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アレクシスの末路
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「レティシア様、本日もお疲れ様でした」
「ありがとうございます」
レティシア・フォン・エルンストは、貴族夫人たちとの会合を終え、丁寧に微笑んだ。
——エルンスト公爵夫人としての立場は、ますます確立されつつあった。
この数ヶ月で、彼女は公爵領の貴族たちとの関係を築き、エルンスト家の財政や政策にも関与するようになった。
夫であるヴァルター・フォン・エルンストも、彼女の働きを高く評価していた。
「君の報告を聞くたび、私は安心する」
ヴァルターは、夕食の席で静かに言った。
「エルンスト公爵家は、間違いなく強くなっている」
「光栄ですわ、公爵様」
レティシアは、微笑みながら答えた。
(この家に貢献できることが、私の誇りなのです)
——それは、かつて王宮で王子妃になると期待されていた頃よりも、ずっと確かな幸福だった。
アレクシス・フォン・ローゼンベルクは、一人書類を睨みつけていた。
(俺がこのまま何もしなければ、本当に王宮での立場を失う……)
貴族たちは彼に関心を示さず、王宮内での影響力は日に日に薄れていく。
彼は、どうにか自分の価値を示そうと、“王宮内での役割”を求めた。
「国王陛下、私は公務に復帰したいのです」
数日前、彼は国王エドモンド・ローゼンベルクに直訴した。
だが——
「お前が関与できるものは、もうない」
——冷たく、突き放された。
「私にはまだ、王族としての役割が——」
「お前は、何を成し遂げた?」
国王の目は冷ややかだった。
「お前が王宮で”必要”とされたのは、“エーデルシュタイン公爵家とつながるための婚約者”だったからだ」
「だが、お前はそれを自ら捨てた」
「今のエルンスト公爵夫妻がどれほどの影響力を持っているか、分かっているだろう?」
アレクシスは、言葉を失った。
王宮では、すでにエルンスト公爵夫妻の評判が広がっていた。
レティシアは、公爵家を完璧に支え、ヴァルターはますます国政に関与するようになっている。
その影響で、アレクシスの存在価値は完全に消えつつあった。
「……王宮での公務には、もうお前の居場所はない」
国王の冷たい一言が、アレクシスの胸に突き刺さった。
(……俺には、何も残されていないのか?)
王宮の私室。
アレクシスは、妻であるグリゼルダの前に立っていた。
「……俺は、どうすればいい?」
グリゼルダは、淡々とした表情で彼を見つめる。
「王宮での立場が欲しいのですね?」
「……そうだ」
アレクシスは、すがるような目で妻を見た。
「お前は、どうすれば俺がこの状況を脱せると思う?」
グリゼルダは、一瞬だけ考え、それから静かに答えた。
「——“諦める”ことです」
「……何?」
「殿下、あなたはまだ”王族としての価値がある”と思っていらっしゃるのですか?」
グリゼルダの声は、冷たく響く。
「王族としての役割を失い、社交界での影響力もなく、エルンスト公爵家には完全に追い抜かれた」
「殿下が何かをしようとしても、もはや誰も見向きもしません」
「——あなたが、何かを成し遂げられる可能性は、もう”ゼロ”です」
アレクシスは、信じられない思いで彼女を見た。
「お前は……俺を見捨てるのか?」
「いいえ、私は”現実を受け入れるよう”助言しているだけです」
グリゼルダの声には、感情の一片もなかった。
「殿下、あなたは”必要だったから”私は結婚しました」
「ですが、“あなたが無能なままでいる”ならば……」
彼女は、静かに言葉を継ぐ。
「この結婚を維持する理由すら、なくなります」
アレクシスの顔から、血の気が引いた。
(……この結婚すら、なくなる……?)
