脱走聖女は異世界で羽をのばす

夢のような散策

リディアとメリーちゃんは、チョコレート色の葉が積もる小道を進んでいく。

砂糖がまぶされたような粉雪のチョコレートがちらちらと降り、木々の間から溶けかかった板チョコのような枝が垂れている。先ほど摘んだチョコの実を味わいながら、リディアは時折頰をほころばせた。

「これ、本当に夢みたい…。この木も全部チョコだし、足元の地面だって、踏むたびに甘い香りがするんだもん！」
鼻歌を交えながらリディアは目を輝かせ、ふわふわのメリーちゃんも嬉しそうにその小道を行き来する。
周囲にはホワイトチョコの花が可憐に咲き、淡いピンクに染まったストロベリーチョコの花も混ざっている。

「見て見て、メリーちゃん！」
リディアが指をさす先には、小川のようにゆるやかに流れるミルクチョコの川があった。チョコレートのお魚もチラリと見える。
リディアは思わず近づいて、少しだけ舐めてみたい衝動に駆られたが、「さすがにこれは流れちゃってるし…飲みすぎたらお腹壊しそう」と自制して、一歩後ずさった。

メリーちゃんは川辺に咲く花をくんくんと嗅いでいる。綿菓子毛をふわりと揺らし、青い瞳を瞬かせながら、まるで「こっちもすごいよ！」とリディアを誘うようだった。

「うん、そっちも見てみよう！」リディアは笑顔で応じ、小川に沿って歩いていく。辺りにはキャラメルのような淡い茶色の木や、ビターチョコそっくりの焦げ茶色の枝が並んでいて、ほんのり温かい空気が漂うように感じられた。

ふと、足元の苔のようなものに目を止めるリディア。「これ、苔じゃなくて…チョコクランチかな？」彼女はそっとひとかけらを拾い、口の中へ入れる。カリッと音がして、甘さとほろ苦さが口いっぱいに広がった。

「うう…美味しい！ほんとにどこまでが地面で、どこまでが食べられるのか分かんないよ～」と思わずはしゃぐリディアの声を聞いて、メリーちゃんは楽しそうに「メェ！」と合いの手を入れる。

二人でチョコレートの森を散策しながら、リディアはちょっとした『お土産』を集めることにした。
甘くて珍しいチョコの枝葉や、花びらをいくつか摘み取り、綿菓子毛の中にしまう。「秘密基地に戻ったら、アラニスに見せたいなあ。きっとあの人の腕なら、もっとすごい魔法のキャンディを作ってくれるかも！」

リディアの胸は期待と幸せでいっぱいだ。チョコレートが溢れるこの森でのひとときは、まさに夢のように甘くて楽しい。そんな二人を包みこむかのように、柔らかな風が甘い香りを運んでいた。

「さて、もう少し先に進んでみようか。もしかしたら、もっと珍しいチョコがあるかも！」メリーちゃんと視線を交わし合うと、二人はにこにこ顔で歩き出した。森の奥へと続く小道には、まだ未知の甘くて不思議な世界が待っている気がする──そんな予感が、リディアの心をさらに弾ませていた。