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不思議な地図
しおりを挟むリディアは露店を数日休むことにして、街をぶらぶらと散策していた。
魔物の襲撃が終わった後の街にはどこか緩やかな安堵感が漂い、人々は思い思いの場所でくつろいだり、新しい話題に夢中になっていた。
そんな空気に誘われるように、リディアもふと骨董品屋の前で足を止めた。
「…なんだか面白そう。」
木製の扉を押すと、古ぼけた家具や装飾品がところ狭しと並べられた店内には、ほんのり香ばしい木の匂いが漂っていた。
無口な店主はちらりとリディアに目を向けただけで、再び本のページをめくる。
リディアは特に目的もなく店内を歩き回り、小さな彫刻や銀のランプを眺めていた。
すると、隅の棚で一枚の古びた地図が目に留まる。黄ばんだ紙には雑然とした線が描かれ、何かしらの場所が示されているようだが、その内容はまるで解読不能だった。
手に取ると、リディアはその地図に温かみのような奇妙な感覚を覚えた。
「それはただの飾り物さ。」
不意に店主の声が飛ぶ。「誰も意味を解読できない地図だ。気味が悪いって誰も買おうとしない。」
だが、リディアがもう一度地図を覗き込むと、紙の上に突如として矢印が浮かび上がった。
さらにその下に、「目的地:ここだ」と小さな文字が現れた。リディアの目はぱちくりと瞬く。
「これ、動いてる?」
店主は驚いた様子で顔を上げると、地図を覗き込んだが、彼の目には何も見えていないようだ。ただ首をかしげるばかりだ。
「…なんだ、どうした?」
「いえ、これいただきます。」
リディアはその場で代金を払い、地図を大事に抱えて店を出た。
宿に戻ったリディアは、机に地図を広げてしばらく眺めた。
矢印は動き続け、目的地を示しているらしい。その場所には「ドラゴンの牙」と書かれた文字が浮かび上がっている。
「ドラゴンの牙…何に使うんだろう?」
考え込むリディアの目は、次第に冒険心で輝き始めた。新しいポーションの素材を探すのは、彼女にとって興奮そのものだ。
「よし、決まり!」
リディアはポーション作りの道具を手早くまとめると、翌朝一番で街を出る計画を立てた。
矢印の示す方向は街外れの深い森の奥。彼女の小さな冒険が、今まさに始まろうとしていた。
朝陽が差し込む宿の窓辺で、リディアは荷物の最終確認をしていた。
ポーション作りの道具、乾燥させた薬草の小袋、そして昨日手に入れた不思議な地図。すべてがぴったりとリュックに収まり、準備は万端だ。
心の中で「冒険が始まるんだ」と何度も繰り返すたびに、胸の高鳴りは止まらなかった。
「本当に行くのかい?」
宿の主人が、食堂のカウンター越しにリディアへ声をかけた。
小柄なリディアをいつも親しげに見守ってくれていた主人は、彼女が街に飛び込んできた日のことを今もよく覚えている。
「はい。新しいポーションの素材を見つける旅です!」
リディアは満面の笑みで答えた。主人の紹介で露店を借り、彼のおかげで街の人々ともすぐに打ち解けることができた。
彼はリディアにとって最初の恩人とも言える存在だ。
「そっか。寂しくなるなぁ。」
主人は少しだけ眉を下げたが、リディアの瞳に宿る冒険心を見て、すぐに笑みを浮かべた。「けど、あんたが楽しそうならいい。困ったことがあったらいつでも戻っておいで。」
「ありがとうございます!」
リディアは深々と頭を下げた後、カウンター越しに差し出されたパンと果物の包みを受け取った。
旅のお供だと、主人が気を利かせてくれたものだ。
宿を出て、石畳の街路を歩くリディアは、いつも見慣れた風景が今日は少し違って見えた。
これまでとは違う場所へ、自分の足で向かうのだと思うと、すべてが新鮮に思える。店主たちの呼び声や道端の会話が賑やかな街を抜け、ついに門の前にたどり着いた。
大きな木製の街門がゆっくりと開き、外の景色が広がる。
初めて訪れたこの街で感じたわくわくした気持ちが、またリディアの中で膨らんだ。
「よーし!」
地図を手に掲げ、リディアは大きく息を吸い込んだ。青空の下、風がふわりと髪を撫でる。
リュックを背負い直して一歩を踏み出すと、彼女の足取りは軽く、地図が示す方向へと向かう道は明るく広がっていた。
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