131 / 209
猫の集会所
しおりを挟む秘密基地に戻ったリディアは、さっそくキッチンに青い花とレシピを並べた。木製のテーブルには、メリーちゃんが次々と取り出してくれたポーションの材料も整然と並んでいる。キッチンの棚には、リディアお気に入りの道具が揃っていた。
「よし、まずは青い花を煮出すところからだね!」
リディアは気合を入れて、レシピを読みながら準備を始めた。青い花をそっと湯に浸すと、花びらがゆっくりと開き、淡い光を放ちながら色がにじみ出していく。
「わあ、きれい……こんな風になるなんて!」
彼女は感動しつつ、次の工程に進むために手を動かし続けた。慎重に花を取り出し、その抽出液を透明な瓶に移し替える。続いて、他の材料――森で採集したハーブや特製エキスを加え、丁寧にかき混ぜていく。
メリーちゃんはキッチンの隅でふわふわの毛を揺らしながら、リディアの動きを見守っていた。一方、タフィーちゃんはテーブルの端でぷるぷると体を揺らし、時折甘い香りを漂わせながら楽しげに跳ねている。
「次は温度を調整して……少しだけ冷ましたら完成かな!」
リディアはレシピに書かれた指示通りに作業を進め、最後に青紫色の液体をガラス瓶に注いだ。その液体は微かに光を帯び、まるで夜空の星を閉じ込めたような美しさだった。
「できた! これがまたたびポーション……!」
リディアは完成したポーションを手に取り、じっくりと眺めた。その鮮やかな色合いに、彼女は胸が高鳴るのを感じた。
「でも、本当にこれが効くのかな?」
小さくつぶやくと、メリーちゃんが「メェ!」と自信たっぷりに鳴いた。リディアは笑顔を浮かべ、タフィーちゃんにもポーションの瓶を見せる。
「試す機会はきっとギルドに行ったらすぐあるよね。効果が楽しみ!」
秘密基地の中で試しようのない状況に少し物足りなさを感じつつも、リディアは完成したポーションを丁寧に収納した。
「よし、明日はこれを持ってギルドへ行こう。依頼主さんがどんな反応するか楽しみだな!」
リディアはテーブルを片付けながら、小さな冒険を達成した満足感で胸を膨らませていた。
翌朝、リディアは完成したまたたびポーションを手に冒険者ギルドへ向かった。ギルドの受付には、依頼主の錬金術師が待っていた。歳若いが少し影のある雰囲気の青年で、控えめに微笑みながらリディアを迎えた。
「完成したのですね。ありがとうございます。このポーション、ぜひ猫の集会所で試してみましょう。」
「猫の集会所? そんな場所があるんですか?」
リディアは目を輝かせた。猫好きのリディアにとって、それは思わず胸が高鳴る響きだった。
錬金術師は頷きながら地図を広げ、指先で小さな森の中の場所を指した。
「ええ。森の奥に猫たちが自然と集まる場所があるんです。静かで安全な場所なので、彼らもリラックスして過ごしています。ポーションの効果を試すにはぴったりでしょう。」
「わあ、楽しみ! さっそく行きましょう!」
リディアの弾けるような声に、メリーちゃんが「メェ!」と鳴き、タフィーちゃんも体をぷるんと揺らして応えた。
森の中は静かで、木漏れ日が差し込むたびに草の葉が輝いていた。錬金術師が先導し、リディアたちは道を進んでいく。やがて木々が少し開けた場所にたどり着いた。
「ここです。」
錬金術師が指差した先には、小さな岩場や木の根元でくつろぐ猫たちの姿があった。黒、白、茶色――さまざまな毛色の猫たちがのんびりと過ごしている。
「わあ、たくさんいる!」
リディアは興奮を抑えきれず、そっと近づいた。猫たちは最初、彼女たちに警戒するような目を向けたが、錬金術師が持参していた小さなポーションの瓶を取り出すと、次第に興味を示し始めた。
「リディアさん、あなたが作ったポーションを試してみてください。」
錬金術師の言葉に、リディアは瓶をそっと取り出し、地面に数滴垂らした。淡い光を放つ液体が落ちると、ふわりと甘い香りが広がった。
「ニャー!」
一匹の茶トラ猫が真っ先に駆け寄り、地面をクンクンと嗅ぎ始めた。それを見たほかの猫たちも次々と集まり、リディアの周りに円を作るように群がってきた。
「すごい……本当に効いてる!」
リディアは驚きと感動で胸がいっぱいになった。猫たちはまるでポーションに酔ったかのようにリラックスし、時にはリディアの膝に乗ったり、足元にすり寄ったりして甘えてきた。
「ねこまみれだ……!」
リディアは笑顔を浮かべ、メリーちゃんも猫たちに囲まれて「メェ!」と嬉しそうに鳴いている。タフィーちゃんはチョコレート色の体をぷるぷると揺らし、猫たちが好奇心から鼻先を近づけてくるのを楽しそうに受け入れていた。
錬金術師は静かにその光景を見つめ、満足げに頷いた。
「さすがですね。完璧なポーションです。これで私も幸せになれます。ありがとうございます、リディアさん。」
「こちらこそ! こんな素敵な経験ができるなんて思わなかったです!」
猫たちの集会所でのひとときは、リディアにとって忘れられない思い出となった。彼女の心には、またたびポーションがもたらした奇跡と、猫たちの柔らかなぬくもりがしっかりと刻まれていた。
0
あなたにおすすめの小説
転生能無し少女のゆるっとチートな異世界交流
犬社護
ファンタジー
10歳の祝福の儀で、イリア・ランスロット伯爵令嬢は、神様からギフトを貰えなかった。その日以降、家族から【能無し・役立たず】と罵られる日々が続くも、彼女はめげることなく、3年間懸命に努力し続ける。
