お前との婚約は、ここで破棄する!

ねむたん

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アレクシスの末路

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レティシア・フォン・エルンストは、公爵夫人として正式な公務に向かっていた。

「公爵夫人、準備は整いました」

「ありがとうございます」

今日、彼女はエルンスト公爵領の主要な貴族たちとの会合に出席することになっていた。

——これは、ただの顔合わせではない。

公爵夫人としての”実力”を示す場でもあった。

「レティシア、準備はいいか?」

ヴァルター・フォン・エルンストが、彼女の前に立ち、静かに尋ねる。

「ええ、公爵夫人としての務めを果たして参ります」

彼女の瞳は、強い意志を宿していた。

ヴァルターは、満足げに頷く。

「お前なら、うまくやれる」

(私は、この人の妻。公爵家の未来を支える者)

レティシアは、自らの役割を誇りに思いながら、堂々と会場へと向かった。


一方、王宮。

アレクシス・ローゼンベルクは、焦燥感を抱えていた。

(このままでは、本当に何もなくなる……)

彼は、王宮の一角で静かに考えていた。

以前は、彼の周囲には貴族たちが集まり、王宮内でも”次の王妃候補”を巡る話題が尽きなかった。

だが今——

誰も彼の存在を気にしなくなっていた。

(……俺は、このままでいいのか?)

彼は、手近な知人を探すように、王宮の広間へと向かう。

そこでは、貴族たちが談笑し、さまざまな話題で盛り上がっていた。

しかし——

「おや、アレクシス殿下」

彼の姿を見た貴族たちは、一瞬戸惑ったような表情を浮かべた。

(……何だ、この空気は?)

「ご機嫌麗しゅうございます」

貴族の一人が、形式的な挨拶を交わす。

しかし、その後に続く言葉はなかった。

かつてならば、彼に寄ってきた貴族たちが、今は”場の空気を壊さないように”会話を続けているだけ。

(俺は……もう、ここでは”歓迎される存在”ではないのか?)

彼は、次第に自分の居場所がなくなっていくのを感じた。

アレクシスは、朝食の席で、妻であるグリゼルダを見つめていた。

「……お前は、王宮の暮らしには慣れたか?」

「ええ、特に問題はありません」

淡々とした返答。

(……この人は、本当に何も感情を見せない)

彼は、王宮内での孤立を少しでも解消したくて、せめて家庭内の会話を増やそうとしていた。

だが、グリゼルダは常に冷静で、距離を置いていた。

「……俺たちは、夫婦なのだから」

「だから何でしょう?」

彼女は、静かにフォークを置き、アレクシスを見つめる。

「殿下、“夫婦”というものは、信頼関係の上に成り立つものです」

「だが、私たちの間にそれはありますか?」

アレクシスは、言葉を失う。

「あなたは、ただ”王宮での居場所”を求めているだけでしょう?」

「……そんなことはない」

「本当に?」

グリゼルダの瞳は、まるで見透かすようだった。

「あなたは、“私”という存在を大切にしているのではなく、自分の”立場”を守るために、私との結婚を維持しようとしている」

「私は、ただの”王子の妻”であるだけで、“あなたの妻”ではないのでは?」

アレクシスは、何も言えなかった。

(……そうなのかもしれない)

彼女の言葉が、痛いほど突き刺さる。

彼は、グリゼルダとの関係を築きたかったのではなく、“王宮で生き残るために必要だから”彼女と夫婦として振る舞おうとしていただけなのかもしれない。

「……お前は、俺のことをどう思っている?」

恐る恐る、彼は問いかけた。

グリゼルダは、一瞬だけ考え——それから、冷静に答えた。

「……私は、あなたに何の期待もしておりません」

アレクシスの胸が、冷たく締めつけられた。

「私がこの結婚を受け入れたのは、“王族の妻”という立場が必要だったから。それ以上でも、それ以下でもありません」

「……」

「だから、私は最低限の役割は果たします。しかし、それ以上を求めるのならば——」

彼女は、静かに首を振った。

「期待しない方がよろしいかと」

アレクシスの視界が、少し揺れた。

(俺は……本当に、もう何も持っていないのか?)

彼は、言葉を失い、ただグリゼルダを見つめることしかできなかった。

王宮では、すでにアレクシスの存在感は薄れ始めていた。

彼が”何かを変えなければ”、完全に王宮の片隅に追いやられる日が近い。

だが、そのための”支え”を、彼はもう持っていなかった。
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