ。俺たちが正式に夫婦として認められるためにも、出席した方がいいと思う」

彼は、王宮での立場を取り戻すためにも、貴族社会での関係を再構築したかった。

だが、グリゼルダは静かにフォークを置き、アレクシスをじっと見つめた。

「……それは、殿下のためですか?」

「……」

「私たちが夫婦として認められるため、ではなく、殿下が王宮内での立場を取り戻すためではありませんか?」

アレクシスは、言葉を失う。

彼女の言葉は、まさに核心を突いていた。

「私は、王族の妻となったことで、最低限の礼儀を尽くします」

「だが、それ以上は求めないでください」

彼女は、静かに言い切った。

「私がこの結婚を受け入れたのは、私の家のため。そして殿下が”必要だったから”です」

「それ以上の関係を築くつもりは、ありません」

アレクシスの胸に、冷たいものが広がる。

(……つまり、俺たちはただの”契約夫婦”ということか)

彼は、心の奥底で少しだけ期待していたのかもしれない。
“この結婚が、俺の新たな支えになる”と。

だが、グリゼルダは、そんな幻想を最初から持っていなかった。

(俺は……もう、本当に一人なのか)

彼は、グリゼルダの冷たい瞳を見つめながら、何も言えなかった。


エルンスト公爵邸。

「おはようございます、公爵様」

「おはよう、レティシア」

ヴァルター・フォン・エルンストは、微かに微笑みながら彼女を迎えた。

彼らの結婚生活は、順調そのものだった。

結婚後、レティシアは公爵夫人としての仕事を本格的に学び、公爵領の管理に関わり始めていた。

「昨日の視察報告ですが、今年の収穫は例年より良好です。輸出量を増やせるかもしれませんわ」

「そうか。それは朗報だな」

ヴァルターは、書類に目を通しながら頷く。

「君の働きには、私も感謝している」

「当然のことですわ。私は、あなたの妻なのですから」

彼女は、優雅に微笑む。

(ヴァルター様と共に生きることが、私の幸せなのだから)

二人は、まるで最初からずっと夫婦だったかのように息が合っていた。

——それは、王宮で冷え切った夫婦生活を送るアレクシスとは、まるで対照的な光景だった。

アレクシスは、ひとり王宮の廊下を歩いていた。

周囲の貴族たちは、彼を見ると軽く会釈はするが、それ以上話しかける者はいない。

かつては、彼の周囲にはいつも人が集まっていた。
だが、今は——

「……もう、俺には何もないのか」

彼は、廊下の奥に見えた貴族の一団を見つめる。

そこには、かつて自分と親しくしていた者たちがいた。

だが、彼らは彼に気づいても、ただ軽く頷いただけで会話に戻っていった。

(……俺は、もう必要とされていない)

彼は、静かに拳を握る。

——このままでは、俺はただ”王宮の片隅にいるだけの存在”になってしまう。

(何か、しなければ……)

だが、何をすればいいのか。

それが、彼には分からなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

未来の記憶を手に入れて~婚約破棄された瞬間に未来を知った私は、受け入れて逃げ出したのだが~

キョウキョウ
恋愛
リムピンゼル公爵家の令嬢であるコルネリアはある日突然、ヘルベルト王子から婚約を破棄すると告げられた。 その瞬間にコルネリアは、処刑されてしまった数々の未来を見る。 絶対に死にたくないと思った彼女は、婚約破棄を快く受け入れた。 今後は彼らに目をつけられないよう、田舎に引きこもって地味に暮らすことを決意する。 それなのに、王子の周りに居た人達が次々と私に求婚してきた!? ※カクヨムにも掲載中の作品です。

【完結】その溺愛は聞いてない! ~やり直しの二度目の人生は悪役令嬢なんてごめんです~

Rohdea
恋愛
私が最期に聞いた言葉、それは……「お前のような奴はまさに悪役令嬢だ!」でした。 第1王子、スチュアート殿下の婚約者として過ごしていた、 公爵令嬢のリーツェはある日、スチュアートから突然婚約破棄を告げられる。 その傍らには、最近スチュアートとの距離を縮めて彼と噂になっていた平民、ミリアンヌの姿が…… そして身に覚えのあるような無いような罪で投獄されたリーツェに待っていたのは、まさかの処刑処分で── そうして死んだはずのリーツェが目を覚ますと1年前に時が戻っていた! 理由は分からないけれど、やり直せるというのなら…… 同じ道を歩まず“悪役令嬢”と呼ばれる存在にならなければいい! そう決意し、過去の記憶を頼りに以前とは違う行動を取ろうとするリーツェ。 だけど、何故か過去と違う行動をする人が他にもいて─── あれ? 知らないわよ、こんなの……聞いてない!