しかし、13歳の誕生日を迎えても、取得魔法は1個、スキルに至ってはゼロという始末。
遂に我慢の限界を超えた家族から、王都追放処分を受けてしまう。
彼女は悲しみに暮れるも一念発起し、家族から最後の餞別として貰ったお金を使い、隣国行きの列車に乗るも、今度は山間部での落雷による脱線事故が起きてしまい、その衝撃で車外へ放り出され、列車もろとも崖下へと転落していく。
転落中、彼女は前世日本人-七瀬彩奈で、12歳で水難事故に巻き込まれ死んでしまったことを思い出し、現世13歳までの記憶が走馬灯として駆け巡りながら、絶望の淵に達したところで気絶してしまう。
そんな窮地のところをランクS冒険者ベイツに助けられると、神様からギフト《異世界交流》とスキル《アニマルセラピー》を貰っていることに気づかされ、そこから神鳥ルウリと知り合い、日本の家族とも交流できたことで、人生の転機を迎えることとなる。
人は、娯楽で癒されます。
動物や従魔たちには、何もありません。
私が異世界にいる家族と交流して、動物や従魔たちに癒しを与えましょう!
異世界に落ちたら若返りました。
アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。
夫との2人暮らし。
何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。
そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー
気がついたら知らない場所!?
しかもなんかやたらと若返ってない!?
なんで!?
そんなおばあちゃんのお話です。
更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。
召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。
SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない?
その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。
ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。
せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。
こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。
私は、聖女っていう柄じゃない
波間柏
恋愛
夜勤明け、お風呂上がりに愚痴れば床が抜けた。
いや、マンションでそれはない。聖女様とか寒気がはしる呼ばれ方も気になるけど、とりあえず一番の鳥肌の元を消したい。私は、弦も矢もない弓を掴んだ。
20〜番外編としてその後が続きます。気に入って頂けましたら幸いです。
読んで下さり、ありがとうございました(*^^*)
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
【完結】そして異世界の迷い子は、浄化の聖女となりまして。
和島逆
ファンタジー
七年前、私は異世界に転移した。
黒髪黒眼が忌避されるという、日本人にはなんとも生きにくいこの世界。
私の願いはただひとつ。目立たず、騒がず、ひっそり平和に暮らすこと!
薬師助手として過ごした静かな日々は、ある日突然終わりを告げてしまう。
そうして私は自分の居場所を探すため、ちょっぴり残念なイケメンと旅に出る。
目指すは平和で平凡なハッピーライフ!
連れのイケメンをしばいたり、トラブルに巻き込まれたりと忙しい毎日だけれど。
この異世界で笑って生きるため、今日も私は奮闘します。
*他サイトでの初投稿作品を改稿したものです。
聖女なんかじゃありません!~異世界で介護始めたらなぜか伯爵様に愛でられてます~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
川で溺れていた猫を助けようとして飛び込屋敷に連れていかれる。それから私は、魔物と戦い手足を失った寝たきりの伯爵様の世話人になることに。気難しい伯爵様に手を焼きつつもQOLを上げるために努力する私。
そんな私に伯爵様の主治医がプロポーズしてきたりと、突然のモテ期が到来?
エブリスタ、小説家になろうにも掲載しています。
若返ったオバさんは異世界でもうどん職人になりました
mabu
ファンタジー
聖女召喚に巻き込まれた普通のオバさんが無能なスキルと判断され追放されるが国から貰ったお金と隠されたスキルでお店を開き気ままにのんびりお気楽生活をしていくお話。
なるべく1日1話進めていたのですが仕事で不規則な時間になったり投稿も不規則になり週1や月1になるかもしれません。
不定期投稿になりますが宜しくお願いします🙇
感想、ご指摘もありがとうございます。
なるべく修正など対応していきたいと思っていますが皆様の広い心でスルーして頂きたくお願い致します。
読み進めて不快になる場合は履歴削除をして頂けると有り難いです。
お返事は何方様に対しても控えさせて頂きますのでご了承下さいます様、お願い致します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる