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騎士団にて
しおりを挟むリディアの手元の地図は、青白く輝く矢印を描き続けている。矢印は街から少し離れた森の中を指し示していた。
地図を眺めながら歩くたびに、胸は冒険への期待で弾むものの、森の入り口に差し掛かるとさすがにその暗さに足が止まった。
「うわ、思ったより…暗いなあ」
森の中は昼間にもかかわらず薄暗く、背の高い木々が日差しを遮っている。
風が吹くたびに葉が揺れ、ザワザワとした音が耳に届く。リディアは小さく息をつき、肩のリュックをぎゅっと握り直した。
「よし、大丈夫。魔物避けの鈴もあるし!」
腰に結んだ小さな鈴を指でつまみ、軽く振ってみる。
鈴は優しい音を響かせ、リディアの気持ちを少しだけ和らげた。この鈴は神殿で修行していた頃に作ったもので、簡単な魔除けの効果がある。
しかし、一人で歩く静かな森はどうしても心細い。リディアは鈴を振るたびに出る音で気を紛らわせるように、森の小道を歩き続けた。
途中で鳥のさえずりや、小さな動物が茂みを駆け抜ける音が聞こえてきたけれど、それすらも少し怖く思える。
「こんなとき、誰かがいてくれたらなあ…いやいや、一人旅なんだから強くならなくちゃ」
自分を励ましながら足を進めていくと、目の前に木々の隙間から石造りの構造物が見えてきた。
「これって…遺跡?」
リディアの目の前に現れたのは、苔むした古い石の建物だった。崩れかけた柱や、ひび割れた石畳がその歴史を物語っている。
小さなアーチ型の入口がぽっかりと開いていて、その奥からほんのりと薄青い光が漏れていた。
「間違いない、この地図が示してた場所だ!」
リディアは胸の高鳴りを抑えながら、そっと遺跡の入口に近づいた。
入口を覗き込むと、ひんやりとした空気が流れ出てきて、全身が一瞬で鳥肌に包まれる。
一歩を踏み出すのをためらったが、リュックに詰めたポーションや鈴を確認し、勇気を振り絞って遺跡の中に足を踏み入れた。
薄暗い空間の中、石の壁には古い文字や紋様が刻まれていて、どこか神秘的な雰囲気が漂っている。
「ここで新しい材料が見つかるかも…!」
リディアは期待に胸を膨らませながら、地図の矢印が指す方向へと進んでいった。
街の中心にある騎士団本部。
その玄関をくぐると、重厚な空気と規律正しさが漂っている。その一室で、熊騎士ことハーゲンは不機嫌そうに腕を組んでいた。
「いない、だと?そんな馬鹿な。露店に店を出していたあの少女が、突然姿を消すなんてことがあるか?」
同僚たちが首を横に振る中、ハーゲンはため息をついた。彼は街中でリディアを探していた。
あの治癒ポーションの効果を目の当たりにし、さらに直接治癒の力を使える彼女がいれば、騎士団の活動が格段に楽になると確信していたのだ。
「治癒魔法を使えるやつなんて、この世界にそうはいない。絶対どこかに隠れてるはずだ」
ハーゲンは苛立ちを隠さず、地図を広げて街のどこにリディアが行った可能性があるかを考え続けた。
「ハーゲンさん、彼女は旅に出たんじゃないでしょうか」
若手の騎士が遠慮がちに口を挟むと、ハーゲンは思わず顔をしかめた。
「旅だと?あんなちっこい子が、たった一人で?」
「でも、露店を畳んでいたのを見た人がいます。しかも、宿をチェックアウトしたとも聞きました」
報告を聞いて、ハーゲンはさらに眉をひそめる。リディアが自ら街を出た可能性が高いとなれば、話はややこしい。
騎士団として彼女を確保する理由はないものの、その能力が自分たちの助けになることは間違いなかった。
「くそ、もっと早く動いていれば…いや、今さら言っても仕方ない。ひとまず彼女が行きそうな場所を洗い出すぞ」
しかし、彼らがリディアの足取りを探り始めた矢先、本部に急報が届いた。伝令が駆け込んでくると、その表情は険しい。
「緊急です!郊外で魔物の動きが活発化しています。各隊、ただちに出動の準備を!」
その報告に、室内の空気が一気に張り詰めた。
「チッ、こんなときに…」
ハーゲンは舌打ちし、地図を畳んで立ち上がる。リディアの捜索は後回しだ。
まずは自分たちの使命を果たさなければならない。
「総員、出動だ!リディア探しは後回しだが…またいずれ会うことはあるだろう。どこへ行っても噂になればわかるさ」
熊のようなその大きな背中を揺らしながら、ハーゲンは部屋を出て行った。
彼らが街を出ていく中で、リディアはまだ自分が追われていることも知らず、遺跡の中で新たな冒険に心を躍らせていた。
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