彼は、自分が唯一しがみつけるものとして”夫婦関係”を保とうとしていた。
だが、それすらも——
「では、殿下」
グリゼルダは、それ以上何も言わず、ただ席を立つ。
「……」
彼は、その背をただ見送ることしかできなかった。
王宮内での空気は、アレクシスの”存在しないもの”として扱うようになりつつあった。
そして彼自身も、自分がどこに向かえばいいのか、分からなくなっていた。
「ありがとうございます」
レティシア・フォン・エルンストは、貴族夫人たちとの会合を終え、丁寧に微笑んだ。
——エルンスト公爵夫人としての立場は、ますます確立されつつあった。
この数ヶ月で、彼女は公爵領の貴族たちとの関係を築き、エルンスト家の財政や政策にも関与するようになった。
夫であるヴァルター・フォン・エルンストも、彼女の働きを高く評価していた。
「君の報告を聞くたび、私は安心する」
ヴァルターは、夕食の席で静かに言った。
「エルンスト公爵家は、間違いなく強くなっている」
「光栄ですわ、公爵様」
レティシアは、微笑みながら答えた。
(この家に貢献できることが、私の誇りなのです)
——それは、かつて王宮で王子妃になると期待されていた頃よりも、ずっと確かな幸福だった。
アレクシス・フォン・ローゼンベルクは、一人書類を睨みつけていた。
(俺がこのまま何もしなければ、本当に王宮での立場を失う……)
貴族たちは彼に関心を示さず、王宮内での影響力は日に日に薄れていく。
彼は、どうにか自分の価値を示そうと、“王宮内での役割”を求めた。
「国王陛下、私は公務に復帰したいのです」
数日前、彼は国王エドモンド・ローゼンベルクに直訴した。
だが——
「お前が関与できるものは、もうない」
——冷たく、突き放された。
「私にはまだ、王族としての役割が——」
「お前は、何を成し遂げた?」
国王の目は冷ややかだった。
「お前が王宮で”必要”とされたのは、“エーデルシュタイン公爵家とつながるための婚約者”だったからだ」
「だが、お前はそれを自ら捨てた」
「今のエルンスト公爵夫妻がどれほどの影響力を持っているか、分かっているだろう?」
アレクシスは、言葉を失った。
王宮では、すでにエルンスト公爵夫妻の評判が広がっていた。
レティシアは、公爵家を完璧に支え、ヴァルターはますます国政に関与するようになっている。
その影響で、アレクシスの存在価値は完全に消えつつあった。
「……王宮での公務には、もうお前の居場所はない」
国王の冷たい一言が、アレクシスの胸に突き刺さった。
(……俺には、何も残されていないのか?)
王宮の私室。
アレクシスは、妻であるグリゼルダの前に立っていた。
「……俺は、どうすればいい?」
グリゼルダは、淡々とした表情で彼を見つめる。
「王宮での立場が欲しいのですね?」
「……そうだ」
アレクシスは、すがるような目で妻を見た。
「お前は、どうすれば俺がこの状況を脱せると思う?」
グリゼルダは、一瞬だけ考え、それから静かに答えた。
「——“諦める”ことです」
「……何?」
「殿下、あなたはまだ”王族としての価値がある”と思っていらっしゃるのですか?」
グリゼルダの声は、冷たく響く。
「王族としての役割を失い、社交界での影響力もなく、エルンスト公爵家には完全に追い抜かれた」
「殿下が何かをしようとしても、もはや誰も見向きもしません」
「——あなたが、何かを成し遂げられる可能性は、もう”ゼロ”です」
アレクシスは、信じられない思いで彼女を見た。
「お前は……俺を見捨てるのか?」
「いいえ、私は”現実を受け入れるよう”助言しているだけです」
グリゼルダの声には、感情の一片もなかった。
「殿下、あなたは”必要だったから”私は結婚しました」
「ですが、“あなたが無能なままでいる”ならば……」
彼女は、静かに言葉を継ぐ。
「この結婚を維持する理由すら、なくなります」
アレクシスの顔から、血の気が引いた。
(……この結婚すら、なくなる……?)
彼は、自分が唯一しがみつけるものとして”夫婦関係”を保とうとしていた。
だが、それすらも——
「では、殿下」
グリゼルダは、それ以上何も言わず、ただ席を立つ。
「……」
彼は、その背をただ見送ることしかできなかった。
王宮内での空気は、アレクシスの”存在しないもの”として扱うようになりつつあった。
そして彼自身も、自分がどこに向かえばいいのか、分からなくなっていた。
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