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街での第一歩
しおりを挟む神殿を飛び出したリディアの目に映ったのは、自分が想像していた以上に生き生きとした街だった。
冷たい灰色の石レンガで構成された世界しか知らなかった彼女にとって、目の前の街並みは驚きそのものだった。
温かみのある赤煉瓦や土壁が並び、窓には色とりどりの花々が飾られている。通りには笑顔を浮かべた人々が行き交い、あちこちから香ばしいパンやスープの香りが漂ってくる。
「ここが外の世界……」思わずため息が漏れる。心臓が高鳴り、目に映るすべてが輝いて見えた。
リディアは足を進めながら、活気に満ちた露店を覗き込んだ。
果物、布、陶器、どれも彼女が神殿で見てきた無機質なものとは違い、温かみがあり、手作りのぬくもりを感じさせる。
次々に目移りする中で、彼女の視線は商店の一角にある宝石店へと吸い寄せられた。
神殿を出る前、リディアは役立つかもしれないと密かに宝石を数個ポケットに忍ばせていた。
聖女としての仕事で手にしたもので、神殿から持ち出した罪悪感はあったものの、自由を得るための代償だと割り切った。「これで何かに換えられるかも」と意を決し、宝石店の扉を押し開ける。
店内には眩しいほどに光り輝く宝石が並び、穏やかな声で接客をしている初老の店主が彼女に目を留めた。
「何をお探しかな?それとも何か売りに?」
リディアは緊張しながらもポケットから宝石を取り出し、そっと店主の前に置いた。「これを換金してほしいんです」
店主は驚いた様子で宝石を手に取り、じっくりと眺めた。
「……なるほど。立派なものだな。少々待っていてくれ」
奥の部屋に姿を消した店主を待つ間、リディアは店内を見渡しながらそわそわと足を揺らした。
やがて店主が戻ってきて、小さな袋を手渡した。「これが君の宝石の価値だよ。中身を確認してごらん」
リディアは袋を開け、金貨と銀貨が揺れる音を聞いた。
神殿では一度も目にしたことのない光景に胸が高鳴ったが、同時に違和感が芽生えた。手に取った金貨は、彼女の知るものとは微妙に異なっていたのだ。
描かれている紋章や刻印がどこか馴染みがない。
「これ、少し変わってませんか?」と恐る恐る尋ねたが、店主は優しく微笑んだ。「普通にこの辺りで使われている貨幣だよ。安心して、どこでも使えるよ」
リディアは納得しきれない気持ちを抱えつつ、深く追求はしなかった。神殿に閉じ込められているうちに世の中が変わったのかもしれない、と自分に言い聞かせる。
「ありがとうございます」礼を言って店を出ると、胸ポケットに袋をしまいながら小さく息を吐いた。「これで、もっと自由になれる」
街のざわめきに包まれながら、リディアは次にどこへ向かうべきかと心を躍らせていた。
やがて目に留まるのは、賑わいを見せる市場や、楽しげな音楽の響く酒場。
初めて手にした自由と金貨で、彼女は新しい世界への一歩をさらに踏み出したのだった。
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