婚約破棄のその場で転生前の記憶が戻り、悪役令嬢として反撃開始いたします

タマ マコト
ファンタジー
革命前夜の王国で、公爵令嬢レティシアは盛大な舞踏会の場で王太子アルマンから一方的に婚約を破棄され、社交界の嘲笑の的になる。その瞬間、彼女は“日本の歴史オタク女子大生”だった前世の記憶を思い出し、この国が数年後に血塗れの革命で滅びる未来を知ってしまう。 悪役令嬢として嫌われ、切り捨てられた自分の立場と、公爵家の権力・財力を「運命改変の武器」にすると決めたレティシアは、貧民街への支援や貴族の不正調査をひそかに始める。その過程で、冷静で改革派の第二王子シャルルと出会い、互いに利害と興味を抱きながら、“歴史に逆らう悪役令嬢”として静かな反撃をスタートさせていく。

婚約破棄、承りました!悪役令嬢は面倒なので認めます。

パリパリかぷちーの
恋愛
「ミイーシヤ! 貴様との婚約を破棄する!」 王城の夜会で、バカ王子アレクセイから婚約破棄を突きつけられた公爵令嬢ミイーシヤ。 周囲は彼女が泣き崩れると思ったが――彼女は「承知いたしました(ガッツポーズ)」と即答!

悪役令嬢の私、計画通り追放されました ~無能な婚約者と傾国の未来を捨てて、隣国で大商人になります~

希羽
恋愛
​「ええ、喜んで国を去りましょう。――全て、私の計算通りですわ」 ​才色兼備と謳われた公爵令嬢セラフィーナは、卒業パーティーの場で、婚約者である王子から婚約破棄を突きつけられる。聖女を虐げた「悪役令嬢」として、満座の中で断罪される彼女。 ​しかし、その顔に悲壮感はない。むしろ、彼女は内心でほくそ笑んでいた――『計画通り』と。 ​無能な婚約者と、沈みゆく国の未来をとうに見限っていた彼女にとって、自ら悪役の汚名を着て国を追われることこそが、完璧なシナリオだったのだ。 ​莫大な手切れ金を手に、自由都市で商人『セーラ』として第二の人生を歩み始めた彼女。その類まれなる才覚は、やがて大陸の経済を揺るがすほどの渦を巻き起こしていく。 ​一方、有能な彼女を失った祖国は坂道を転がるように没落。愚かな元婚約者たちが、彼女の真価に気づき後悔した時、物語は最高のカタルシスを迎える――。

【完結】姉に婚約者を奪われ、役立たずと言われ家からも追放されたので、隣国で幸せに生きます

よどら文鳥
恋愛
「リリーナ、俺はお前の姉と結婚することにした。だからお前との婚約は取り消しにさせろ」  婚約者だったザグローム様は婚約破棄が当然のように言ってきました。 「ようやくお前でも家のために役立つ日がきたかと思ったが、所詮は役立たずだったか……」 「リリーナは伯爵家にとって必要ない子なの」  両親からもゴミのように扱われています。そして役に立たないと、家から追放されることが決まりました。  お姉様からは用が済んだからと捨てられます。 「あなたの手柄は全部私が貰ってきたから、今回の婚約も私のもの。当然の流れよね。だから謝罪するつもりはないわよ」 「平民になっても公爵婦人になる私からは何の援助もしないけど、立派に生きて頂戴ね」  ですが、これでようやく理不尽な家からも解放されて自由になれました。  唯一の味方になってくれた執事の助言と支援によって、隣国の公爵家へ向かうことになりました。  ここから私の人生が大きく変わっていきます。

たいした苦悩じゃないのよね?

ぽんぽこ狸
恋愛
 シェリルは、朝の日課である魔力の奉納をおこなった。    潤沢に満ちていた魔力はあっという間に吸い出され、すっからかんになって体が酷く重たくなり、足元はふらつき気分も悪い。  それでもこれはとても重要な役目であり、体にどれだけ負担がかかろうとも唯一無二の人々を守ることができる仕事だった。  けれども婚約者であるアルバートは、体が自由に動かない苦痛もシェリルの気持ちも理解せずに、幼いころからやっているという事実を盾にして「たいしたことない癖に、大袈裟だ」と罵る。  彼の友人は、シェリルの仕事に理解を示してアルバートを窘めようとするが怒鳴り散らして聞く耳を持たない。その様子を見てやっとシェリルは彼の真意に気がついたのだった。

婚約破棄!ついでに王子をどん底に突き落とす。

鏡おもち
恋愛
公爵令嬢パルメは、王立学院のパーティーで第一王子リュントから公開婚約破棄を突きつけられる。しかし、周囲の同情をよそにパルメは歓喜した。

処理中です...