脱走聖女は異世界で羽をのばす

ねむたん

文字の大きさ
40 / 209

熊騎士の提案

しおりを挟む
秘密基地の中、リディアは完成したばかりのMPポーションを手に取り、瓶越しに中の青い液体を眺めた。
それは深い海を思わせる透明感を放ち、光を受けるたびにきらきらと輝いている。

「完璧ね。これなら、あの頑固な熊騎士も納得するでしょう」そう言って満足げに笑みを浮かべた。

メリーちゃんが「メェ」と小さく鳴き、リディアの足元に寄り添う。リディアはそのふわふわの毛を撫でながら、「さて、熊騎士に会う準備をしなきゃ」と呟いた。
冒険者ギルドの伝言サービスを使い、ハーゲンへのメッセージを託す。「ダンジョンの出口で待ってます。交渉の席を用意するわ」と。


翌日、リディアはいつものお気楽な笑顔を浮かべながら、ダンジョンの出口近くで待っていた。
しばらくして、ハーゲンと数人の騎士が姿を現す。彼らの鎧は磨き上げられており、どこか緊張感が漂っていた。

「やあやあ、熊騎士さん」リディアは片手をひらひらと振り、軽やかに声をかける。
もう片方の手にはMPポーションが握られていた。
「これを見てちょうだい。世界一の出来栄えでしょう?」瓶をハーゲンに向けて差し出し、誇らしげに胸を張る。

ハーゲンは静かにそのポーションを受け取り、リディアの説明を聞き、瓶を傾けて中身をじっくりと観察した。「悪くない」と短く言い、真剣な表情のまま瓶を手の中で回す。

「でしょう?これさえあれば、緊急時の魔力切れなんて怖くない。これで全部解決よね?」リディアは得意げに言いながら、ハーゲンの反応をうかがった。

しかし、ハーゲンはポーションをしまいながら眉をひそめた。
「確かに有用だ。だが、それだけじゃ足りない」

その一言に、リディアの笑顔が少し引きつる。「えっ、これでも足りないってどういうこと?こんなに完璧なポーションなのに?」

ハーゲンはゆっくりと頭を振った。
「お前の治癒魔法の重要性を、軽く見るわけにはいかないんだ。直接の治癒は、状況によってはポーション以上に必要になる」

リディアは内心でぎくりとしながら、表情を整えた。
「それでも、私には自由があるの。治癒魔法を振りまいてばかりじゃ、いつか私が消耗しきっちゃう」

「だからこそ、提案がある」
ハーゲンは真剣なまなざしをリディアに向けた。「お前を騎士団に縛るつもりはない。だが、緊急時には協力してくれ。それも、契約冒険者としてだ」

「契約冒険者?」リディアは怪訝そうに首をかしげる。

「そうだ。お前の自由を尊重しつつ、必要なときだけ力を貸してくれればいい。その代わり、俺たちはきちんと対価を支払い、お前の安全を守る」

リディアはハーゲンの提案を聞き、少しの間黙り込んだ。メリーちゃんが足元で「メェ」と鳴き、彼女を見上げている。

「つまり、好きなときに好きなことをしていいってこと?私の秘密基地だって探らないし、追いかけ回さない?」

「ああ、約束する」ハーゲンはうなずき、その大きな手をリディアに差し出した。「どうだ?」

リディアはその手を見つめ、少し考えた後で小さくうなずいた。
「じゃあ…緊急時だけよ。本当に必要なときだけ」

ハーゲンの顔にわずかに安堵の色が浮かぶ。「それで十分だ」

こうして二人の間に新たな協定が結ばれた。リディアは自分の自由を守りながら、必要最低限の協力を提供する契約冒険者としての道を選んだ。


その夜、秘密基地に戻ったリディアは、ふわふわの毛布にくるまりながらメリーちゃんを抱きしめていた。
「結局、まだ縁が切れないなんてね。でもまあ、悪くない取引だったかな」

メリーちゃんが「メェ」と返し、リディアの手にあるMPポーションの瓶を小さく舐める。
その穏やかな光景が、彼女の日常にまた一つ小さな安心感をもたらしていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

【完結】期間限定聖女ですから、婚約なんて致しません

との
恋愛
第17回恋愛大賞、12位ありがとうございました。そして、奨励賞まで⋯⋯応援してくださった方々皆様に心からの感謝を🤗 「貴様とは婚約破棄だ!」⋯⋯な〜んて、聞き飽きたぁぁ! あちこちでよく見かける『使い古された感のある婚約破棄』騒動が、目の前ではじまったけど、勘違いも甚だしい王子に笑いが止まらない。 断罪劇? いや、珍喜劇だね。 魔力持ちが産まれなくて危機感を募らせた王国から、多くの魔法士が産まれ続ける聖王国にお願いレターが届いて⋯⋯。 留学生として王国にやって来た『婚約者候補』チームのリーダーをしているのは、私ロクサーナ・バーラム。 私はただの引率者で、本当の任務は別だからね。婚約者でも候補でもないのに、珍喜劇の中心人物になってるのは何で? 治癒魔法の使える女性を婚約者にしたい? 隣にいるレベッカはささくれを治せればラッキーな治癒魔法しか使えないけど良いのかな? 聖女に聖女見習い、魔法士に魔法士見習い。私達は国内だけでなく、魔法で外貨も稼いでいる⋯⋯国でも稼ぎ頭の集団です。 我が国で言う聖女って職種だからね、清廉潔白、献身⋯⋯いやいや、ないわ〜。だって魔物の討伐とか行くし? 殺るし? 面倒事はお断りして、さっさと帰るぞぉぉ。 訳あって、『期間限定銭ゲバ聖女⋯⋯ちょくちょく戦闘狂』やってます。いつもそばにいる子達をモフモフ出来るまで頑張りま〜す。 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結まで予約投稿済み R15は念の為・・

【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!

チャらら森山
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。 お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

私は聖女(ヒロイン)のおまけ

音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女 100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女 しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。

本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜

あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい! ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット” ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで? 異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。 チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。 「────さてと、今日は何を読もうかな」 これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。 ◆小説家になろう様でも、公開中◆ ◆恋愛要素は、ありません◆

処理中です...